02
時々届くようになった平仮名だらけの光くんからのメール。
内容は幼稚園で何があったとか野球がどうとか、色々あるけどどのメールの最後にも絶対にまた会いたいと書かれていた。

なにをどうしてここまで気に入られたのかわからない。
子供は苦手なはずなんだけど…

光くんのメールに比較的簡単な漢字を使いながら返信を打っていれば手の中の携帯が震えだす。
着信の相手が真田さんで、首を傾げながらも携帯に耳をあてた。

「もしもし」
『あ、みょうじさん?真田です』
「どうかなさいましたか?」

電話の向こうから光くんの元気な声が聞こえて。

『今日、俺の仕事が早く終わって。光もみょうじさんに会いたいっていうんで3人でご飯でもどうかなーって思ったんスけど』
「え?いや、けど親子水入らずのほうがいいんじゃ…」
『光も俺も来てほしいと思ってるんでよかったら、と思ったんだけど』

これで断るのも失礼…なのか?
夕飯の準備もこれからだし。

「わかりました。お邪魔させてもらいます」
「あ、ホントっスか?光、みょうじさん、来てくれるって」
『ホントっ!?なまえ姉ちゃん、待ってるね!!』

真田さんの声より少し離れたところから声が聞こえて、私は小さく微笑む。

『ワガママ言ってすみません』
「大丈夫ですよ。一度家に帰ってから向かいますね」
『お待ちしてます。光、みょうじさん来るまでは部屋の掃除な』
『うん!!またね、なまえ姉ちゃん』

電話が切れて、携帯をポケットにしまう。
制服から私服に着替えて、財布の中身を確認する。

「子供って甘いもの好きだよね?」

光くんの家に向かう前に近所のケーキ屋さんに寄って、ケーキを3つ買った。

「やっぱり大きな家…」

ケーキの箱を片手に光くんの家を見上げていればバタバタの足音が聞こえた。

「なまえ姉ちゃん!!」
「こんにちは、光くん」
「パパ!!なまえ姉ちゃん来たよ!!」

光くんの後ろから真田さんが顔を出して微笑む。

「いらっしゃい。インターホン鳴らす前に光が出てきてびっくりしました?」
「少しだけ」
「窓から見えたらしくて、猛スピードで走って行っちゃって」

光くんは私の手を握って玄関へ引っ張っていく。

「早く早く!!」
「あ、あぁうん」

お邪魔します、と言えば真田さんが笑いながらゆっくりしていってと言った。

「あの、これ。どうぞ」
「え?あ、わざわざ買ってきてくれたんスか?」
「はい。好みとかわからないですけど、どうぞ」

真田さんはありがとうといい笑顔で答えて部屋の奥に入っていった。





いつもより早い時間に光くん達と夕飯を済ませ、ケーキも食べた。
ケーキを前にした光くんの目の輝きに笑ってしまって、光くんが少し拗ねたけど。

子供とは不思議なもので突然眠りにつく。
さっきまであんなに元気だったのに、と思いながら私の膝に頭を預けて眠る光くんの髪を撫でる。

「あれ、光寝た?」
「はい、突然」
「みょうじさん来るって言ったらすごく喜んでたし、疲れたんだろうな」

真田さんは優しい瞳で光くんを見つめてブランケットをかける。

「夕飯を付き合ってくれてありがとう」
「いえ、美味しかったし久々に楽しい食事でした」
「そっか。何本かお酒あるけど飲んでく?」

真田さんの問いかけに私は目を丸くして。
そんな私に真田さんは首を傾げた。

「あ、の…私…いくつだと思います?」
「え?21くらいかな。俺よりは年下だとは思うけど。どうして?」
「あ、いやあの…私、18歳なんですけど」

私の言葉に真田さんは固まって目を丸くする。

「…え?18?高校生?」
「はい。高校3年です」
「嘘だろ…」

ホントですと言えば真田さんはちょっと待って、とこちらに背中を向けた。

「…未成年者を家に連れ込んだことになる…よな」
「自分の意思で来てるので問題はないと思いますけど…」
「…ごめん」

申し訳なさそうに眉を寄せた真田さんに私は微笑む。

「気にしないでください。先に言っておかなかった私も悪いですし。光くんの誘いは断れないので」
「大人っぽいから全然わからなかったよ」

そう言って真田さんは苦笑して。

「平気?こんな時間まで」
「平気ですよ」
「なら、いいけど」

真田さんは隣に座って、光くんの髪を撫でる。

「私の方こそこんな時間までいいんですか?光くんのお母様にも悪いですし」
「あれ、言ってないっけ?光は片親。母親はいないんだ」
「え?」

真田さんがさらっと吐き出した言葉に目を丸くする。
片親…

「真田さんだけで育ててるんですね」
「うん。光を生んですぐに死んで。光はあんまり気にしてなかったんだけどな。でも、こんなに楽しそうなのは初めてなんだよ」
「そう、なんですか…」

光くんが元気ないなんて想像できないなと、思いながら光くんを見つめる。

「だから、さ…高校生のみょうじさんに頼むのは忍びないんだけど」
「なんですか?」
「また、来てくれたら嬉しい」

にこりと真田さんは笑って、ダメかなと首を傾げた。

「全然いいですよ。光くんといるのは楽しいですから。それに真田さんのご飯も美味しいし」
「あ、ホントに?褒められると照れる」


顔を少し背けて、どこか嬉しそうに真田さんが笑う。
膝で寝ていた光くんも少し、微笑んだ気がして私も笑ってしまった。

「パパ…なまえ…ね、ちゃん…」

寝言で光くんがそう呟くから、真田さんと顔を見合わせて。

「随分と気に入られたみたいだな」
「そうですね」

光くんに触れれば酷く暖かくて。
けど、嫌な気はしなかった。

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