07
次の日の昼休み。
約束通り、彼は透明なマニキュアを持ってきた。

「これ」
「あぁ、うん」

飲みかけのウィダーに蓋をしてそれを受けとる。

「じゃあ座って」

いつもの斜め後ろではなく、隣の椅子を叩く。
あとこれも、と言って渡された爪やすりに首を傾げる。


「爪やすり?」
「ついでにお願いっ!!」
「別にいいけど…こういうのって自分の感覚とかあるんじゃないの?」

特にないから、と言って椅子に座る。

「じゃ、左手」
「ん」

彼の手を取って、1本ずつ爪やすりをかけていく。

「…ね、ご飯食べていい?」
「右手だけでなら」
「うん」

右手でパンを取った彼はピタッと動きを止めた。

「開けて」
「計画性がないね、アンタ」
「うるさい」

パンの袋開けて少しだけ出して渡せばありがとっ!!といつもみたいに笑った。

「超丁寧だね」
「大事なもんだろ?」
「…うん」

こんなもんで平気?と聞けば彼は満足そうに頷いた。

「じゃあ、マニキュア塗るから」
「うん」





俺の指に優しく触れて、1本ずつ丁寧にマニキュアを塗っていく。
俯いてるみょうじの顔がいつもより近くにあってちょっとそわそわする。

彼が触れるところが熱をもって、俺は目を逸らす。

「…何で黙ってんの?」
「だって…なんか、恥ずかしい…」
「なんで?」

みょうじが顔を上げて、至近距離で交わった視線。

「っ!!」
「顔赤い」
「うるさいっ!!」

みょうじはクスクスと笑って、また顔を伏せた。

「お前最近よく笑う」
「そんなことないと思うけど」
「そうかなぁ?」

みょうじの笑顔で俺がどんな風になってるかなんて知りもしないんだろう。

満足そうに微笑んだみょうじが、俺の手を離した。

「はい、じゃあこれ少し乾かして」
「うわっ!!スッゴい綺麗っ!!」
「乾いたらもう1回な」

みょうじは飲みかけだったウィダーを飲み始める。

「本当器用だね、お前」
「そう?」
「今までこんなに上手い奴、いなかった」

またやってくれる?と聞けば別にいいけどと答えた。

「けどさ、アンタモテるんでしょ?女にやってもらえばいいのに」
「誰か一人とそういうことすると勘違いされるじゃん」
「あぁ…そういうもの?」

大変だね、とみょうじは言って。
まぁ、俺でよければやってあげると言いながら微笑んだ。

「どれくらいの頻度でやんの?」
「んー…結構頻繁。試合前にも塗って欲しいし」
「試合って土日?」

会えないだろ、とみょうじは言った。
言われてみれば土曜は学校ないし、あっても午前。
昼休みに会うことはできない。

「あー…そうだっ!!」
「なに?」
「試合前日、練習見に来ればいいじゃん」

ナイスアイデア!!と言えば、みょうじははぁ?と声を上げた。

「決定ねっ」
「我儘」
「うるさい」

先輩命令ね、と言えばあ、と声を上げた。

「お前、先輩だって忘れてただろっ!!」
「そんなこと…ない」
「絶対だからねっ!!」

はいはい、と仕方ないという表情をした。
けど、視線が優しくて慌てて爪に視線を落とす。
みょうじはもう乾いた?と首を傾げた。

「乾いた!!」
「じゃあ、重ね塗りするから」
「ん」

優しい手つきで触れたみょうじ。
やっぱりそわそわして、視線を逸らす。

胸の音が速くなっていくのがわかる。

「…ありがと」
「突然なに?」
「別に」

彼は顔を上げて、でもすぐに顔を伏せた。

「照れるなら言わなきゃいいのに」
「うるさいっ!!」

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