自室に入って、乱暴にドアを閉めれば中にいた凛が目を丸くして俺を見た。

「どうした?」
「…別に」
「別にって顔じゃねェけど」

手に持っていたボールを机の上に置いて凛のベッドに腰掛ければ彼は首を傾げた。

「…なぁ、凛」
「なんだよ」
「関係ねぇって、言われたらどうすればいい?」

は?と彼は目を瞬かせた。

「どうやったら関係ある奴になれるんだよ」

そう小さく呟けば、彼はお前熱あるか?と言った。

「なんで」
「だってお前が他人のこと考えてイライラしてんの珍しいから」
「…あー、確かにそうだな…」

ベッドに寝転んで腕を額に押し当てる。
なんであんな泣きそうな顔してるんだよ。

助けたいって言ったって、関係ないって言われたらそこでどうしようもない。

「…誰のこと考えてんのかわかんねェけど…」
「ん、」
「関係ないって言葉ほど傷つくものはねぇよな。どうすることもできないし…」

けど、と凛は視線を逸らした。

「関係ねぇって言葉にも2種類あると思う」
「2種類?」
「その言葉の意味通りお前には関係ないってのもあるけど。巻き込みたくないから、関係ないってことにしたいってのも…あると思う」

巻き込みたくない、か…

「宗介とその人の関係がわかんねぇから何とも言えねェけど…」
「…もし巻き込みたくないって思ってたとして。俺は巻き込まれる覚悟がある場合はどうする?」
「それは…ぶつかっていくしかないんじゃね?」

凛はこちらに視線を向けた。

「関係ない、巻き込みたくないって拒否られても。お前がどうしても関わっていきたいなら諦めちゃダメだろ」
「…だよな」

仰向けだった体を横向きに変えて、溜息をつけば凛が隣に腰かけた。

「お前、そいつのこと好きなのか?」
「は?」
「なんか、スゲェ真剣に悩んでるから…特別なのかなって」

好き?
俺がアイツを?

「それはねぇだろ」
「なんで?」
「だって、男だぞ」

は?と凛が固まる。
それを見てあぁ、そういえば…思って口を開く。

「御影と付き合ってるお前を否定してるわけじゃねぇけど」
「あ、あぁ…そうか。…………え!!!?」
「なんだよ」

凛に視線を向ければ顔が真っ赤に染まっていて、俺は目を瞬かせる。

「あ、やべ…」
「お前、なんで知ってんだよ!!?」
「あー、悪い。フェスの辺りから知ってた」

口をパクパクと動かして、言葉にならない言葉を発する彼を見ながら失敗したな、と思った。

「な、な…なんで言わなかった!!!?」
「いや、言わねぇ方がいいって…」

瀬尾が言ってたから…なんて言ったらマジで倒れそうだから言わないでおこう。

「き、気持ち悪いって…思わなかったのかよ…」

少し泣きそうな顔でこちらを見た凛に首を傾げる。

「いや、別に…」

まぁ、瀬尾と一緒にいるときに知ってなかったら引いてた可能性はある。

「男だろうが女だろうが本当に好きな奴といられるなら幸せだろ」
「え…」

そう、アイツが言ったから特に嫌悪感はなかった。
でもそんなことを言うアイツが幸せじゃないってのは、どうなんだろうか…

「……そう、だよな」

気の抜けた笑顔を見せた凛に俺はふっと笑った。
アイツも、幸せになればこんな風に笑えるんだろうかと偽物の笑顔ばかりを見せる瀬尾を思い出す。

「幸せか?凛は」
「…幸せに決まってんだろ。ずっと、好きだったし…」
「そうか…」

それで、と凛が首を傾げる。

「お前は誰のことが好きなんだよ」
「だから好きじゃねぇって」
「俺も男と付き合ってるし、引いたりしねぇけど」

いや、だから好きじゃないと言えば彼は眉を寄せる。

「じゃあ今お前を悩ませてる男の名前は?」
「…言うわけないだろ」

俺だけ知られてんのって不公平だ、と言った凛に俺は笑う。

「絶対教えねェから」
「いいから、吐け!!」
「嫌だって」

凛の視線から逃れるように立ち上がった時窓の外に見えた姿。

「あ、」
「どうした?」
「いや…」

携帯を片手に門の方へ歩いて行く彼の姿を視線で追いながら眉を寄せる。
また、彼女の所に行くんだろうか。

「そういや、宗介」
「なんだよ」
「あのバスケットボールなに?」

俺の机の上に置かれたボールを指差して凛は首を傾げた。

「…瀬尾が忘れてった」
「瀬尾?あぁ、バスケ部の?」
「あぁ」

凛は何か納得したように頷いた。

「お前の好きな奴は瀬尾ってことか」
「だから、好きじゃねぇって」
「けど相手は瀬尾なんだろ?」

満足気に笑う凛に俺は溜息をつく。

「だからなんだ」
「いや。仲良いんだな」
「どうだろうな…アイツからしたら俺はただのお節介だろ」

ベッドから立ち上がってボールを手に持つ。
体育館にあるのとはデザインの違うボールは所々色が落ちて、凹凸が消えていた。
アイツがどれだけバスケが好きか、どれだけ努力をしているのか、このボールが証明しているみたいだった。

お前の夢って、なんだ?
もし彼女がいなくなったら、お前はどこまで行きたい?
どこまで…お前は行ける?

「……やっぱ、関係ねぇって言葉で納得できるわけねぇだろ」
「宗介?」
「気に入らない」

諦めたアイツも、諦めさせる女も全部気に入らない。

「……大会前に問題起こすなよ」
「起こさねぇよ」
「ならいいけど」

ボールは明日返してくる、と机の上に置けば凛は困った顔をして笑っていた。

「それで好きじゃねぇとか…」

彼の呟きは聞こえたが何も返さずに、ベッドに上がる。

好きなわけじゃない。
ただ、放っておきたくないだけ。
俺と似ているけど、俺とは違う。
アイツの未来に、何か希望のようなものが湧いた。

「そういや、宗介」
「なんだよ」
「バスケ部って明日試合じゃね?」

そうだっけ?とベッドの下を見れば凛は確かそうだったと答える。

「…試合終わってから返せばいいか…」
「その次の日は俺達が会場入りで学校行かねェぞ」
「……タイミング悪いな。明日の夜、返しに行く」


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