戦うことは、好きですか
「防げたって、勝てねぇぞ!」
彼の言葉に そんなことは知ってますよ、と内心呟く。
二刀流、しかも一位の彼相手では隙を見つけるのも難しいし。
何よりこっちは、一瞬の隙で命取り。
攻撃を避けつつ、適度に距離を取り自分の手を握り締めた。
旋空孤月をギリギリのところで避けて、数歩後退る。
「まぁ、ここまで防げんのも 凄いけどね。榎本、なんかやってた?」
「…いえ、別に」
「ふぅん。ま、いいけど」
向かってくる彼を見ながら、後ろに回した手を開く。
「こっからどうする!?」
実戦で使うのは初めてだけど。
一瞬でも、隙が出来ればいい。
向かってくる彼の方へ地面を蹴り、自分の後ろに回した手から弾き出された弾。
「なっ!?」
無数の弾が自分の望む通りの弾道で彼に向かっていく。
彼の足が一瞬、怯んだその隙に懐に潜り込む為に一気に距離を詰めた。
バイパーを避ける為体勢を崩しながらも孤月は俺の方へ。
右手でそれを防ぎ、孤月の柄を掴む。
左脚で彼を蹴ろうとすればもう一方の孤月に防がれた。
至近距離で交わった視線に俺は頬を緩める。
痛みは頭が冴えるから、嫌いじゃない。
空いた左手が握り締めたスコーピオン。
見開かれた太刀川さんの目には笑ってる俺が映っていた。
首を斬りつけ、極め付けとばかりにゼロ距離でバイパーを打ち込んだ。
緊急脱出の光を見送り、溜息つく。
初見だったから、勝てただけだな。
手の内を知られていれば、負けていた。
自分の左手を握り締めて、終了すればベッドに沈んだ俺の体。
目を開ければ俺を見下ろす太刀川さんの顔が至近距離にあった。
「榎本!」
「え、」
「あれ、バイパーだよな!?リアルタイムでひけんの?」
少しなら、と言えばお前面白いなと彼は笑った。
「つーか、手は使わないって聞いてたんだけど」
「もう 関係ないので」
伊吹を殺した。
相楽はきっと俺のせいじゃないと、言ってくれるけど。
俺はそうは思っていない。
間接的とは言え、彼女を殺したのは間違いなく俺だ。
亡骸を抱き上げたこの両腕は、もう真っ赤に汚れてしまっていた。
もう、後戻りは出来ない所まで来ているのだ。
「もう一回やろう!」
「あ、はい」
「全部、使えよ。全部使ったお前と、戦いたい」
ギラつく彼の目は、戦い方を教えてくれた相楽に似ていた。
最前線で戦うことを好んだ彼と、よく似ている。
「好きですか、」
「なにが?」
「戦うこと」
当然だろ、と彼は笑った。
▽
10本勝負。
結局、3勝7敗と俺の負け越し。
「バイパーの使い方だな、」
勝てた時はバイパーとスコーピオンでの攻撃が上手く噛み合ってた。
ブースから出れば妙に人が多く、目眩が襲う。
「榎本、お疲れ」
「お疲れ様です。良い勉強になりました」
「楽しかったからいいよ。またやろうな」
とりあえずどっか座ろうぜ、と歩き出した彼の後を追う。
「榎本って、スコーピオンの使い方とか体術はすげぇんだけどさ。なんかさ、バイパーのコントロールが単調すぎるんだよなー」
「単調ですか、」
「うちの出水見てるからかもしれねぇけど。アイツはもっとすごいからな」
出水には会ったことあるか?と首を傾げた彼に頷けば、アイツの戦ってるとこ見てみろよと彼は言った。
「あ、けど黒トリガー使うならあんまり必要ないか?」
「どっちもちゃんと戦えるようになっておきたいので」
「じゃあ、見て損はない。トリオン量は?どんなもん?」
忍田さんには多い方だと言われました、と伝えればじゃあもっと戦い方があるかもなと言った彼の横顔はどこか楽しそうだった。
「太刀川」
「お!風間さんと諏訪さんじゃん。見てたの?」
「あぁ」
お疲れさん、と諏訪さんが俺の頭を撫でる。
「太刀川相手に3本取るって、すげぇぞ。お前」
「ほぼまぐれですよ」
「だとしてもだよ」
皆見てたぞ、と諏訪さんが周りに視線を向ける。
見知った顔もいくらか見受けられるが、ほとんどが知らない人だった。
「あの辺にいるの、A級のやつらだし」
「そうなんですね」
「興味なさそうだな」
まぁ、と答えれば彼は苦笑を零した。
「榎本は、どこで戦い方を覚えたんだ?」
太刀川さんと話していた風間さんがこちらに視線を向ける。
「空閑と戦ってる時も、思ってたんだ。その身体の動きは一朝一夕で身につくものではない」
「特に、何も」
俺の返答を彼は少し不満そうだったが、「そうか」と受け入れた。
「いーじゃん。どこで覚えてたとしても、強いなら文句ない」
「お前はそうだろうな」
「次は黒トリガーでやろうな」
はい、と答えれば彼は嬉しそうに笑った。
風間さん暇ならちょっと相手してよ、と風間さんを引きずりながらブースに向かう彼らを見送る。
「今度から榎本もあーいう絡まれ方するから。気をつけろよ」
「はい、」
まだやっていくのか?という彼の問いかけに首を横に振る。
「深夜の防衛任務があるので。少し休みます」
「そーか。じゃ、またな」
「はい。お疲れ様です」
通路に出て 溜息をつく。
換装を解いて、人酔いしたのか気持ち悪さを抱きながら 1人になれる場所をと向かった先は例の資料室だった。
中に入り誰もいないことを確認して、扉の鍵をかける。
携帯でアラームをセットして、部屋の奥にある椅子に腰掛けて少し埃っぽい机に突っ伏した。
▽
誰かの腕に抱かれていた。
ふわふわ、ゆらゆらと独特な浮遊感は知らない感覚のようで、どこか懐かしさを感じた。
「不吹、」
誰かが俺の名を呼んで、優しく頭を撫でた。
大きな節ばった手は 相楽の手に似ているようで似ていない。
薄暗い部屋の中。
天井につきそうなくらい高い本棚。
カビっぽい香りと、申し訳程度に付けられた電球の光が埃をキラキラと光らせる。
「いつか帰ろうな」
誰かはそう言って、俺をソファに下ろした。
離れていく背中は 誰のものだ。
パソコンの画面が薄暗い部屋に神々しく光って、そこの前に彼が座って ゆっくりとこちらを振り返った。
ピピピッと音がして、目を開く。
「っ!?夢、か…」
じんわりと滲む額の汗を手の甲で拭い、アラームを止める。
「防衛任務…行かなくちゃ、」
軛を起動すれば、自分の服は忍田さんが作った換装体に変わる。
制服じゃなくなってる。
服は自由なのだろうか、とロングコートの裾を持ち上げた。
「便利なもんだな」
部屋から出れば 廊下の灯りが眩しくて 目をきゅっと閉じた。
「それにしても、変な夢だったな」
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