恨みなんてものは欠片もない




言われたところへ行けば迅さんは誰かとの電話を丁度終えたところだった。

「ありがとう、助かるよ。榎本」

目の前で笑った彼はぼんち揚げ食う?と袋を向けてきた。
結構です、とそれを丁重に断って、それで?と首を傾げた。

「三雲を助けるために力を貸してくれないか、と言っていましましたけど…」
「見て、あれ」

指差された先。
警戒区域になって使われなくなった駅の跡地に彼の姿を見つける。
それから三輪さんと知らない人が数人。

「彼らを秀次から助けようと思ってる。で、榎本にはスナイパーを見つけて、止めて欲しいんだけど」
「スナイパー?」

多分2人いる、と彼は言って周りを見渡した。

「見つければいいんですか?だったら、すぐ終わります」

両耳を塞いで目を伏せる。
視界がゆっくりと拓けて、遠くまで見えるようになった。

スナイパー…

高い建物を中心に視界を動かしていけばそれらしいのが2人。

「…いました」

顔を上げて、今見えた所を指差す。

「あの屋上に1人。こっちに一人。…こっちの人は眼鏡でした」
「お、サイドエフェクトか?ナイス」

じゃあお前はあっち、と指差された眼鏡のスナイパーの方向。
その指の先から彼に視線を向ける。

「攻撃を止めてきて。方法はなんでもいいよ。トリガー起動してるから死にはしない。攻撃を止めたら駅まで誘導。緊急脱出されたら、榎本はそのまま駅に来てくれればいいよ」
「…わかりました」
「そんじゃ、またあとで」

もう一人のスナイパーの元に向かった彼から視線を逸らして俺を歩を進める。

全く、何をしているんだか。


『なぁ、榎本』
『…なんですか?』
『何か目的が出来たら。君は戦う?』

背中を向けたとき投げ掛けられた言葉。
なんだそれ、と思いながら振り返った。

『その時にならないとわからないですね』
『じゃあさ…』

彼はどこか楽しそうに目を細めた。

『メガネくん…えっと、三雲君を助けるのに力を貸してほしい』
『何を言って…』
『どうかな?』

どうかなって、説明少なすぎるだろと眉を寄せる。
彼はそれがわかったのか笑いながら口を開いた。

『ちょっと、理由あって三雲君とその友達が狙われてる』
『誰に?』
『三輪隊。…君に余計なことをした三輪秀次率いる隊だよ』

あの人か…
今日、逃げられなかったことを思い出して落ち着いていた苛立ちが戻ってくる。

『ボーダー隊員としてじゃなく、三雲君の友人として手を貸してくれたら嬉しい。…いい返事を期待してるよ』


そんな、彼との会話を思い出して何故あのとき頷いたのかと眉を寄せた。
三雲のことが心配だった、というのはないわけではないけど。
ただ、三輪さんに苛立っていたのかもしれない。

足音を立てずに階段を上り、静かにドアを開く。
さっき見つけた彼が駅の方向にライフルを構えていた。

死なないって言ってたし、怪我もしないはずだから…
彼の背後に静かに歩み寄る。
流石に気配に気付いたのかこちらを振り返り銃口をこちらに向けた彼。
その引き金を引く前に容赦なく彼の顔に蹴りを叩き込んだ。
ダメージを受けないと言っても衝撃を受けないわけではない。
もろに顔面に蹴りを食らった彼は吹き飛んで、目を丸くしてこちらを見た。

「えーっと…貴方に恨みなんてものは欠片もないんですよ」

地面に転がったイーグレットを拾い上げて、彼の額に銃口を向ける。

「突然蹴りを叩き込んだのはまぁ、すいません。痛くはないですよね、トリオン体なら」

彼は自分の額に向けられたイーグレットに、恐怖を目に浮かべる。
俺の言葉に返事なんてしないし、まともに会話はできなさそうだ。

「…まぁ、いいや。攻撃を止めて、ついてきてもらえますか?拒否するなら…まぁ、あれですよね」
「い、行きます。行くから、イーグレットは…っ」

泣きそうになっている彼に申し訳ないことをしたな、と思いながらそのライフルを地面に置いた。

「じゃあこれ、お返しします」

彼に背を向けて、屋上のドアへ向かって歩いていけば彼は驚いたように声を上げた。

「な、なんで…そんな簡単に返すんですか…?」
「俺と戦う意思があるんですか?」

振り返って彼を見れば肩を震わせる。
随分と怖がられてしまったようだ。

「もしあるなら相手しますよ。けど、戦う意思がないなら武器を持っていようがいなかろうが変わりません。意思のない者に戦う術があっても何の価値もないですから」
「っ!!」

目を見開いた彼はゆっくりと立ち上がって、俺の後ろをついてきた。

「あの…何が目的なんですか?」
「え?さぁ、よくわからないです。…迅さん頼まれただけですよ」

そんなとき、後ろをついてきていた彼が「あ、」と声を上げた。

「どうしましたか?」
「…あ、あの奈良坂さん!!」

彼は慌てたように誰かに声をかける。
誰かはわからないけど多分、もう一人のスナイパーだろう。

「邪魔が入ったんです、とでも言ってみたらどうですか」
「、え?」
「きっと向こうからも同じ返事が来ますから」

彼は目を見開いて、向こうから聞こえた声に諦めて肩の力を抜いたようだった。

「…諦めて、貰えました?まぁ…どうしても諦められないなら後ろからでも打って貰っていいですよ」

そう言って微笑めば彼は目を見開いた。
そんな彼に背中を向けて俺は階段を下りる。

彼は打つ気はないらしく、静かに後ろをついてきていた。

駅が近付いて迅さんの姿を見つけた。

「あ、お疲れ」

手をあげた彼に頭を下げればぼんち揚げ食う?と袋を向けてきて。
さっきも言いましたけど結構です、と断って俺は駅に視線を向ける。

「で、行くんですか?」
「うん。行くよ。榎本もね」
「…わかりました」

迅さんは俺の後ろにいたスナイパーに視線を向ける。

「すっごい怖がってるけど何したの?」
「別にこれと言ってなにも。蹴り飛ばして、脅しただけですよ」
「あー、うん。何もって言わないだろそれ…」

仕返しの機会はちゃんとあげましたよ、と言えば彼は苦笑を溢した。

「本当に仕返しされたらどうする気だった?お前、生身だよね?今」
「その時はその時ですよ」

そう言って視線を駅に向けた。

「いいんですか、悠長に話なんてしてて」
「へーきへーき。俺のサイドエフェクトがそう言ってるから」

彼の得意気な笑顔に俺は、視線を逸らした。
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