04
「珍しいね」
「そうだな。お前が美術室に来るなんて」
「それはそうなんだけどそうじゃなくて」

俺は完成が見えない絵を描きながら首を傾げた。

「じゃあ何?」
「鳴さんの似顔絵。描いたのなまえでしょ?」
「そうだよ」

何で知ってんの?俺がそう尋ねれば昨日部室で自慢してたと言った。
ホントに自慢してんだあの人は…

「みんな女子が描いたと思ってるけど。俺はすぐにわかったよ、なまえの絵だって」
「それで?」
「いつの間に仲良くなったの?それに、何で鳴さんの絵描いたの?」

誰かと親しくなるなんて珍しい、と樹は言って空いている椅子に座った。

「親しくなんてなってない。知り合ったのも4日くらい前」
「それなのに描いたの?」
「悪いか?」

悪くはないけど、らしくない。
どこか拗ねた口調で筆を止めて振り返れば案の定拗ねた顔。

「拗ねんなよ」
「拗ねてないし。質問に答えてよ」
「あー…あの人、綺麗じゃん」

樹は目を瞬かせて、ため息をついた。

「それだけ?」
「あと、絵。好きって言ったから」
「鳴さんが?…なんか意外」

樹はそう言って首を傾げた。

「あれ、ねぇ。どこで会ったの?てか、なまえが絵描くってどこで知ったの?」
「よくわかんないけど、見に来た。ユニフォームで」
「へぇ…やっぱり意外」

樹は先輩だからタメ口とかきくなよって言った。
そういえば、あの人先輩か…

「もしかしてなまえ…」
「手遅れだね」
「…馬鹿。怒られてない?喧嘩とか…」

怒られてないし喧嘩もしてないと答えれば安心したように笑った。

「お前は俺の親か何かか?」
「お前みたいな子供は嫌」
「同感だ」

筆を水桶に入れて、くるりと椅子を回転させて樹と向き合う。

「ありがとな」
「な、にが…?」
「心配して来たんだろ?そういうとこ変わってない」

樹は視線を逸らしてため息をついた。

「こいつの幼馴染みもうやめたい」
「何で?」
「なんかさ、ズルいしあざとい」

普段はお礼なんて言わないくせにとそっぽを向きながら樹は呟いて。
俺はクスクスと笑って、椅子を元に戻す。

「あの人は多分平気」
「なら、いいけど」
「だってお前が信頼してる人だろ?なら、平気」

そういうとこあざといって言ってるのわかってる?って樹は言って。

「まぁ…少し我儘で融通きかないけど…悪い人じゃない」
「それだけ聞いたらお前にそっくりだな」
「俺のイメージそんなの?酷くない?」

冗談って言えば樹は立ち上がって。

「俺、先に戻るから」
「おー」
「遅れないようにね」

わかってるよ、って答えて背中を向けたまま樹に手を振った。

「…お前にそっくりだよ。あの人」

一人になった教室でそう小さく呟く。

俺の絵を好きだと言って、似顔絵1つであんなに喜んで。
くるくると変わる表情も、俺の傍が退屈じゃないと言ったのも。

お前とあの人くらいだ。

あの真っ直ぐな瞳とか、真っ正面から見つめると顔を逸らすのとか…
そういうのもよく似てる。

「そういえばあの人エースだっけ?て、ことは投手?」

樹は捕手だから…いつかバッテリー組むのか。

筆の片付けながら2人がバッテリーを組んでいるのを思い描いてため息をつく。

「うるさそうなバッテリーだな…」

けど、見てみたい気もする。
今度気が向いたら野球部の練習見に行くか…

樹に熱心に誘われてるし。
見るなら暑くなる前だな…

「あー…授業めんどくさい」

サボったら樹に説教されるだろうし。
ツナギをいつもの場所にしまって体を伸ばす。

「眠い…」

予鈴が聞こえて、俺は美術室を出た。

「授業中は睡眠かなぁ…」

欠伸をしながらたんたんと音をさせて階段を上った。

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