03
みょうじなまえさん。
長い髪で少し影のある雰囲気の先輩。
周りよりも落ち着いていて、どこか冷めた感じで亮介さんと仲が良いらしい。

「どっかで見たことあるんだよな〜…」

初めて見たときから感じていた。
どこか見覚えがあると。
けど、それがどこか思い出せなくてモヤモヤする。

「何が?」

隣にいた倉持が首を傾げる。

「知り合った先輩がな。なんか見覚えがあるんだけど思い出せなくて」
「ふぅん…」


倉持は興味なさげに返事をして、教室に歩いていく。

「お前、なんか今日変じゃね?」
「別に」

ポケットに両手を突っ込んだ倉持は不機嫌そうに眉を寄せていた。

「なんだよ、なんかあった?」
「夢見が悪ぃだけだ。つーか、うぜぇからちょっと黙れ」

やっぱり少し、いや結構変だ。

「あ」

俺は足を止めて、倉持も少し先で足を止めた。

「なんだよ」
「俺が言ってた先輩。あの人」

廊下の先に歩く先輩を指差させば倉持もそちらを見て。
すぐに倉持が顔を伏せた。

「悪ぃ、宿題終わってねぇから先教室行くわ」
「は、ちょ!?倉持!?」

デジャブ。
昨日のみょうじ先輩と同じ感じで逃げられた。
何なんだろう、って思って俺は少し前を歩く先輩の名前を呼ぶ。

「みょうじ先輩!!」
「あれ、御幸君?どうしたの?」
「昨日、急に帰っちゃったからどうしたのかなーって思ったんすけど」

振り返った彼女は少し驚いた顔をしてから首を傾げる。
俺の言葉に彼女は微笑んだ。

「バイトの時間が迫ってたこと思い出して。ごめんね」

彼女の言葉にいくつもの何か≠ェ隠されていた。

「それと先輩って呼ばなくていいよ」
「え?」
「私は御幸君の先輩じゃないから」

みょうじさん、と呼べばそれでいいよと彼女は微笑んだ。


「みょうじさんは…」
「なに?」
「いえ、なんでもないっす。また部活見に来てください」

俺の言葉に彼女は困ったように眉を寄せた。

「ごめんね。私バイト忙しいから」
「休みの日でいいんで!!それじゃあ」

頭を下げて、教室に戻る足を少し速める。

彼女の言葉の裏。
隠された何か≠ヘ、多分倉持関係だ。
2人ともお互いから逃れようとしている、そんな気がした。




チラチラと雪が降っていた。
うなじを押さえて、吐き出した息は白い。

職員室で日誌を受け取って。
廊下で足を止めてぼんやりと窓の外を眺める。

「今日も…雪か…」
「雪なんか降ってないよ。てか、今春だし」

振り返れば小湊がいた。

「あぁ、おはよう」
「こんな晴天になんで雪?」

小湊は窓の外に視線を向けた。

「なんでもないよ。教室いく?」
「行くけど」
「一緒に行こうか」

小湊はなにも言わずに隣に並んだ。
雪はまだチラチラと降り続き視界の端に映っては消える。

「みょうじ、熱ある?」
「なんで?」
「なんかフラフラしてない?」

小湊はじっと私を見つめた。
そんなことないよと微笑めばそう、なんて納得してない顔で納得したような返事をした。

「…今日は変だね、みょうじ」
「そうかな?」

視界の端に映っては消える雪に内心舌打ちをして、うなじを指先でなぞる。

「…やっぱり、雪だ」

彼を見てから雪が、やまない。

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