時を止めた世界




「俺の言ったとおりだったろ?」
「迅さん!」
「どもども」

片手を上げた彼は笑顔を見せる。

「おっなんかかわいい子がいるな。はじめまして」
「えっは、はじめまして」

小さな女の子に絡む迅さんを無視して、スナイパーの2人の後ろからさっきから気になっていた黒い浮遊物を見つめる。

なんだ、あれ…

三雲はその浮遊物に声をかける。

「あの迅さんの後ろの2人は三輪隊の…?」
「スナイパーだ。私が対処するつもりだったがジンとその仲間のおかげで戦わずにすんだ」
「仲間?」

三雲がこちらを見たから会釈をすればァれは目を見開いた。

「榎本先輩!?え、なんで…」
「なんか、よくわかんないけど流れで。無事そうで良かったよ」
「あ、ありがとうございます」

迅さんはホームのギリギリに立って誰かに声をかけた。
遊真と呼ばれた少年はこちらに視線を向ける。

「けっこうやられてるじゃんか」
「おっ迅さん」
「油断したのか?」

普通に手強かったよ、と彼は答えて。
俺は少年の足元に転がる三輪さんに視線を向ける。

なんか、体から鉄柱みたいなものが生えてる。

「な?秀次。だからやめとけって言ったろ?」
「わざわざ俺達を馬鹿にしに来たのか」
「ちがうよ。おまえらがやられるのも無理はない。何しろ遊真のトリガーは黒トリガーだからな」

迅さんの言葉に三輪さんは目を見開いて、同じく地面に転がっていた人は「マジで!?」と声を上げた。

「もしろおまえらは善戦したほうだな。遊真におまえらを殺す気がなかったとはいえ…さすがA級三輪隊だ」

黒トリガー…
あの少年のトリガーが、ねぇ…

「このところ普通のネイバー相手でもごたごたしてるのに黒トリガーまで敵に回したらやばいことになるぞ。こいつを追い回しても何の得もない。お前らは帰って城戸さんにそう伝えろ」
「その黒トリガーが街を襲うネイバーの仲間じゃないっていう保証は?」

ずっと黙っていた眼鏡じゃない方のスナイパーの言葉に迅さんは迷いなく答えた。

「俺が保証するよ。クビでも全財産でも賭けてやる」

彼の言葉に三輪さんは線路の砂利を握りしめた。

「何の得もない?…損か得かなど関係ない……!!ネイバーは全て敵だ!!」

明らかなる憎悪を彼は瞳に宿して、少年を睨み付けた。
そして、少年の斜め後ろのホームから彼らを見下ろしていた俺と視線が交わる。

「お、前…」

憎悪は俺にも向けられた。

「お前も、か」

お前も、そっち側か。
彼はそう言って今にも人を殺してしまいそうな目で俺を睨み付けた。

「緊急脱出!!」

彼がいた場所からボーダー本部へと伸びていった光。
よくわからないけど、何故かキレられた気がする。

もう一人鉄柱を生やして倒れていた男はトリガーを切って、ホームに寝転んだ。

「あー負けた負けた。しかも手加減されてたとかもー。さぁ、好きにしろ!殺そうとしたんだ。殺されても文句は言えねー」
「べつにいいよ。あんたじゃ多分俺を殺せないし」

2人の会話を聞き流しながら俺は一人改札の方向を目指す。
多分やることは終わったし、これから行かなきゃならないところもある。

「あ、おい。榎本、帰っちゃうの?」
「俺のやること終わりましたよね?もうお暇させて貰います」
「冷たいなー」

けど、ありがとなと笑った彼に頭を下げる。
あぁ、そうだ…忘れるところだった。

帰ろうとしていた足を止めてスナイパーの眼鏡の方に歩み寄る。

「さっきは、すいませんでした」
「え、え?いや!!大丈夫ですよ!?」
「そうですか。なら、良かったです」

それじゃあ、と頭を下げて俺は足早に駅を出た。





駅を出て1人向かった先は立入禁止区域になったためにずっと来れなかった本来の自宅。
財布の中に一応しまって置いた鍵で中に入れば昔と変わらない光景が目に入る。

「流石に埃っぽいな」

靴を履いたままリビングを覗けば粉々になった窓ガラスが散乱して家具はぐちゃぐちゃになっていた。

「悲惨だ…」

リビングの入り口横の階段を上り、両親の部屋のドアを開ける。
こちらもガラスや本が散乱していて、見るも無惨だ。

本を避けながら仕事の机の引き出しを開ける。

「目ぼしいものはなし、か…」

溜め息をついて、俯いたとき目に入った写真立て。
それを拾い上げればひび割れたガラスの向こう笑顔を浮かべる家族の姿。

本当にちょっとしたきまぐれだった。
その写真を写真たてから引き抜いてポケットに押し込む。

「…まぁ、無駄になるだけだろうけどな」

誰もいなくなったこの区域はあの場所と同じで時が止まってる。
時が進む音は1つもなかった。

立入禁止区域から出ればいつも通り時間が進み始める。
途中に写真立てと花を買っていつもの場所へ向かった。

「入るぞ」

相変わらず、返事はない。
ゆっくりとドアが閉じて、外の時間から空間が切り離された。

枯れかけた花瓶の花を捨て、新しい花を花瓶に差す。

「それから、これな」

花瓶の横にさっきの写真を入れた写真立てを置いた。
その写真から視線をベッドに向ける。

「……お前の世界も…この時のまま、止まってるんだろ?」

緩やかに揺れたカーテン。
ピッピッと規則的な音。
もう、慣れてしまったそれ以外何もない空間で俺はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「そういえば…ボーダー辞めたって言ったろ?なんか受理してもらえなかったみたいだよ」

忍田さんがしつこくてさ、と言葉を漏らして。
ベッドサイドの椅子に腰かけ、壁に背を預けて俺は静かに目を閉じた。

「使えない駒なら、捨ててしまえばいいのに」

彼は優しすぎるし、しつこすぎる。
余計なことばっかりしてくれるよ。

そう呟けば心地いい風が頬を掠めた。

「…ちょっとだけ、寝ていいか?なんか、疲れた」

俺は肩の力を抜いて、ゆっくりと闇に沈んでいった。
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