逢瀬を重ねることさえも
「律さん?」
「あれ?烏丸君?」
コンビニで米屋君と会ったときと同じものを籠に入れてレジに置けば、店員が俺の名前を呼んで視線を上げる。
「…お久し振りです」
「久しぶり」
「この間、玉狛来てたって本当ですか?」
相変わらず表情を崩さずにバーコードを読み取りながら彼はそう言った。
「あぁ、この間行ったけど…」
「俺も、律さんに会いたかったです」
「え?」
こちらをじっと見つめる彼に俺は目を瞬かせる。
「俺も他の皆には会ったんですか?」
「この間は陽太郎と林藤さんだけ」
「…皆、会いたがってたのに」
問い詰めるような視線に俺は頬を掻く。
怒らせてしまったみたいだ。
「…ごめん。俺も会いたいとは思ってるんだけど…」
「じゃあ今日、来てください。それで…許します」
「今日?うん、行けるけど。玉狛に?それとも烏丸君の家?」
彼は玉狛でお願いします、と言った。
「今日は玉狛に泊まる予定なので」
「うん、わかった」
とんかつ、作ろうか?と言えば彼が少しだけ表情を明るくした。
「俺の好物覚えてたんですか?」
「忘れるわけないじゃん。じゃあ、仕事終わったら玉狛に行くよ」
「仕事何時までですか?」
まだわからないけどそんなに遅くならない予定、と伝えれば彼はわかりましたと頷いた。
「烏丸君は何時まで?」
「6時までです」
「ん、了解。じゃあまた後でね」
お金を払って袋を受け取ろうとすれば彼は袋から手を離さなかった。
「どうしたの?」
「…また、使うんですか…?これ、」
「…うん、そうだね」
彼はそうですか、と呟いて目を逸らした。
「…じゃあ、バイト頑張ってね」
「はい」
▽
仕事を終えて、玉狛の支部に向かう。
ドアの前で誰かと一緒じゃないと入れないことに気づいた。
「困ったな…」
烏丸君のバイトが終わる時間までまだ少しある。
帰ってきてすぐにご飯が食べられるようにしてあげたかったんだけど…
「律?」
「あれ、迅さん?」
後ろから聞こえた声に振り返れば笑顔を見せる彼が立っていた。
「律が来るって俺のサイドエフェクトが言ってたんだよね。早く帰ってきてよかった」
「ナイスタイミングだね。丁度入れなくて困ってた」
「この間来てたんでしょ?声かけてくれればよかったのに」
トリガーというボーダーの武器をセンサーにかざせばドアが開く。
「烏丸君にも同じようなこと言われたよ。今日は前回声かけなかったことの代わり、みたいな感じ」
「だから夕飯がとんかつだったのか」
「そんなことまでわかっちゃうの?」
お楽しみがなくなっちゃったね、と苦笑を溢す。
「律のご飯ってだけで嬉しいよ」
「木崎さんのご飯には負けるよ」
ただいま、と迅さんが言う。
「律来たよー」
「律!?」
「あ、宇佐美さん。久しぶり」
ヒラヒラと手を振れば彼女は可愛らしい笑顔を見せる。
「久しぶりーっ!!」
「元気そうでよかった」
「律も元気そうでよかったよー」
林藤さんと陽太郎に挨拶をしてからキッチンを借りる。
木崎さんも小南さんまだ帰ってきていないようだった。
「律、今日のご飯はなんだ?」
俺の服の裾を引いた陽太郎に視線を向ける。
「烏丸君の大好物」
「とんかつ!!」
「正解」
楽しみだな、と笑顔を見せた彼に俺もつられて微笑む。
「沢山作るから沢山食べてね」
邪魔したら悪いから、と宇佐美さんが陽太郎を連れてキッチンから出ていく。
お肉の下準備を終えて、付け合わせの野菜や味噌汁を作り終えた頃キッチンに入ってきた誰か。
烏丸君が帰ってきたかな、と振り返れば普段ここに立っている木崎さんが驚いた顔で立っていた。
「お邪魔してるよ」
「律…!?」
「木崎さんも久しぶり。元気?」
元気だ、と彼は答えて隣に立つ。
「陽太郎の機嫌がいいと思ったらこういうことか。…夕飯がとんかつなところを見ると、京介だな?」
「正解。烏丸君になんで会いに来てくれなかったんだ、って怒られちゃって」
「玉狛に来たこと陽太郎から聞いて、珍しく本気で拗ねてたよ」
小南もな、と付け加えられて俺は苦笑を溢す。
「小南さんのご機嫌もとらないとかな…」
「そうだな。何か手伝うか?」
「いいよ。木崎さんもたまには家事はお休み。もう揚げるだけだしね」
悪いな、と彼はふっと口許を緩めた。
「2人はあとどれくらいで帰ってくる?」
「ん?そうだな…普段ならもうそろそろ帰ってくる」
「じゃあもう揚げ始めちゃおう」
衣を付けて置いてあったお肉を油の中に入れ始めたとき騒がしい声がこちらに近付いてくる。
「帰ってきたみたいだな」
「そうだね」
本当にいたー!!と声がして、だから言ったじゃないですかと答えたもう1つの声。
「お帰り、小南さん。烏丸君」
「た、ただいま…」
「ただいま、律さん。とんかつ、もうできますか?」
もうすぐ出来るから2人とも着替えておいで、と伝えればまたバタバタと騒がしくキッチンから離れていった。
「…何時にもなく騒がしいな」
「元気そうで安心した」
菜箸できつね色に染まっていくお肉を網の上に移す。
「美味しそうだな」
「木崎さんの料理には負けるよ」
「そんなことないだろ」
いつの間にか皿を出してくれていた彼にありがとうと伝えて、付け合わせと共に皿に盛り付ける。
「うん、完璧」
いい匂い、と言いながら顔を覗かせた宇佐美さんにもうできるよ、と伝えれば他のメンバーを呼びに言った。
テーブルにお味噌汁ととんかつを並べて、コップを出す。
「美味しそう…」
「律さんのご飯が美味しくないわけないじゃないですか」
「それもそうね」
早く早く、と急かす陽太郎の隣に腰掛けて、どうぞと言えば彼らは両手を合わせた。
「「「「「いただきます!!」」」」」
「お代わりあるから、足りなかったら言ってね」
「美味しいです、律さん」
とんかつを頬張った烏丸君は頬をハムスターみたいに膨らましてそう言った。
「ありがとう」
「てか、律!!なんでこの間会いに来てくれなかったのよ」
小南さんの言葉に今日3度目の言葉に俺は苦笑を溢す。
「あ、別に寂しかったわけじゃないわよ!?」
「俺は小南さんに会えなくて寂しかったよ」
「え、」
ピタッと固まり頬を染めた彼女にわざとらしく眉を下げる。
「そっか、寂しかったのは俺だけなんだ」
「ち、ちがっ!!わ、私だって…」
寂しかったわよ、と段々と小さくっていく声。
相変わらず可愛らしい。
「小南先輩、律さんの言葉は嘘ですよ」
「嘘!?騙したの!?」
「烏丸君、小南さんのこと騙そうとしないの。本当に会いたいと思ってたよ」
元気そうでよかった、と微笑めば彼女は真っ赤な顔を背けた。
「相変わらずのタラシだな、律は」
迅さんがそう言って笑う。
タラシじゃないよ、と答えるが彼はニコニコと笑ったままだった。
「お前らいつ見ても仲良いなぁ」
「そうですね」
俺たちのやり取りを見ながら林藤さんと木崎さんがほのぼのとそんなことを話していた。
「律さん、律さん。後で勉強見てください」
「構わないけど。俺より宇佐美さんと小南さんの方が頭良いんじゃない?」
「律さんがいいんです」
じゃあ後でね、と言えば少しだけ頬を緩め、おかわりとお皿をこちらに向けた。
「早いね。陽太郎はおかわりいる?」
「いる!!」
「ん、じゃあ持ってくるね」
▽
「美味しかったー」
「ありがとう」
何もなくなったみんなの皿の上。
おかわり用のとんかつも全てなくなった。
「片付け、手伝わせちゃってごめんね。宇佐美さん」
「え、いいよいいよー。気にしないで」
それにしても、と彼女は頬を緩める。
「律がいるとみんな凄く楽しそう」
「俺もここにいるの楽しいよ」
「いっそのこと住んじゃったらいいのに」
それは出来ないんだよね、と苦笑を溢す。
「ボーダーに入るのもオススメだけどなー。運動神経良さそうだし体力もあるし」
「規律があるのは苦手なんだよね」
戦ってまで守りたいものも恨みもないからと言えば彼女は残念だな、と言った。
「またこうやって顔出すよ」
「あんまり、待たせないでくれよ。律」
いつから聞いていたのか迅さんがそう言ってぼんち揚げをポリポリと食べた。
「次は俺優先な?」
「ん、覚えとく」
お風呂から上がった烏丸君がリビングに顔を出す。
「律さん、お風呂空きましたよ」
「ありがとう。上がったら部屋に行けばいい?」
「はい。待ってます」
濡れた髪をタオルで拭きながら部屋の方へ歩いていった彼を見ていた迅さんがこちらを見てすっと目を細めた。
「迅さん?」
「困ったなー。ライバルばっかり増えてく」
なんのことかわからず首を傾げれば迅さんはなんでもないよと笑った。
「じゃあお風呂借りるね」
「いってらっしゃい」
キャリーから着替えを出してお風呂の方へ歩いていけば、トタトタと足音がして振り返る。
「どうかした?迅さん」
「ん?うん、ちょっとね」
迅さんは俺の前に立ち、綺麗な笑顔を見せる。
「迅さん?…っ!?」
一瞬だけ触れた唇。
彼は珍しく頬を赤色に染めていた。
「次は、俺にもしてね?」
「…代わりに、泊めてくれる?」
「もちろん」
彼は満足そうに笑って俺に背中を向けて歩いて行った。
prev next
back