近くのベンチに腰かけてスポドリを一口飲み込む。
「まぁ、まずは松岡の話だ」
「凛がどうかしました?」
「アイツをメドレーのメンバーから外そうと思う」
御子柴さんの言葉に缶を強く握りしめる。
「凛は今、ベストじゃないって…ことっすか?」
「あぁ」
「どうしてそれを俺に?」
嫌な予感はしていた。
あの電話からも…
「お前だったらベストじゃないアイツを出したか?」
「出しませんよ。負ける試合をするなんて…馬鹿がやることっすから」
「そうか…」
夜風が俺達の間を吹き抜ける。
「アイツ…これで折れるか?」
「どうっすかねー…けどまぁ、ここで折れたらそれだけに人間だったってことじゃないっすか?」
「案外冷たいな、お前」
乾いてきた口を潤して溜息をつく。
「中途半端なことは好きじゃないんすよ」
「そうか…」
「まぁ…凛が遙さんたちと泳ぐ姿見たいとは思いますよ?きっと、凛は楽しそうに笑うだろうなって…けど…」
指先で缶を叩きながら空を仰ぐ。
「それって、凛の為にはならないんすよ。凛の力で掴んだものしか、凛の力にはならない」
「そうだな」
「だから、凛が…自分の力でメドレーのメンバーになれなかったというならそれは仕方ないことっす。力のなかった凛が悪い」
御子柴さんは静かに俺の話に耳を傾けていた。
うるさいだけの人かと思ってたけどちゃんと部長としての顔があるんだ。
「目の前に壁が現れたら御子柴さんならどうします?」
「俺か?俺だったらそれを乗り越えていくだろうな」
「じゃあ、その壁にドアがついていて向こう側に行けるとしたら?」
「それは…そのドアを通って行くだろう。それがどうした?」
こちらを見て首を傾げた御子柴さんに微笑む。
「凛はドアがあっても…壁を越えようとするんすよ」
「は?」
「アイツは馬鹿なんすよ。単純で一途で…1度決めたらそれを貫き通す。1人で越えられない壁だとしてもアイツはそれを越えようとする。けど…出来ないと判断したら途中で諦めちゃうんすよね…」
幼い頃の、俺と出会った頃の凛がそうだった。
自分の決めたやり方で出来ないと判断したらそこで諦めてしまう。
「そんなアイツの手伝いを俺はしたいと思った。思ってた。けど、無理なんすよ」
「なぜ?」
「俺にはアイツを壁の向こうに連れて行くことしか出来ない。けどそれは凛の力にならない。アイツと一緒に壁を超えることは俺には出来ないんです」
立ち上がって御子柴さんの方を見て笑う。
「アイツと一緒に壁を越えられるのはきっと遙さんたちだけなんすよ」
「…それがどうした?」
「挫折して、自力で立ち直れば力になる」
俺の言葉に、そうだなと御子柴さんが頷く。
「さっきの話と同じです。挫折した凛を俺は救うことはできるかもしれない。けど俺の力で凛を救うだけで、それは凛の力にはならない」
「七瀬たちなら…?」
「凛を救える。凛の手助けをして、凛が自力で立ち直れる」
プールの照明が消された。
ほんの少しだけ、辺りが暗くなった気がする。
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