向き合ってこなかった過去




「なんか不思議な組み合わせだな」

防衛任務を終えてロビーで報告書の書き方を荒船さんから教えてもらっていた時だった。
声をかけてきたのはくわえ煙草をした金髪の男の人。

「お疲れ様です」
「おー、お疲れ。榎本は初めての防衛任務か?」
「はい」

たしか、この人が諏訪さん。

「諏訪さんはなにしてんすか」
「俺らも防衛任務」
「今日一緒だったんですね」

まぁな、と彼は答えて 隣の席に座った。

「あの、何か、、?」

じっと俺を見つめる彼にそう尋ねれば人のよい笑顔を見せた。

「俺も榎本と話してみてーと思ってたんだよ」
「俺とですか?」
「そう」

彼に興味を持たれる理由がわからない。

「報告書終わんの待ってるからさ。時間あんなら付き合えよ」
「…わかりました。」

続き話すぞ、と荒船さんが手元の紙に視線を戻す。
言われた通り内容を書き終えて、これで終わりなと彼が笑った。

「提出場所はさっき言ったところだから、わかるよな?」
「はい。ありがとうございます」
「良いって、頭なんか下げなくて。まだ何かわかんないことがあったら声かけろよ」

じゃあお疲れ、と荒船さんが席を立つ。

「あ、そーだ。連絡先交換しとくか?入ってすぐで頼る相手もそんないねぇんだよな?」
「そう、ですね。…すごく有難いです」
「任務のことだけじゃなくても。気軽に連絡くれて良いからな」

良い先輩って感じの人だ。
離れていく後ろ姿を見ながらそんなことを考えていれば、隣に座っていた諏訪さんが向かい側に座り直した。

「改めて。諏訪洸太郎だ。よろしくな」
「榎本不吹です」

知ってるよ、と彼は笑った。
煙草の匂いもあるのかもしれないが、どことなく相楽と重なるところがある。

「黒トリガーだったんだな、やっぱり」
「はい。諏訪さんは、見てますもんね。戦ってるところ」
「デケェ鎌だろ?」

はい、と頷く。
まぁ軛の能力はそれだけではないけど。

「嫌なら答えなくてもいいんだけどさ。榎本がS級になったってことは、黒トリガーはお前が使うって上の判断だろ?」
「そうですね」
「榎本にしか起動できないのか、それ以外の理由なのかはわかんないけどさ。お前が黒トリガーを持ってるってことはさ、誰かがお前に力を託したってことだよな?どうして 榎本だったんだ?」

どうして。
そういえば、何故だろう。
あの場には、あの惨劇の場には俺も伊吹もいた。
家族として扱われていなかった俺を何故、選んだ?
伊吹の体が弱いから?
だとしても、軛なら何とかなったんじゃないか?
寧ろ、これがあった方が彼女が生き抜く術になったのでは?

「榎本?」
「あ、すいません。多分、1番都合が良かったんだと思います」

彼らにとって、俺の存在はなんだったんだろう。
何故、いないものとして扱われた?
何故、あの日はあの場所に呼ばれた?
何故、黒トリガーになった?
何故、、あの惨劇が起きた?

向き合ってこなかった過去が急に重くのしかかった気がした。

「ほんとにそんな理由なのか?」
「正直なところは、わからないんです。今、憶測で言えるのは それくらいってだけで、、」
「まぁ死人に口なしだもんなー」

どうしてそんなことを聞いたんですか、と尋ねればただの興味だなと彼は答えた。

「嫌なら思いをさせたなら、悪かった」
「いえ、そういうわけではないので。大丈夫です」
「そうか?なら、よかった」

そう、今思えばおかしいことばかりだ。
それに何故、伊吹は俺のことを知っていた?
開けちゃいけないドアって…どこだ。
あの家に俺の痕跡なんて…あったか?
俺はあの2人に名前を呼ばれた記憶はない。
けど、物心着くまで 俺はどう生きてきたんだろう。
テーブルに置かれたお金を握りしめてスーパーで惣菜を買う日々は一体いつから始まったんだっけ。

「おーい、大丈夫か?やっぱ、俺なんかヤベェこと聞いた?」
「あ、いえ。そういうんじゃないんですけど…。あ、あの。上層部のあご髭の人って誰ですか?」
「あご髭…?あー、林藤さんじゃね?玉狛の支部長さん」

玉狛ってことは、三雲のとこか。
あの人は俺の両親のことを知っている風だった。
忍田さんはあの日のこともあるし俺には話さないけど、彼なら聞けるかもしれない。






「お?なんだ、珍しい組み合わせだ」

本部に用事があり、ふらっとロビーに立ち寄れば向き合って話す榎本と諏訪さん。
榎本があーやって、腰を据えて人と話しているのは珍しい。
誰かと話していても、すぐに離れられるようにしているように思えていたし。

「……伊吹ちゃんのことは、もう吹っ切れてんのかなぁ」
「伊吹?」

後ろから聞こえた声。
振り返れば東さんがいた。

「お疲れ様です。どうかしました?」
「いや…伊吹って、榎本伊吹か?」
「あ、はい。あれ…知ってるんですか?」

少し曇った表情。
彼は何か知ってる、のか?
何も言わない彼に俺は首を傾げる。

「答えられないって感じですか?」
「…あぁ」

なるほど。
何かしらの箝口令が出ているのかもしれない。
とすれば東さんは伊吹ちゃんについて知ってはいけないなにかを知っている。
箝口令が出てるんじゃ、これ以上は予想することしかできないけど。
榎本自身が彼女のことを話すとは思えないし、何かの場面に遭遇してしまったと考える方が妥当だろう。
と、すれば 伊吹ちゃんが亡くなった場面に遭遇したっていうのが1番ありえそうな話だ。

「迅、」
「なんですか?」
「榎本は、危険な気がする。秀次よりも 危うさがある」

東さんのいうことはわからないでもない。
なんとも言えない、彼独特のもの。

「分かりますよ、言いたいことは」

だが、今後の未来には彼が必要だ。

「お前には彼はどうみえてる?」
「それはどういう意味で?」
「未来の話だ」

東さんがそんなこと聞くなんて、珍しい。

「んー死に 近いですね。いつも」
「死に、近い…か。そうだな、なんだかそれは…わかる気がするな」

榎本の未来はいつも死と隣り合わせだ。
彼が持つ黒い鎌が象徴するような…死神みたいだ。
死を引き寄せるのか、死に引き寄せられているのか。

「あいつを繋ぎ止めておくものが、必要だと思うんだ。秀次の復讐みたいに。復讐して欲しいってわけじゃないけど、生きる為の…死なない理由が必要な気がする」
「そう、ですね」

彼には、戦う理由がない。
ただ手にしてしまった黒トリガーが彼をここに繋ぎ止めてしまっただけ。

「親しい人も、いないと聞いてる」
「そう、ですね。話しかけられれば話すって感じですからね。あいつは」
「せめて、そういう心を許せる相手がボーダー内にいればと、思ってな」

彼に興味を持ってる人はたくさんいる。
そういう人たちと会わせてやった方がいいだろうか。
その中に、彼が頼れる存在を見つけられれば。

「…色々、やってみますね」
「あぁ、悪いな。俺も、気にかけておくから」
「はい、ありがとうございます」






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