「SPLASH FES?」
『行きたいんだけど、お母さん忙しいって…』
「あぁ、そういうことか。うん。日付は?」

食堂の廊下。
携帯を耳に当てて、部活のスケジュールを開く。
お、体育館が整備で部活はオフか。

『蓮君と欄ちゃんも一緒なんだ!!』
「あー…友達か?OK、じゃあその日迎えに行ってやるよ」
『本当に!!?』

忘れ物するなよ、と言えばうんっ!!と元気な返事が返ってきた。

そんな電話から数日。
実家に帰れば目をキラキラとさせる弟がいた。

「で、そのFESって何なの?」
「近くにねプールが出来るんだよ。そこのっ!!」
「プール?へぇ…」

弟に手を引かれて辿り着いた先。
装飾の施された綺麗な建物が目に入る。

「あぁ、あそこか?」
「うん!!」

駆け足になる弟を追いかけて行けば「あっ!!」と大きな声を上げた。

「蓮君、欄ちゃんっ!!」

千切れんばかりに腕を振る彼の先、2人の男の子と女の子が同じように手を振っていた。

「弥生君!!」

きゃっきゃと跳ねながら喜ぶ弟から、2人を連れていた人に視線を向ける。

「えっと…橘さんって言うのは…?」
「あ、俺です」

あ、この人も背デカいな。

「いつも弥生がお世話になってます。兄の瀬尾大和です」
「こちらこそ、いつも遊んでもらってて。同じく兄の橘真琴です」

橘さんの周りには彼の友人らしき人がいて、その中に見覚えのある人を見つける。

「御影」
「大和さん、こんにちは」
「どーも。御影がいるってことは…水泳部の人?」

俺の先輩ですよと答えた彼に水泳部ってガタイいいのか、と少し的外れなことを考えていた。

「弥生、中入ろうぜ」
「うんっ」
「欄ちゃんと蓮君も一緒に来る?」

しゃがみ込んで視線を合わせて、尋ねれば2人は橘さんの方を見上げた。

「弥生君と一緒に行ってもいい?」
「え?けど…」
「俺は本当にただの付き添いなんで大丈夫ですよ。弥生も喜ぶんで」

じゃあお願いしてもいいですか、と橘さんが申し訳なさそうに言ったので俺は笑顔で頷いた。

「中入って準備するか」
「「「うんっ」」」

子供3人を連れて、中に入る。
パンフレットを受け取って、更衣室に向かった。





プールサイドで応援をしている橘さん達に弟のことを任せ、俺は上からそこを眺めていた。

「水泳ってのはよくわからないな」
「大和さんはバスケ一筋っすもんね」
「まぁな」

隣に座る御影も今日はただの付き添いらしい。
聞いたところ松岡も来ているから来たんだそうだ。
終わったらデートなんですよ、と言った御影の幸せそうな顔に若干反応に困ったのは言うまでもない。

「松岡、誰と泳ぐんだ?」
「えっと…宗介さん?って呼ばれてた人と似鳥と御子柴さんの弟と泳ぐみたいです」
「宗介?…あぁ、山崎か」

知り合いですか、と尋ねられ同じクラスなだけだよと答える。

「凛も同じクラスって言ってませんでした?」
「2人共同じクラス」

まともに話したことないけど、と言えば困ったように彼は笑った。

「悪い、ちょっと飲み物買ってくるわ」
「あぁ、はい。いってらっしゃい」
「御影はいらねぇ?」

俺は大丈夫です、と答えた彼に了解と返事をして観覧スペースから出る。

「んー自販機はーっと…」

あぁ、こっちか。
案内板を見上げながらそちらに歩みを進めれば角を曲がってきた誰かと肩がぶつかる。

「すいません」
「いえ、こっちこそ…て、あれ?」
「あ?」

ぶつかった相手は目を丸くして俺を見ていた。

「あぁ、山崎か。どーも」
「どーも…て、なんでいんだよ?」
「弟の付き添いでな。今は弟の友達のお兄さんに預けてる」

山崎はリレー出るんだろ?と首を傾げれば一瞬眉を寄せてから頷いた。

「頑張れよ」
「サンキュ。あー、瀬尾」
「ん?」

自販機の方に視線を向けようとした俺の名前を彼が呼んで視線を彼の方に戻す。

「リレーまで暇でさ。ちょっと付き合ってくんね?」
「別にいいけど…?」

断る理由もなくて、彼の隣に並ぶ。
外の空気が吸いたいんだ、と彼は言った。

「うっわー…日差し強…」
「男らしからぬ発言だな」

外の自販でジュースを買って、俺は顔に当たる日差しを掌で遮る。

「インドアスポーツやってる人に日差しは無理だろ」
「バスケ部だっけ?強いんだろ?」
「去年はな。今年はわかんねぇよ」

まぁ、優勝するのが俺に託されたバトンだけどな。

「兄ちゃんっ!!」
「お?どうした、弥生」
「俺も喉かわいたっ」

あぁ、それで出てきたのか。
彼の後ろに蓮君と欄ちゃんの姿もある。

「何飲む?」
「ソーダ!!」
「あいよ。2人はどうする?」

2人は顔を見合わせてからオレンジジュースとリンゴジュースと答えた。
3人分の飲み物を買って彼らに手渡せばそれを大事そうに持って中に戻っていく。

「こけんなよー」
「わかってるっ!!」

隣にいた山崎が弟か?と首を傾げた。

「弟とその友達2人」
「似てるな、弟」
「そうか?まぁ、俺と違ってサッカーと水泳に夢中らしいけどな」

そろそろ時間か?と時計を見ながら言えば彼はそうだなと立ち上がる。

「適当に応援よろしく」
「了解」

中に入っていく山崎の背中を見ながら首を傾げた。

さっき自販機の所にいたのは御影の先輩の1人か。
…何かやらかした後だったのか?
だから、会わせたくなかった…みたいな?

「ま、どうでもいいか」


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