06
授業中、欠伸をして眠いと小さく呟く。3時間目。
空腹と睡魔に襲われながら黒板を眺めていたけどそれも限界で気分を変えようと視線を窓の外に向ける。
いいなぁ、サッカー…
グラウンドでは1年がサッカーをしていて。
そのなかに樹を見つけた。
樹がいるってことはみょうじも…
ボールを追いかけて走り回る樹から視線を逸らしてみょうじの姿を探す。
「あ、いた」
長袖長ズボンでポケットに両手を突っ込んだみょうじは走り回ることもせず、ぼんやりと動き回る人達を眺めていた。
やる気なさすぎじゃん!!
樹が声をかけてたけどそれも適当に流して。
見かねたのか先生が話してる2人の元に行った。
何か少し話して、みょうじはめんどくさそうにズボンの裾を数回折って、袖を捲った。
走り出したみょうじは軽々と敵からボールを奪って。
2人、3人と敵を抜いてゴールへ向かう。
上手いとかそんなレベルじゃない…気がする。
誰一人寄せ付けず、外神はゴール前について。
ゴールの左上隅にシュートを決めた。
すごっ!!
あんなに出来るとか知らなかった…
そのあとも2点を入れ、みょうじのチームが勝ったらしい。
喜ぶチームメイトを他所にみょうじは服を直してグラウンドから出ようとしていた。
けどそんなみょうじの周りをチームメイト達が囲み、わいわいと何か言ってるのを迷惑そうに聞き流していて。
退屈だったのか、顔を上げた。
驚いたのか目を丸くしたみょうじ。
俺も気付かれると思ってなくてビックリした。
みょうじはすぐにいつもの表情になって、ひらひらとこちらに手を振った。
少し戸惑って手を振り返せば、みょうじは微笑んで。
うわっ、何あの表情!!
見たことなかった。
あんなに優しい顔してるの。
絵に向けるのとはまた少し違くて。
また音をたてて跳ねた胸に俺はなんだろう、と心のなかで呟いた。
▽
「サッカーお疲れー」
「ホントに疲れた」
昼休み、いつものように美術室に行けばくるりと椅子を回転させて外神がこちらを見た。
「最初、やる気なさすぎでしょ」
「疲れるからやりたくなかった」
「最後の方頑張ってたじゃん」
俺の言葉にみょうじは少し口をとざして、気まずそうに視線を逸らす。
「一番点入れたら体育の成績5にしてやるって言ったから」
「…そんな理由!?」
「そう言われそうだったから嫌だったんだよ」
彼は不服そうに眉を寄せる。
「そんな理由がなきゃ、俺は真面目になんてやらない」
「折角上手いのに」
「別に上手くない」
凄い嫌そうな顔をして、みょうじは樹に渡されたであろうおにぎりの封を開けた。
「野球は?できる?」
「そこそこ。樹に付き合わされてたから」
「あぁ、そっか」
疲れるから絶対やらないけど、と付け足してみょうじはおにぎりを食べる。
相変わらず食べにくそうだ。
「てかさ、あれだけで疲れるの?」
「疲れる。引きこもりナメんな」
「えー!!けどさ、みょうじ結構筋肉あるじゃん」
あるわけないだろ、と嫌そうな顔をして俺を見た。
「腕とか、結構がっしりしてる」
「そりゃ、絵描くのにも腕の力必要だし」
「あ、そうなの?」
ずっとパレット持ってるし、筆もずっと上げたまま。
言われてみれば腕は疲れそうだ。
「アンタも小柄だけどムキムキなの?」
「小柄だけどっていらないからね!?」
「あ、悪い。気にしてたか」
みょうじはどこか楽しげに目を細める。
「筋肉はそこそこ。ムキムキってほどじゃないかな。背はこれから伸びるからっ!!」
「伸びるの?」
「た、多分…」
伸びてくれなきゃ困る。
投手として身長はあるに越したことはなくて。
そんなことを考えながら新しいパンの袋を開けようとした。
「あ…ねぇ、ちょっと手見せて」
「は?」
やっと1つ目のおにぎりを食べ終えて、みょうじは机に乗り出す。
「え、な…なに?」
「だから、手」
「何でそんな流れになったの!?」
何となくって彼は言って、俺の手を取る。
「なんだよ…」
「…マニキュア?」
俺の手を取って、少し不思議そうに首を傾げた。
「え?あ、うん。爪が割れないように保護するやつ」
「投手ってこんなことするんだ。…てか、塗るの苦手?」
「何でわかったの!?」
塗り方にムラがあると言いながら爪を撫でる。
「他の人に塗ってもらえば?」
「そんな器用な奴、いると思う?これでもマシな方。もっとちゃんとした方が爪にはいいんだけど」
「…俺、塗ってあげようか?」
みょうじは首を傾げて、俺を見た。
「…は?」
「こういうのはアンタらよりは上手いと思うけど」
「え、いいの!?」
持ってきてくれれば出来ないこともないよと言って彼は手を離した。
「本当に持ってくるけどいい?」
「どうぞ」
「じゃあ持ってくる!!」
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