11
「鳴さん」みょうじに告白をして、逃走してから早くも1週間。
俺はそろそろ限界だった。
会いたくて、モヤモヤした。
みょうじは今何してるんだろうって、俺がいなくて少しは寂しいって思ってるかなって考えちゃって。
「鳴さん!!」
「わっ!?な、なに…樹?」
「さっきから何度も呼んでたんですけど。…大丈夫ですか?」
何か最近変ですよと樹は心配そうな目を俺に向けた。
「へーき、へーき。話それだけ?」
「いえ。あの…なまえのことなんですけど」
この名前がこのタイミングで出てくると思わなかった。
もしかして、バラした?
…そんなこと、しない…よね。
「最近会いましたか?」
「会って…ないけど」
「先週からずっと休んでるんです」
何か知ってますか?と樹は首を傾げた。
「来て、ない…の?」
「そうなんです。電話しても通じないし…様子を見に行きたいんですけど1年なので練習とその後の片付けで時間なくて抜けられなくて」
「先週から…1週間?」
はい、と樹は頷いた。
俺の、せい?
それ以外に何があるんだよ、俺のせいだ。
けど、なんで…
「もし、鳴さんが良ければ…様子を見に行って欲しくて…」
「え?」
「家は近いので…無理、ですか?」
俺は少し躊躇った。
会うのが、怖い。
「…なまえ、鳴さんには心開いてるから…。多分家に行っても平気だと思うんですけど」
ダメですか、と首を傾げた。
樹の言葉に顔を俯ける。
会うのが怖い。
怖いけど、会いたかった。
「わ、かった。…代わりにジュースね」
「あ、ありがとうございますっ!!」
樹は嬉しそうに笑い、合鍵と家への地図をくれた。
▽
玄関の前、俺はため息をついた。
ここまでは来てしまった。
チャイムを鳴らす指が震えて、かれこれ5分くらいここにいる。
よしっ、と気合いを入れてチャイムを鳴らした。
けど、物音ひとつ聞こえない。
もし出なかったか合鍵で勝手に入れと言われたけど…
恐る恐る鍵を開けて、中を覗く。
「みょうじ…?」
中は薄暗く、やっぱり物音ひとつ聞こえない。
「入るからね?いいの?」
ワンルームのアパート。
音を立てないように歩いて、仕切りのカーテンをゆっくりと開けた。
「…みょうじ?」
中を覗いて、俺は暗い部屋の電気をつけて目を疑った。
「おいっ!!みょうじ!?」
床に倒れたみょうじに駆け寄って体を揺らす。
「ん…」
体がピクッと動いたけど、目を開けなくて。
どうしよう、と周りを見渡して体が固まった。
「え…」
部屋の真ん中。
置かれたキャンパスに描かれていたのは俺だった。
なんでとかどうしてとか考えてもわかるはずもなくて。
俺は倒れてるみょうじの肩を揺らした。
「な、んで…俺のことなんて描いてんの?」
なんで、あんなこと言ったのにこの部屋の真ん中に置いてるの。
なんで、なんで…
あの絵の俺はあんなに嬉しそうに笑ってんの?
「…みょうじ…」
泣きそうになる。
だって、普通に気持ち悪いって思われてもおかしくないことをした。
嫌われても仕方ないことをした。
それでいて、逃げ出したのに…
「…なんで…泣いてんの?」
倒れてたみょうじが伸ばした手が頬を撫でた。
「みょうじ…」
「…びっくり、した?倒れてて」
コクりと頷けば彼は苦笑した。
「1週間不眠不休で、描いてたから」
「…お、れの絵を…?」
「他に何があるんだよ」
体を起こしたみょうじがポンポンと頭を撫でた。
「色々話したいとこだけど…」
「な、に…」
「風呂入ってきていい?」
その間に、泣き止んでとみょうじは微笑んだ。
「さっさと行けよ、馬鹿っ!!」
「馬鹿は余計だ」
みょうじは俺にタオルを1枚手渡して、部屋から出ていった。
「なんで、泣いてんだよ…俺」
俺は唇を噛んで渡されたタオルに顔を埋めた。
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