06
「…どうすっかなぁ…」

昨日、アイツの母親に宣言した言葉。
嘘なんて欠片も含まれてはいないけど、どうすればいいがわからなかった。

見せてもらったアルバムのなかの1枚を我儘を言って貰ってきた。
雪の中、あの公園で笑う俺達の写真。

忘れてなんかいない。
雪ダルマを作って雪合戦をして。
雪の中、キャッチボールをしたら悴んだ手にボールが当たるのが凄く痛くて2人して涙目になってて。
でも結局顔を見合わせて笑い合った。

「それみょうじさん?」

ひょこっと顔を後ろから覗かせた御幸が写真と俺を交互に見た。

「あぁ」
「髪、短いんだな。今も綺麗だけどこのときも綺麗」
「…悪ぃけど、お前でも譲る気はねぇからな」

御幸は目を瞬かせて俺を見た。

「ヒャハッ変な顔」
「てめっ!!いきなりひどくねっ!?」
「うっせ」

写真をしまって御幸を見ればどこか安心した顔をしていた。

「なんだよ」
「いや、いつものお前に戻ったなぁって」
「…戻ってねぇよ。なんにも」

頬杖をついて眺めた窓の外。
あの日と同じ雪が見える。

「雪が…やんでねぇ」

雪が見えんの?と御幸も窓の外を見た。

「幻覚を見てるって訳じゃねぇよ。ただ、目に焼き付いてんだよ。あの日の雪が」
「みょうじさんも?」
「どうだろうな」

忘れてはいけないと体が俺に訴えかける。
ふとした瞬間に目に焼き付いたあの日の記憶が再生される。
アイツに会ってからその頻度が増えて。

いつまでたっても雪がやまないのは…きっと。
俺とアイツの記憶が降りだした雪の中で止まっているから。

「…倉持とみょうじさんってなんなんだよ」
「幼馴染み、だった」
「恋人だと思ってた」

御幸はムカつく笑みを浮かべた。

「恋人になれてたら、こんなことにはなってねぇよ」
「え?」
「幼馴染みっつー近すぎて遠すぎる関係だったから。俺は過ちを犯した」

キスでもしたのか?って首を傾げた御幸の頭を叩く。

「お前と一緒にすんじゃねぇよ」
「俺してねぇけど!!」
「つーか、キスくらいだったらその場で怒られて終わってたっつーの」

あの人怒るんだな、と意外そうに御幸は呟いて。

「怒ると怖ぇし。なまえ姉の拳骨スゲェ痛い」
「へぇ意外。…て、は?なまえ姉?」
「なまえ姉だけど、なんだよ」

似合わねぇと笑う御幸の脛を蹴って黙らせて舌打ちをした。

「年上の幼馴染みなんて姉弟みたいなもんだろ」
「そうだけど、なまえ姉って。昔のお前、可愛いな」
「うるせぇよ。つーか、キモいこと言ってんじゃねぇよ」

俺はもう一度舌打ちをして写真を見つめた。





クシュッとみょうじがくしゃみをした。

「風邪?」
「いや、違うと思うけど…」
「…体調が良さそうにも見えないけど」

小湊はそう言って私の顔をじっと見つめた。

「隈出来てる。寝てないの?」
「寝てるけど」
「…また、雪?」

小湊の言葉に私は苦笑する。

「それも、あるのかもね」
「…倉持ってそんなに大事な奴だったの?元彼とか?」
「あー…あれ。幼馴染みってやつ?」

私の言葉に小湊はは?と首を傾げた。

「幼馴染み?こんなに拗れてんのに?俺、てっきり別れるときにゴタゴタしたんだと思ってたんだけど」
「幼馴染みも拗れるときは拗れるよ」
「喧嘩?」

違うよと答えて私は笑った。

「私達はね、喧嘩してもね次の日にはなんで喧嘩したか忘れて仲直りしてた。馬鹿みたいでしょ?」
「喧嘩じゃなきゃなんなの?」
「わからない。…喧嘩だったらどれだけ良かっただろうね」

小湊は眉を寄せた。

「…めんどくさいね。二人とも」
「え?」
「なんか、見ててイライラする」

不機嫌ですと顔を書いてたある小湊は私にチョップをして、前を見た。

「俺の大事な後輩なんだよね。最近使い物にらないけど」
「…うん、ごめん」

私はそう答えたとき、暖かな風が髪を揺らして。
うなじの傷を風が撫でた。

「…春が、来ればいいのにね」
「もう春だけどね」
「そうたね」

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