02
「こんにちは、暁君」金色の髪を高く結んだなまえがにこりと笑ってこちらに手を振る。
「本当に…来たんだ」
「あれ、迷惑?」
首を傾げたなまえに首を横に振ればならよかったと笑う。
昨日と同じように口に飴をくわえてる。
ピアスもたくさんついてる。
それでも、凄く優しい笑顔を僕に向けた。
「ボール、捕っていい?」
「うん。ありがと」
「あたしがやりたいだけだよ」
キャッチャーミットをつけて、しゃがんだ悠がこちらに視線を向ける。
「ほら、投げていいよ」
「飴…食べたままじゃ危ない」
僕の言葉に首を傾げてから、ガリッと音がする。
「その飴…好きなの?」
「うん、好き。野球と同じくらいにね」
ゴミをしまって改めてこちらに視線を向け、ニヤリと笑う。
「今度こそどーぞ」
「うん」
なまえはやっぱり僕の球を簡単に捕ってくれた。
何球も何球も、笑いながらボールを捕るなまえ。
「なまえってどこかのチームに入ってるの?」
「ん?入ってないよ」
首を伝う汗を拭いながら、スポーツドリンクを飲み込む。
「え、入ってないの?」
「うん。ほら、あたし女でしょ?」
少し崩れた髪を結わき直したなまえが地面に座って立っている僕を見上げる。
「びっくりするけど女だね」
「びっくりしなくていい。まぁほら…女の子のチームってあんまりないし。球威も弱いからさ、満足できなくって」
暁君と一緒だよ、と少し眉を寄せる。
「周囲とレベルが合わなすぎて孤立する。まぁあたしは男子に加わればいいけど…試合はでれないでしょ?」
「試合…」
僕も出たことがない。
自分の球を捕れる捕手がいなければ投手は成り立たないから。
「試合、出たいよね」
「うん」
迷うことなく頷けば、話が合うねとなまえは笑う。
「あたしと暁君が出会ったのもきっと何かの縁だよね」
「え?」
「強い球を求めてチームに入れないあたしと強い球を投げてチームに入れない暁君。お互いの求めたものがこんな風に見つかった」
まぁあたしが女な時点でバッテリーは組めないんだよねーと残念そうな顔をしたなまえ。
確かにずっと探していた。
自分の球を捕れる捕手を。
それが女だったとしても僕にとっては特別な存在だ。
「僕は…」
「ん?」
「なまえでよかった。昨日出会えたのが…女だけどなまえでよかった」
なまえは目を丸くしてから、微笑む。
「ありがと。なんか嬉しい」
「…休憩、もう終わりでいい?」
なまえの笑顔を見て胸がドキリと高鳴ってなまえの顔から視線を反らす。
なんか…顔が熱い。
「いいよー。やろっか?」
「うん」
なまえは楽しそうに笑ってこちらにボールを投げた。
それを取ろうとして手を伸ばすがグローブに当たり地面に落ちる。
「捕るのは苦手なんだね」
「キャッチボールとかあんまり…したことない」
「じゃあ明日はキャッチボールもしようか」
グローブ持ってくるね、となまえが笑う。
また…明日も来てくれるんだ…
自然と顔が緩んだのかなまえは目を丸くさせた。
「暁君、そんな風に笑うんだね」
「え?」
「なんか、ずっと寂しそうな顔してたから…見れてよかった」
クスクスと笑うなまえに首を傾げる。
「よく…わかんない」
「いいよ、わからなくて。明日楽しみだね」
「うん」
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