期待なんて、重たいだけ
1月8日。
ついにやってきたボーダー隊員正式入隊日。
まぁ俺としては2回目なんだけど。
壇上に上がった忍田さんから視線を逸らし周りを見渡す。
あ、いたいた。
空閑遊真と小さい女の子。
付き添いなのか三雲の姿もある。
「ボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。君たちは本日C級隊員…つまり訓練生として入隊するが三門市のそして人類の未来は君たちの双肩に掛かっている。日々研鑽し正隊員を目指してほしい。君たちと共に戦える日を待っている」
相変わらず堅苦しい挨拶だ。
この先の説明は嵐山隊に一任する、と告げれば訓練生の視線がそちらに向けられざわつきが生まれた。
その隙に忍田さんは素知らぬ顔で俺の元に来た。
隣に並んで、お互いに視線を別の所に向けながら口を開く。
「どうも」
「榎本…怪我はどうだ?」
「手と脇腹に多少の痛みが残ってます。まぁ、トリオン体になってしまえば関係ないので大丈夫です」
一週間で上がってこれるか?と言った彼に目だけ動かし視線を向ける。
相変わらず真っ直ぐとした目をしている彼に小さく息を吐いた。
「自分で言ったことは守ります」
「期待している」
「…期待なんて、重たいだけですけどね」
狙撃主志望が移動を始め、忍田さんはまた連絡すると言い残して出ていった。
「改めて攻撃主と銃手主を担当する嵐山隊の嵐山准だ。まずは入隊おめでとう」
以前とB級昇格の条件は変わらないらしい。
手の甲の数字を4000まで上げる、か…
場所を移動して、たどり着いたのは仮想訓練施設。
やっぱりいきなりこれから始まるらしい。
制限時間は5分。
早く倒すほど評価点は高い。
まぁけど…これよりもランク戦の方が手っ取り早いけど。
「うわー…空閑0.6秒とか…」
やっぱり、流石ネイバーってとこだよな。
「次、入ってくれ」
「はい」
滅茶苦茶目立ってたし。
…ネイバーだってバレたらヤバイんじゃないのか?
▽
空閑が目立っていたとき、1つの部屋に見覚えのある人を見つけた。
「榎本先輩!?」
「知り合いか?」
「中学のときの先輩なんですけど…何でまたここに…」
また?と首を傾げた木虎に元々C級隊員であることを説明すれば彼女は首を傾げる。
「何らかの理由があって再入隊でもしたのかしら?」
「そんなことあるのか…?」
始めの合図が聞こえ、瞬きをする一瞬。
彼の目の前にいたネイバーは倒され地面に落ちていた。
「え、今何が起こって…」
『1.5秒!!』
空閑とそんなに変わらない…
そんな人が何でC級だったんだ?
「あれが元C級?ちょっとあり得なくない?…彼もネイバー、とか?」
「それはないと思うんですけど…」
部屋から出てきた彼は階段を上がってこちらにやってきた。
「最近よく会うな、三雲」
「榎本先輩…あの、なんでまた入隊を?」
「再入隊処分受けちゃって」
彼は特に気にした様子もなくそう言った。
「本当に元C級隊員ですか?」
木虎の問い掛けに彼は首を傾げた。
「どうして?」
「武器も出さずに1秒でなんて…そんな人がC級で燻ってたとは思えません」
「武器は出してましたよ。それから…燻ってたわけじゃない。前は自分の意志で入ったわけじゃなかったから真面目にやってなかっただけです」
榎本先輩の言葉に木虎は目を見開いた。
「真面目にやってなかったってどういうことですか?やる気がない人はボーダーには必要ありません」
「だから、今言ったじゃないですか。前回は、です。今回は俺の意志で入ったし一週間で上がる約束だから」
一週間…!?
そんなの普通無理だ。
「訓練の1位は確実に空閑遊真だから。俺はランク戦で稼がせてもらうけどね」
「…本当に1週間で上がれると思ってるんですか?」
「思ってますよ。自分の言葉にくらい責任を持つ」
彼はそう言ってそれから、と木虎に言葉を投げかけた。
「貴方の考えを否定する気はないけど、俺はボーダーに必要か否かで行動する気はない。俺の上司が必要としてるか否かで俺は行動するから」
榎本先輩はそう言ってから、こちらに視線を向ける。
「三雲。空閑にもよろしく伝えておいてくれ。まだ話したことはないから今度話してみたいって」
「わ、わかりました」
「それじゃ」
▽
ランク戦のブースから出て自分の手の甲の数字を眺める。
「1日目にしては随分と稼げた方だろ」
倍以上になったその数字。
このペースで行けば次の訓練までには上がれるだろう。
ロビーから出て帰ろうとしていた俺を呼び止めた声。
聞き覚えがあるようでない、その声に振り返る。
「あれ、えっと…」
「古寺章平です」
「古寺さん。…えっと、榎本不吹です」
この人から声をかけてる来るとは思わなかった。
あれだけ怖がられてたし。
「あの、どうして…ここに…?今日って入隊日ですよね?」
「あぁ、そういうこと…。俺、再入隊処分になったんです。トリガーの無断使用で。詳しく知りたければ三輪さんが知ってますよ」
「…無断使用ってことは…元々C級隊員だったんですか!?」
そうですけど、と頷けば彼は目を丸くした。
「本当、ですか?」
「本当ですよ」
彼が何かを言おうと口を開いたとき後ろから彼を呼ぶ声が聞こえた。
「呼んでますよ、古寺さん」
「あ、はい。…あのっ!!!すいませんでした」
下げられた頭に俺目を瞬かせる。
「え?」
「あんな失礼な態度で…」
「失礼な態度も何も…貴方が悪いわけじゃないですよね?怖がられて当然のことをしたわけですし…」
けど、とどこか納得しきらない彼に俺はどうするかと思考を巡らせる。
この人、優しすぎるんだろうな…きっと。
「…じゃあ、お詫びに俺がB級に上がったら模擬戦してくれませんか?」
「え?」
「スナイパーの人と戦う機会なんて、そうないと思うので」
俺の言葉に彼は頷いた。
それを見てこれで一件落着かと内心ため息をついた。
「あの、榎本さん」
「はい?」
「同い年なので敬語はなしにしませんか?」
…同い年なのか?
三輪さんといたからてっきり先輩かと思ってた…
「わかった。じゃあ、よろしく」
「よろしく」
それじゃあ、と走っていく彼を見送ってため息をついた。
「…ここはやっぱり嫌いだな…人が多すぎる」
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