戦争を経験してきた人




「早速だが本題に入らせてもらう。先日の防衛戦で捕虜にした元黒トリガー使いのエネドラから新たに近界からの攻撃が予測されるという情報を得たと開発室から報告を受けた。玉狛支部のレプリカ特別顧問が残した軌道配置図によればまもなく3つの惑星国家がこちらの世界に接近する。エネドラによればこのうち ガロプラ ロドクルーン。この二つがアフトクラトルと従属関係にあるという」
「従属関係…こないだの連中の手下ってことか」

全く話がわからない。
捕虜なんていたのか、しかも協力的な。

「あくまでまだ予測の段階ではあるが襲撃があるならば迎え撃つ用意が必要になる。二つの国との接触までほとんど時間がない。対策には緊急を要する為こうして集まってもらった」
「攻撃があるとしたら敵の目的はまたトリトン能力者を攫うことですか?」
「それについては…」

忍田さんが迅さんに視線をやれば まだわからないですね、と彼は答えた。

「ここ何日か日中ぶらぶらしてましたけど…ボーダーの人間にも街の人たちにも今のところ攫われたり殺されたりする未来は見えない」
「じゃあ攻めてこないってことじゃないの?カニ野郎のふかしかも」
「あるいは人材以外に狙いがあるのか」

戦争において、攻撃に失敗した国が 戦地を離れた場合。
次の攻撃までは時間を要する。
注ぎ込んだものの重さに比例してその時間は長くなる。

「人材以外ってなに?」
「技術、情報」
「捕虜の奪還もしくは処分」

その時間の間というのは 攻めるのに適した隙だ。
戦争に慣れた国ならこの時間をいかに耐え凌ぐかが 勝敗に関わることを知っているだろう。

「時間稼ぎじゃないですかね」

俺の小さな呟きに 視線が一斉にこちらに向いた。

「どういう意味だ?」
「アフトクラトル?は今、次の攻撃に備える為の時間が欲しいんです。戦争は国力を挙げての大きなこと。勝敗に関わらず次の戦いには準備が必要です。兵士であったり、武器であったり、食料なんかも。そこの準備を狙われるのが 1番敗戦に繋がりやすい。だから、それまでの間 従属関係にある国を動かして こちらの意識をその国に向けて 自国まで追っ手が来ないようにしたいんだと思います」

喋り終えてしんとした部屋に居心地の悪さを感じた。
下手に喋るべきではなかっただろうか。

「どうしてそう思う?」

東さんがそう言って俺を見た。
どうして、と言われても困る。
相楽だったらそうすると思っただけだ。
数多の戦争を生き抜いてきて、そして勝敗を動かしてきた彼ならば。

「国も人も…銃弾を装填する時が、1番隙になるからです」
「確かに可能性はあるな。ガロプラもロドクルーンもデータではそれほど大きな国じゃない」
「エネドラはアフトクラトルが手下をけしかけてくるという表現を使っていて襲撃の手段まではわからないと言っているようです」

画面に映る惑星の動き。

「エネドラへの聞き取りは続けるとしてガロプラもロドクルーンがこちらの世界を離れるまでは通常の防衛体制に加えて特別迎撃体制を敷いていくことになる。その内容についてこれから協議していくわけだが…その前に 城戸司令よりこの件についてひとつ指示がある」
「今回の迎撃作戦は可能な限り対外秘として行うものとする」

対外秘か。
まぁ、妥当な判断だろう。
大規模侵攻で危険に晒された直後のそれでは、非難はこちらに向くだろう。
守る術を持つのがボーダーだけとは言え、信頼を失えば 戦うことは難しくなる。
城戸司令の考えも似たようなものだった。

「当然敵の出方次第ではあるが市民には襲撃があったことを気づかせないことが望ましい」
「気付かせないレベルだとボーダー内部でも情報統制が必要になりますが」
「その通りだ。作戦はB級以上必要最低限の人員にのみ伝える。それ以外は通常通りに回してもらう」

会議が終わり少しの息苦しさがなくなる。

「さあ仕事だ仕事だ。お先〜」
「お疲れ様です」
「またな、榎本」

頭の上に乗せられた手がぽんぽんと二回俺を叩いて 離れていく。
俺もそれを追い、出て行こうとすれば 東さんに呼び止められた。
三輪さんとさっきまで話していたのに、今はもう一人で立っていて 三輪さんは迅さんたちと話をしていた。

「なんでしょう」
「榎本なら、なにを狙う?」

その問いかけに話をしていた人たちが会話をやめたのがわかる。
感じる視線にやはり居心地の悪さを感じながら 笑った。

「移動手段」
「なるほどな…」
「近界への行き方を俺は知らないですけど、何かしら移動に使うハコか扉を作る装置があるでしょう?それがなくなれば 一定の期間の平穏が保たれる。自国も従属関係にある国も」

やっぱ面白いな、お前と太刀川さんが後ろで笑う。
面白いことなど何も言ったつもりはない。

「その考え方は、何から学んだ?」

城戸司令のその質問に俺は首を傾げる。

「何から、というのは?」
「人か、本か、経験か」
「人ですね。戦争を経験してきた人から」

なるほど、と城戸司令は頷き席を立つ。

「S級として、初めての任務になるだろう。気を抜くことのないように」
「はい」

城戸司令が会議室を出て行き、その姿を見送ってから俺も外へ出る。

「あ、ちょいちょい。」
「なんですか?」
「この後なんかある?ないなら、飯でも行こう」

迅さんのその誘いに俺はすいません、と頭を下げる。

「予定があるわけではないんですけど、食べれる物が極端に少ないので 遠慮させてもらいます」
「ぼんち揚は?」
「食べれないです」

まじか、って目を丸くする彼にすいませんと頭を下げる。

「じゃあ俺と模擬戦しよう!な!予定ないならやるよな!?」
「それは、是非」

太刀川さんの誘いに頷けば 太刀川さんに負けたと迅さんが苦笑を零す。

「何戦やる?少しは何か成長した?」
「成長したかは、太刀川さんの判断でお願いします。とりあえず、10戦で」
「おっけー」





「手強いなー」
「何がしたかったんだ、迅」

風間さんの視線に苦笑を零す。

「榎本はちょっと、不安が多くてね。東さん的にはどう?」
「最近よく人とは関わっているようだけど、危うさは変わらないな」

彼の未来で、彼が死に近づくとき いつも見える白衣の男性。
それが榎本の引き金であり、ストッパーである存在。
もし彼が榎本の師匠で、榎本のいう戦争経験者なのだとしたら。
その存在がボーダー外にいることが危険でしかない。
あの若さで戦争経験者なのだとしたら、ネイバーと考えてもおかしくは無いし。

「どうしようかなぁ」

ボーダー内にはまだ、榎本を動かせるだけの存在はいないし。
今日見た彼の未来も、決して良いものではない。

「とりあえず、もう少し経過観察だな」
「…ま、そうなるな」



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