俺の期待を裏切んなよ




「なんか、騒がしいな」

暇なら付き合え、と太刀川さんかメッセージが届き模擬戦をしにきたのだが当の本人はお楽しみ中らしい。
画面の中彼が戦闘する相手は先日忍田さんから新たに監視命令を受けたネイバーだった。

選んだ武器は孤月のようだ。
太刀筋もしっかりしてるし、戦闘訓練でも受けてきたのだろう。
太刀川さんが5-1で勝利を収め、満足げに部屋から出てくる。

「お!榎本!!」

そして遠くにいたはずの俺を見つけて手をブンブンと振った。
視線が集まり騒つくのを感じながら、階段から降りてくる彼は元に向かう。

「遅ぇよ!」
「待ってる間もお楽しみだったじゃないですか」
「面白いぞ、あいつ」

他の隊員に囲まれる彼に視線を向ければ、パチリと目があった。

「榎本も戦っておけよ」
「孤月同士でやってるんじゃないんですか?」
「あ、俺の貸してやるよ」

ほれ、と彼は俺にトリガーを渡して コイツと戦ってくれとヒュースに声をかける。

「太刀川さん、俺孤月使うの初めてですよ」
「振れば切れる」
「…適当すぎるやろ」

眼鏡の人がそう言って苦笑する。

「まぁ、わかりやすくていいですよ。連戦で申し訳ないけど、付き合ってもらっていいですか?」
「…あぁ」
「彼はボーダーのS級。所謂、黒トリガー持ちだよ」

黒トリガー、と彼は小さく呟きこちらに視線を向けた。

「ランク的に言えば太刀川さんよりは下だから。孤月も初めてだし。どれくらい、君の相手になるかはわからないですけど 宜しく」
「…わかった」

転送された場所は彼の目の前。
すぐさま振り上げられた刀をいなし、二歩三歩と後退りする。

「負けたら、怒られそうだなぁ…」

まぁ、予定よりも早く接触できたから良しとしよう。
トリガーは回収されてるって話だけど、蝶の楯?とかいう名前だったよな。
電磁力と斥力を使うトリガー…。
どんなもんなのか想像つかないんだよなぁ。
戦闘のログは見られなかったけど、確か迅さんが相手したんだっけ?
その流れから玉狛の預かりとなった…。

「戦闘中に考え事か」
「あぁ、すいません…集中しますね」

孤月、というより刀の扱いには慣れてるようだ。
そういう訓練は受けていると見て間違いないだろう。

彼の攻撃を避けつつ、そんなことを考えていれば彼の表情が歪む。
意外と短気?イライラしてるのかな。
見た写真は角付きだったけど、トリオン体では消してるのかな。
ということは、本部にいる間は基本的にトリオン体ってことだろう。

「いい加減にしろ」
「イライラしないでくださいよ。考え事は、終わったので」

とりあえず、今回は勝っておこう。
弱い相手にはきっと興味を示さないだろうから。
親しくなるには勝つのが得策と見た。
空閑は三雲がいる限りそこまで不安視する必要はなさそうだし、俺の観察のメインはこっちにしておいていいだろう。

彼から距離をとって、孤月を握りなおした。

「それじゃ、改めてよろしくお願いします」





「どっちが勝ちますかね」

隣に立つ辻の言葉に首を傾げる。

「榎本が負けるわけねぇだろ」
「…孤月初めてなのに、ですか?」
「まぁ、4-1はあるかもな」

その自信は、どこから?
そう尋ねてくる辻にアイツと一番戦ってるのは俺だと笑ってやる。

「たぶん、どの武器持たせても 強いぞ。アイツ」

俺の期待を裏切んなよ、と内心思いつつ画面の中を見ていれば避けてばかりだった彼の反撃が始まる。
俺と初めて戦った時も最初は受けてばっかりだった。
だが、その間に色々考えてるんだろう。
防戦をやめて攻撃し始めたら、多分勝つ。

「うぉ!?まじか!?」

振り上げられた刀を孤月でいなし、懐に潜り込む。
ほら見ろ、アイツの動きだ。
振り上げたのは孤月の柄の部分。
顎を殴られ、少し仰け反った体を今度は上から真っ二つ。
相変わらず遠慮のない戦い方をする。

「な?」
「…すごい…」

アイツは武器の使い方が上手い。
孤月で戦う彼はますます、興味が湧く。
暴きたい。
彼の強さを。

俺の予想通り4-1で試合を終えた榎本がありがとうございました、とトリガーをこちらに差し出す。

「孤月はどうだ?」
「使いにくいですね。攻撃がシンプルになっちゃうので」
「ま、お前の普段の戦闘に比べりゃそうか」

遅れて出てきたヒュースに彼はお疲れさまと声をかけた。

「あぁ…」
「強いね」
「嫌味か」

そんなはずない、と答えながらも榎本の目は彼を見定めるような目だった。
ずっと目を細め、小さく息を吐く。

「とりあえず、今後ともどうぞよろしく」
「ヒュースだ。お前は、」
「榎本不吹です。好きに、呼んでください」

榎本?とヒュースが首を傾げ、つられて榎本も首を傾げる。

「知ってました?」
「迅に、会いに行くよう言われていた」
「へぇ…」

榎本の雰囲気が変わる。
こいつ、やっぱ面白いんだよな。

「榎本、遅くなったけど俺と遊ぼう」
「あ、はい」
「俺ともやろうや」

生駒の言葉に榎本がこちらを見る。

「コイツ、生駒。こっちが辻」
「あ、ありがとうございます」
「そろそろB級上位とか攻撃手くらいは覚えろよ」

関わることないので、と苦笑を零した彼は榎本ですとご丁寧に頭を下げる。
みんな知ってんぞ、とは言わなかったけど。

「辻もやるか?」
「あ、はい。是非」
「そんじゃ四つ巴といきますか」





「お、すげぇ人だかり」

榎本が戦ってると聞いて休憩がてら来てみたが、予想以上のギャラリーが集まっていた。
対戦相手は太刀川で、戦況は7-3ってところのようだ。

「珍しいですね、冬島さんが来るの」
「おぉ、お疲れ」

隊服に身を包む出水がぺこりと頭を下げる。

「任務か?」
「そうっすよ。なのに太刀川さん来ねぇから」
「なるほど。まぁ、あんな目ギラギラさせてちゃ、任務のことなんか忘れてるだろうな」

ですよねぇ、と出水が苦笑を零す。

「あの2人はいつもあんなか?」
「そうっすね。最近はよく連絡とってやってますね」
「へぇ…」

まぁ、気持ちはわかりますよと出水が笑う。

「榎本と戦うのは楽しいんで。そんなことする!?ってこと結構やってくるんですよね」
「お、終わったぞ」

太刀川の首を刎ねた榎本がブースから出てくる。
遅れて出てきた太刀川が榎本に駆け寄った。

なるほど。
随分と懐いた…っつーか惚れ込んだって感じか。

「太刀川さん!!任務の時間ですよ!?!集合時間決めたのアンタでしょ!!!」
「あ、悪ぃ!!!じゃ、また連絡するわ」
「はい、お疲れ様です」

手をぶんぶんと振りながら駆け出した太刀川を見送った榎本が自分の携帯を確認してから階段を降りてくる。

「よぉ」
「あ、冬島さん。お疲れ様です」
「お疲れ。もう上がりか?」

流石にやりすぎたので、と苦笑を零した彼は一体いつから太刀川に付き合っていたんだろうか。
トリオン体を解くと見慣れた制服姿に変わる。

「体調はもういいのか?」
「はい、おかげさまで」
「アイツに付き合ってると日が暮れるから、うざくなったらやめていいぞ」

付き合ってもらえてありがたいですよ、と彼は言う。
結構な戦闘狂か、こいつも。

「そういえば、何か用とかありました?」
「いや、随分遊んでるって聞いたから見にきただけだ」
「え、なんですかそれ」

誰から聞いたんです、という彼に みんな当真や諏訪の名前をあげればいつの間に見られてたんだ、と彼は苦笑を零した。

「お前は目立つって言う自覚が足りないな」
「太刀川さんじゃなくて?」
「あれはもう、レア度少ないだろ。いつも模擬戦してるし。お前はS級だからな」

そうなんですね、と他人事みたいに言って 彼はこてんと首を傾げた。

「これから帰るなら飯でも行くか?俺も上がりだし」
「あー…お誘いは嬉しいんですけど、すいません。相楽と約束してて」
「あぁ、この間の。じゃ、また今度。また声かけるわ」

彼の頭を撫でてそう言えば、はいと答えて少し曖昧な笑みを浮かべた。
作り笑いみたいな、なんか なんだろう?
不思議には思ったが、離れていく彼の背に かける言葉がなく見送った。

「それにしても。あんだけやってて、痛くないんかねぇ…」




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