よく似た殺意




「イーグレット?」

榎本が手にしていたのはイーグレットだった。
攻撃手の彼がなぜ?
くるりとその銃を回した彼は、何かに狙いを定め引き金を引いた。
銃口から発射された弾は何故か急にカクンと折れ曲がる。

「…バイパーか?」

確か、太刀川さんとの戦いの時に使っていた。
それがイーグレットから発射された。
いや違うな、バイパーを発射できるように作ったイーグレットを模した銃だな。
散弾銃、機関銃と銃手の扱う銃の種類は様々だが 狙撃銃を選んだのは彼が初めてなはず。
発射されたバイパーはカゲを狙い撃っていたようで、急に現れたその攻撃に彼が一瞬だが目を見開いた。

「…珍しいな」

カゲはサイドエフェクトのせいで奇襲が効かない。
距離があれど、彼には関係ないはずだ。
だが、今驚いていた。
それはカゲが相手の攻撃の意思を拾えなかったってことだ。
ギリギリのところでカゲは攻撃を避けて、バイパーの発射された方向へ走り出す。
榎本も、同じように彼のいる方へ迷いなく走り出した。
さっきのバイパーといい、榎本はカゲの居場所が何故わかっているんだ?

「あれ、榎本不吹だろ?」

後ろから肩を組んできた当真がうちの隊長が急に興味持ち始めたんだよなーと笑う。

「どっちが勝つかね。太刀川さんからも三本取ったって聞いてるけど」
「初見でカゲのサイドエフェクトとマンティスはきついだろ。たとえ榎本でも」
「まぁ、確かになー」

2人が邂逅する。
お互いに一瞬の怯みもなく、カゲはマンティスで遠距離からの攻撃を仕掛けた。
だがそれはシールドで防がれる。

「おー。あれを防ぐか。よく見えてんな、あいつ」
「けどカゲはあれだけじゃねぇぞ」

色々やらかしてポイント剥奪されてるが、あいつの攻撃手としてのレベルは非常に高い。
蹴りをメインとしたスタイルから、恐らくバイパーをメインにしたスタイルに変えたのであればあそこまで接近してしまったのは失敗だったな。
まず蹴りをメインにするってのが、特殊だったが。
もしバイパーをメインに戦うとするなら、何故狙撃銃にしたのだろうか。

カゲの攻撃を彼は銃で防ぎ、数歩後ろに距離を取る。
そして、地面を力強く蹴った。
離れた距離は一瞬で縮まり、カゲに向けて叩き込まれた蹴り。
それを間一髪のところで防いだが 今度は銃を顔の下から上に振り上げた。
スパン、とカゲの体に出来た切り傷。
漏れ出したトリオンをくるりと回した銃が揺らめかせた。

「なるほど、スコーピオンか」

当真が面白いな、と目を細めた。

「あの狙撃銃から、スコーピオンの刃を出したってことか?」
「恐らくな。あれはあいつにとって バイパーを放つ銃であり、刀だ。寧ろ、槍とかそう言う方がイメージかもしれねぇけど」

元々突出して優れていた体術。
そこに組み込まれた銃剣術。
孤月と違い間合いなんてあってないようなもの。
そっちに気をとられれば、蹴りが飛ぶ。

「やりずらそうだな、カゲ」
「カゲらしくない。攻撃される前に受け身を取るだろ?普段」
「それなんだよな」

珍しくカゲが翻弄されているのだ。
今までにない戦い方とはいえ、あそこまでやられるなんてらしくない。
結局、勝ったのは榎本。
あと何試合かやるのかと思えばカゲは榎本を連れて出てきた。

「げっ当真もいんのかよ」
「珍しいじゃねぇか、こんな負け方」
「こいつ、なんもねぇんだよ」

カゲは一歩後ろを歩いていた榎本の腕を引き自分の隣に並ばせる。

「攻撃すんぞ、っつー感情が届かない」
「は?マジで?」

やはり、だから驚いていたのか。
榎本は何のことだかわからないのか首を傾げた。

「カゲは感情受信体質って言って、自分に向けられた意識や感情を肌で感じられる体質なんだ。サイドエフェクトだな」
「へぇ、そうなんですね」
「けど、お前の攻撃からは何も感じない。あの養護教諭からもな。お前ら、何なんだ?」

カゲの言葉に榎本はなるほど、と頷いた。

「そう言うことですか。何で俺に興味を持たれたんだろう、と思ってたんですよね」

養護教諭?
俺と当真にはわからないが、榎本は何のことだかわかっているようだ。

「お前らの感情は凪だ。刺さらない。だが、刺すこともできるだろ?」

アイツから習ったのか?とカゲの問いかけに榎本はじっと彼を見つめるだけで 何も答えることをしなかった。

「…いーよ、わかった」

カゲは両手を上げてやれやれと首を振る。

「よく似た殺意だ」

その言葉に榎本は笑った。
嬉しそうに、見えた。

「で?何だあのイーグレットもどきは」

当真の言葉に彼はバイパーです、と答える。

「元々長物の扱いには慣れてるんです。黒トリガーも大きな鎌なので」
「へぇ」
「個人的にですけど、蹴りと銃剣術って相性が良くて。散弾銃とかも試したんですけど、狙撃銃が1番やりやすかったんです」





太刀川さんに言われた、バイパーが単調だという指摘。
出水さんの戦闘も見たが、あれを真似するのは難しいと判断した。
俺は近接戦の方が得意だし、個人的も好んでいる。
ある程度の距離を持って戦うのであれば出水さんの真似をするのは良いとは思うが俺の戦い方には合わない。
それにあれは、才能がものをいう。
得意でないものを伸ばすくらいなら 得意なものを伸ばした方が得策だ。

「影浦さん、時間があるなら この後も手合わせお願いしてもいいですか?」
「あ?あぁ、いいけど」

なんとなく戦い方のコツは掴めた。
あとは体に染み込ませられれば。
影浦さんとブースに行こうとした時、俺の名前を呼んだ声。
ざわついたランク戦室に忍田さんの姿があった。

「お疲れ、榎本」
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
「少し用がある。借りていっていいか?」

影浦さんや荒船さんたちに目配せした忍田さんに どーぞと影浦さんは答えた。

「また今度付き合ってやるよ」
「はい、ありがとうございます」

頭を下げて 忍田さんの隣に並べば 会議に顔を出して欲しいのだと彼は小さな声で言った。

「俺がですか?」
「S級だからな」
「…なるほど」

連れられた先は会議室だった。
中には司令といつもの女の人、三輪さん、太刀川さん、東さん、冬島さん、嵐山さんがいる。

「あとは風間と迅か」

こっちおいで、と冬島さんに手招かれ 彼の隣に並んだ。

「こーいうのは初めてか?」
「はい」
「緊張することねぇから、普通にしてろよ」

大きな手が頭を撫でて、彼が笑う。

「おつかれさまでーす」

ドアが開き入ってきた迅さんと風間さん。
忍田さんが部屋を見渡して揃ったな、といつもより真面目な声で言った。

「では、緊急防衛対策会議を始めよう。」
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