「もし、これで凛が折れたなら…俺には何もしてやれません。アイツが立ち直ることもきっとない」
「七瀬たちがアイツを救わない限り…松岡はそのままってことか」
「はい。まぁ、折れなければそれでいいんすけどね」

不安定なアイツに、今メンバーから外されるという事実を突き付ければきっと彼は折れる。
折れてしまう。
それを救えるのはやっぱり遙さんたちだけで…

「ごめんなさい、語りすぎましたね」
「いや、構わん。御影は松岡のことをよく知ってるんだな」
「知ってるだけで、俺は何もできないっすよ。腹立たしいほど俺は無力なんすよ」


御子柴さんがいつものように笑って俺の頭を撫でる。

「お前みたいに松岡をわかってくれてる奴がいて安心したよ。理解者がいてくれるだけアイツは幸せだ」
「…理解者になれたなら、いいんすけどね」
「さて…松岡の話はここまでにして…」

真剣な瞳が俺に向けられる。

「もう1つの話をするか。久瑠橋朱希君」
「…ハッタリではなかったんすねー。困ったなぁ…」

目の前に立つ御子柴さんに瞳に笑う俺が映る。

「なんで、知ってるんすか?」
「中学生にして世界記録を叩きだしたあのレース。結局泳いだ人が見つからず世界記録として登録はされてないが…あのレース、俺も出ていた」
「18歳以下の大会でしたもんね。あのレース」

御子柴さんは頷く。

「背中の傷を覚えていてな…県大会を見てすぐにわかったよ。君が久瑠橋朱希だって。あの雑誌も君が久瑠橋朱希だと断定するのに不足はなかった」
「…そうですね。俺はあのレースに旧姓の久瑠橋を使って出場しました。ご存じのとおり世界記録なんてもの叩きだしてね」

残り少なくなったスポドリを一気の喉に流し込んで彼を見る。

「だったら、何だって言うんすか?」
「何故、1500のレースに出ない?俺はもう1度戦うことを楽しみにしていたんだ」
「…黙秘権は?」
「残念だが、ない」

凛にも話していないことなんだけど…
この真剣な瞳の前で嘘は吐けないか…

「凛には話さないでもらえます?俺が久瑠橋朱希であり、何故泳がないのか」
「約束しよう」
「ありがとうございます。まぁ…カッコ悪い話ですよ」

御子柴さんは何も言わずに頷いた。


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