それじゃ、始めよっか




『順調みたいだな』

電話の向こうの忍田さんの声にまぁ、一応と返事をする。

「上手くいけば今日明日で4000にいくと思いますよ」
『最初からそれくらいやってくれれば助かったんだがな』
「やりたくないって言ってるのに無理矢理入れた貴方が悪いでしょ」

多分あまり悪いと思っていない彼は笑いながらすまない、と言った。

『空閑とは接触したのか?』
「いえ、機会がなくて。ランク戦にはまだ参加してないみたいなんですよね」
『…そうか。接触して情が湧いても困るが…』

俺がそんなにタイプに見えますか?と言えば彼は見えないこともないと答えた。

『情がないなら、今も孤児院になんて行っていないだろ』
「あれは、別に…」
『経営者の人は自慢の息子だと言って喜んでいたよ』

息子じゃないですよ、と答えながら本部に入る。
中に入れば外とは違い人の声が耳につく。

「…今回も色々と心配させてしまったみたいだし…申し訳ないです」
『君はもう一度ボーダー隊員になったわけだし。きっと、喜んでいると思うけどな』
「…だと、いいんですけどね」

ロビーに向かおうとした俺は見覚えのある人を見つけた。

「三輪さん」
「…榎本?」

こちらを見て驚いている彼は以前よりどこか表情に影がある。

「すいません、先輩見つけたので電話切りますね」
『随分と三輪と仲が良いみたいだな』
「そういう訳じゃないと思いますけど。終わったらまた連絡します」

電話を切ってこうやって本部で会うのは初めてですね、と言えばそうだなと彼は頷いた。

「章平には再入隊したと聞いてたが、本当だったんだな」
「はい。やめるつもりだったんですけど、戦う目的っていうのが見つかりまして…」
「あとどれくらいで上がるんだ?」

彼の言葉にあと500です、と答えた。

「500…?随分と早いな。何点からスタートした?」
「1000からですよ。1週間で上がれって言われてまして、必死にやってます」
「…そうか」

やはり、いつもとは違う気がする。

何か悩んでいるのか?
それもと何かあったのか?

寝不足なのか、目に下にくっきりと隈があるし髪も少し無造作になっている。

「えっと…何か、ありましたか?」
「いや、別に。まぁ、頑張れよ」
「あ…はい、ありがとうございます」

歩いていく彼を見送って首を傾げる。

やっぱりどこか変だ。
だからといってそれを無理矢理聞き出せるほど俺は彼と親しいわけではない。
そこまで興味がない、とも言うけれど。

「ん?」

C級のロビーに入れば妙に人が多い。
人々は皆、画面に釘付けの様だった。
その画面の中、戦っているのは空閑君と幼さの残る少年だった。

観衆の中に知っている顔を見つけてそちらに歩み寄る。

「三雲、これどうしたの?」
「榎本先輩。空閑が緑川っていうA級4位部隊の人と戦っていて…」
「へぇ」

圧倒的に空閑がリードをしているようだった。
まぁ、そりゃそうか。

「よっ、久しぶりだな榎本」
「あ、陽介さん。えっと、名字知らないんですけど」
「そのままでいいよ。一応自己紹介すると米屋陽介。知っての通り三輪隊だ」

榎本不吹です、と言えばよろしくな不吹と彼は笑った。

「んで、こっちが林藤陽太郎。これが雷神丸」
「陽太郎君?…何歳?」

こっちを見ていた彼にしゃがんで視線を合わせて尋ねれば小さな手を広げた。

「5歳だ!!」

孤児院にいる子達とそう変わらない。
無邪気に笑うその顔に俺は少しだけ頬を緩めた。

「はじめまして。榎本不吹です。よろしく、陽太郎君」
「不吹か、よろしくな!!」

どこか偉そうな喋り方が 幼い少年には凄く可愛らしく見えた。
孤児院の子供たちに、凄く会いたくなる。

「あ、終わったみたいだな」

陽介さんの声に視線を画面に向ければ2-8で空閑の圧勝だった。

「よくやったゆうま!!おれはしんじてたぞ」

空閑に駆け寄っていった陽太郎はそういって笑う。

「よーし白チビ。今度こそオレと対戦…「遊真、メガネくん」」
「迅さん!?」
「どもども」

いつの間にか近くまで来ていた迅さんは三雲達に「ちょっと来てくれ。城戸さんたちが呼んでる。」と告げてから視線をこちらに向けた。
目の合った彼に会釈をすれば彼は笑顔を見せた。

「じゃ、俺はこれからランク戦やるから」
「あ、はい」
「空閑君。呼び出しが終わったら俺の相手してくれない?」

俺の言葉に彼は目を丸くする。

「オサムの先輩で、三輪隊と戦ってた時にスナイパーを止めてくれた人…だったはず?」
「そうそう、それ。榎本です。暇があったらあとで声かけて」
「うむ」

頷いた彼に満足して俺は彼らの元から離れる。

「またな、不吹!!」

手を振った陽太郎に手を振り返して俺はブースに入った。





「あと1人で…終わるな」

自販機で買った水を飲みながら手の甲の数字を見つめる。

「見つけた」
「ん?あぁ、本当に来てくれたのか。空閑君」

呼び出しは終わったのか?と首を傾げれば彼は頷いた。

「シノダさんに時間があるなら戦ってほしい人がいるって言われたんだ」
「それ、もしかして俺のこと?」
「そうだ。榎本さんだったぞ」

あの人、余計なことを。
まぁ、願ってもない機会だけど。
彼も見ておきたいのだろう。
俺が抑止力として使えるか否かを。

「じゃあやろう。さっきの緑川君?みたいな10本勝負とか面倒だから、出来ることなら1本勝負で」
「わかった」

飲み物を一気に飲み干して、ゴミ箱に放り投げる。

「そういえば、三雲は?」
「ロビーで待ってる」
「そっか」

ロビーに入れば彼に視線が集まる。
まぁ、アレだけ派手にA級の隊員を倒してしまったのだから仕方ないか…

「目立ってるな、空閑君」
「呼び捨ていいぞ?」
「ん、そう?じゃあ空閑」

戦うのか?
横にいる人誰?

そんな会話が聞こえる中、ブースに入って彼のボタンを押した。

武器はスコーピオン。
俺と同じか。

仮想戦場に飛ばされて、両耳を塞いで周りを視渡した。

彼は既にこっちに接近してきてるな。
建物の影から彼の姿が現れて、後ろに飛び退く。

「戦う前に聞きたいことがあるんだけど、いい?」

彼はいいけど、と言って彼は首を傾げた。

「君はどうしてボーダーに?」
「チカの願いを叶えるため」

チカ?
あの小さな女の子かな…?
ちゃんと人の名前憶えてないから、全然わからない。

「…あーじゃあ、君の黒トリガーは誰で出来てるの?」
「…父親だ」
「うん、そっか。ありがとう」

それだけでいいの?と言った彼に他に聞くことはないよと答える。

父親…
それって忍田さんの恩師?
そりゃ、それを奪うなんてこと許せるはずがないか…

「それじゃ、始めよっか」

俺がそう言って、口元を緩めれば彼が地面を蹴った。
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