犠牲になるのは未来のある若者
あの侵攻から1週間。
保健室にあるテレビで流れていたボーダーの記者会見に三雲の姿があった。
「面白い流れになったな」
一緒にテレビを見ていた相楽がそう言いながら画面の中の三雲を見ていた。
「さっきまで記者の矛先が向いてた悪役が 表に出てきて。しかも、幹部の予想してない方向に話が進んだ」
「そうだね」
「こーいう大人の汚いとこを未来のあるやつらが尻拭いするのもどーなんだって話だけどな」
相楽はそう言ってチャンネルを変えた。
「戦争の犠牲になんのも、未来のある若者だ。ボーダーも然り」
「そうだね…」
「大人はいつも安全な場所で胡座かいて戦況を眺めてる」
どこか遠くをぼんやりと眺めている相楽の横顔。
それは、いつもより哀しそうだった。
「相楽、」
「日本は平和な国だと思ってたんだけどな」
結局ここも変わらねーな、と彼は苦笑をこぼした。
彼は煙草に火を付けて、窓を開けた。
ゆらゆらと空に上がる煙。
それが弔いの火だと、出会ったばかりの頃彼が教えてくれたのを思い出した。
「誰も、死なないといいね」
「お前も含めてな」
窓の外を見ていた彼はこちらを振り返り、やはり哀しそうに笑った。
「殺すなよ、自分を」
「俺を殺すのは相楽だから。大丈夫」
「勘弁してくれ」
彼は笑ってた。
もう殺したくないと、彼は言った。
俺は、あんたに殺されたいのにね。
▽
防衛任務の為、本部へ行けば大きなモニターのある部屋が少しざわついていた。
「ランク戦…」
そういえばそんなことやるって忍田さんが言っていた気がする。
「見ていくのか?」
誰かに声をかけられて、視線をそちらへ向ける。
「三輪さん…」
「S級昇格したんだってな」
彼はそう言って首を少しだけ傾げた。
「はい、一応」
「知らなかった。黒トリガーを持っているなんて」
彼の言葉に少し咎めるような感情が含まれているような気がして、目をそらす。
「…色々、詮索はしない。ただ一つだけ、答えてほしい」
「なんですか?」
「それは、いつから持ってる」
その質問の意図は読めない。
だから、素直に答えた。
隠すことでもなかったし。
「四年前の侵攻の時です」
「…その時に、亡くなった誰か って事でいいのか?」
「はい」
それなら、いい と彼は言った。
「急に悪かった」
「いえ、」
その質問だけで彼は満足したのか、どこかへ歩いて行ってしまった。
S級になったことはもう広まっているんだろうか。
まぁあんだけ 侵攻で使ってれば仕方ないか。
「そういえば、」
「はい?」
背中を向けたまま三輪さんが足を止める。
「いや…やっぱりいい」
「え?」
なんなんだろう。
今日の三輪さんは少し変だ。
彼の後ろ姿を見つめていれば、トントンと肩を叩かれる。
振り返れば、約束をしていた相手が立っていた。
「三輪と話してたのか?」
「忍田さん。はい、少しだけ」
「そうか。不吹は、防衛任務は初めてだったよな?」
そうですね、と言えば彼は業務内容を説明するから 可能な限り覚えてくれと 言った。
「わかりました。この防衛任務って 単独で任務をしてるって扱いじゃないんですか?」
「当初はその予定だったんだけどな。ランク戦が始まって忙しいっていうのと この間の戦闘の様子を見て 大丈夫だろって判断になった」
「そうなんですね」
一応、比較的上位の部隊とやることになってるから 困ったときは頼っていいと彼は言った。
「了解です」
一通りの業務内容を聞いて、大丈夫そうか?と彼が俺の方を振り返る。
「大丈夫です。業務報告書の書き方は、」
「それは今回一緒にシフトに入ってる荒船に教えて貰えるようにしてあるから」
「荒船さん…?わかりました」
とりあえず荒船隊の隊室の場所だけ教えるな、と彼はまた歩き出す。
今日は 俺と目を合わせないな。
少し前をずっと歩く忍田さんの背中を眺めながら、そんなことを考えていた。
何を、気にしているのか。
伊吹のことか?
いや、これはもう話は済んでるし。
じゃあ一体…?
「一応、今回の任務中は俺がオペレーターの役割として就くが今後はまだ決まってない。お前が選んだ相手を担当にしてもいいし 毎回違う人を派遣することもできる」
「なるほど。それ、なしってことはできないんですか?」
「不可能ではないが多くのデータをオペレーターが共有しているし、戦闘中にそれを確認するのは難しいからな…」
なるほどね。
誰か専属でつけるにしても、ボーダー内部に知り合いはいないし。
忍田さんの任務を遂行していくには派閥のことも考慮に入れないといけないんだろうな…
「当分は派遣でいいや。また、いい人がいれば伝えます」
「わかった。ここが荒船隊の隊室だ。任務が終わったらここへ来てくれればいいから。俺はもう戻るから、挨拶だけでもしておくといい」
「わかりました。ありがとうございます」
じゃあ頑張れよ、と忍田さんは背を向けたまま歩いていってしまった。
やっぱ、今日の彼は少し変だった。
「まぁ、考えたところでわからないか、、」
コンコンと部屋のドアをノックすれば、扉が静かに開いた。
「誰だ?」
「忍田本部長から挨拶に来るように言われました。S級の榎本です」
「何か聞いてるか、荒船」
扉を開けた人はそう言って後ろに視線を向ける。
「入っていいぞ」
「だ、そうだ」
「失礼します」
中に入れば男性が2人いた。
「荒船隊隊長の荒船哲次だ。本部長から話は聞いてるから、わかんねぇことがあったら遠慮なく声かけてくれ」
「ありがとうございます。榎本不吹です。ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」
「いーよ。で、そいつが穂刈。こっちは半崎な」
宜しくお願いします、と頭を下げれば 扉を開けてくれた方の人は 宜しくと一言返して 半崎さんはぺこりと頭を下げた。
「防衛任務の内容はもう聞いてるか?」
「はい」
「じゃあ、時間になったら 配置についてくれ。終わったら 一緒に報告書書こう」
お願いします、と頭を下げれば そんな堅くなんなくていいよと 荒船さんは笑った。
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