09
「ねぇ、聞きたいんだけど!!」
「は?」

昼休み、みょうじといた俺は突然そう彼に言った。

「ずっとそいつのこと考えちゃって、会いたいとか一緒にいたいって思って」
「え、あぁ…」
「他のやつの話されると胸が苦しくなって、笑ってる顔見たり、触れられると胸が跳ねる。…これ、なんだと思う?」

俺の問いかけにみょうじは目を瞬かせて。

「アンタってそんな馬鹿だっけ?」

馬鹿って言うな!!と言えば、誰だって言うだろと返された。

「俺、病気?」
「…その人といるとドキドキする?」
「いつもってわけじゃないかな。たまに」

みょうじは筆を置いてこちらを見て、ため息をついた。

「それ、恋…だろ」
「恋?」
「他に何があると思ったわけ?」

恋?
俺が、アイツに?
だってアイツ、男じゃん。

「…それはない」
「そこまで思っててなんでないって思うんだよ」
「え、だって…男だよ?」

みょうじがビシッと固まった。

「いや、いやいやいや…マジで?」
「え、うん」
「…驚愕の事実…」

みょうじは俺の額に手を伸ばす。
触れた場所が熱をもった。

「熱あるか?」
「あるわけ、ない」
「…だよなぁ…」

マジで男?って聞かれて俺は頷く。

「女の子好き?」
「好きに決まってんじゃん」
「あー…あれか」

みょうじは頬杖をついて、視線を逸らす。

「男が好きなんじゃなくて、好きになったのが男だっただけ…みたいな?」
「俺、やっぱり好きなの?」
「他にどうやってその感情に名前つけるんだよ」

それはそうだけど、と俺は口を閉ざす。

恋?
好きってことだよね?
俺が?みょうじを…?

視線を逸らしてるみょうじを見て、急に速くなっていく鼓動。
顔を熱くなっていく。

いやいやいや…え、マジで?

「…大丈夫か?固まってるけど」
「だ、い…じょばない」
「だよな」

みょうじは少し俺を見つめてから考えてみて、と言った。

「その人とキスしてるとこ」
「は?」
「想像でできたら多分間違いないだろ?」

みょうじの言葉で頭のなかに浮かんでしまった映像。
顔が一気に熱くなっていく。

「…馬鹿!!」
「え?」
「出来ちゃったじゃんかっ!!」

みょうじにそう突っ掛かれば俺のせい?と首を傾げ、苦笑する。
そんなみょうじにさえ俺の胸は鼓動は速めた。

なんかの間違いとかじゃないか、って思ったけど。
確かに今までにもドキドキすることが何度かあって。
みょうじが樹の話をすると胸が苦しくなって。
笑顔が見たくて、特別扱いが嬉しかった。

「ど、うすれば…いいの?これ」
「えー…俺に聞くか?まぁ俺は男同士だからって偏見はないけど。全員がそうってわけじゃないだろ」
「…うん」

その人との友情を壊したくないなら、言わないのも手じゃない?とみょうじは首を傾げながら言った。

「自覚しちゃったら、普通じゃいられないんだけど…」
「だったら伝えるだけ伝えて。それでも友達でいてくれるっていうなら友達で。もしも付き合えたらラッキーじゃない?」

友達に戻れなくなる可能性だってあるから、それはちゃんと考えた方がいいと言って。
けど、それでアンタを嫌うような男なら付き合わなくて正解かもって思うなんて優しい目をして言った。

「お前だったら…どうする?」
「どうするって?」
「男に告白されたら」

みょうじは首を傾げた。
少し考え込んでから口を開く。

「多分凄く悩む。けど、大切な人なら俺は友達をやめるってことはない。付き合うかは…相手次第?」
「そ、か…」
「あ、けどまずはキスしてみる」

みょうじの言葉に俺は固まる。
は?と溢した言葉にみょうじはいつも通りの態度で口を開く。

「無理って思っててもキスして、嫌悪感がなければなんとかなりそうだろ?女でも付き合ってキスしてダメだって思うこともあるし。頭じゃ先入観とか常識が邪魔するしな」
「…そうなの?」
「俺の場合、だけど」

キス…する?

俺が俯けばみょうじはガタッと椅子から立ち上がって。
ポンポンと俺の頭を撫でた。

顔を上げれば至近距離にみょうじの顔があって。
彼は優しく微笑んだ。

「まぁ、俺で良ければ話聞いてやるから」
「…みょうじ」
「ん?」

首を傾げた外神のツナギの下に着ていたシャツの襟元を掴んで少し強引に引き寄せる。

「え?…んっ!?」

重ねた唇が凄く熱くて、心臓の音が今までにないくらい耳に届く。

「ちょ、なんで俺にキスしてんの!?俺にすんじゃなくて好きなやつにしないと…」
「だから、した」
「は?」

なんで俺がこんなことになんて思いながらと震える唇で言葉を紡ぐ。

「みょうじ…のこと、好きだから」

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