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「鳴さん」

みょうじに告白をして、逃走してから早くも1週間。
俺はそろそろ限界だった。
会いたくて、モヤモヤした。

みょうじは今何してるんだろうって、俺がいなくて少しは寂しいって思ってるかなって考えちゃって。

「鳴さん!!」
「わっ!?な、なに…樹?」
「さっきから何度も呼んでたんですけど。…大丈夫ですか?」

何か最近変ですよと樹は心配そうな目を俺に向けた。

「へーき、へーき。話それだけ?」
「いえ。あの…なまえのことなんですけど」

この名前がこのタイミングで出てくると思わなかった。
もしかして、バラした?
…そんなこと、しない…よね。

「最近会いましたか?」
「会って…ないけど」
「先週からずっと休んでるんです」

何か知ってますか?と樹は首を傾げた。

「来て、ない…の?」
「そうなんです。電話しても通じないし…様子を見に行きたいんですけど1年なので練習とその後の片付けで時間なくて抜けられなくて」
「先週から…1週間?」

はい、と樹は頷いた。

俺の、せい?
それ以外に何があるんだよ、俺のせいだ。
けど、なんで…

「もし、鳴さんが良ければ…様子を見に行って欲しくて…」
「え?」
「家は近いので…無理、ですか?」

俺は少し躊躇った。
会うのが、怖い。

「…なまえ、鳴さんには心開いてるから…。多分家に行っても平気だと思うんですけど」

ダメですか、と首を傾げた。
樹の言葉に顔を俯ける。
会うのが怖い。
怖いけど、会いたかった。

「わ、かった。…代わりにジュースね」
「あ、ありがとうございますっ!!」

樹は嬉しそうに笑い、合鍵と家への地図をくれた。





玄関の前、俺はため息をついた。
ここまでは来てしまった。

チャイムを鳴らす指が震えて、かれこれ5分くらいここにいる。

よしっ、と気合いを入れてチャイムを鳴らした。
けど、物音ひとつ聞こえない。

もし出なかったか合鍵で勝手に入れと言われたけど…
恐る恐る鍵を開けて、中を覗く。

「みょうじ…?」

中は薄暗く、やっぱり物音ひとつ聞こえない。

「入るからね?いいの?」

ワンルームのアパート。
音を立てないように歩いて、仕切りのカーテンをゆっくりと開けた。

「…みょうじ?」

中を覗いて、俺は暗い部屋の電気をつけて目を疑った。

「おいっ!!みょうじ!?」

床に倒れたみょうじに駆け寄って体を揺らす。

「ん…」

体がピクッと動いたけど、目を開けなくて。

どうしよう、と周りを見渡して体が固まった。

「え…」

部屋の真ん中。
置かれたキャンパスに描かれていたのは俺だった。

なんでとかどうしてとか考えてもわかるはずもなくて。
俺は倒れてるみょうじの肩を揺らした。

「な、んで…俺のことなんて描いてんの?」

なんで、あんなこと言ったのにこの部屋の真ん中に置いてるの。
なんで、なんで…
あの絵の俺はあんなに嬉しそうに笑ってんの?

「…みょうじ…」

泣きそうになる。
だって、普通に気持ち悪いって思われてもおかしくないことをした。
嫌われても仕方ないことをした。
それでいて、逃げ出したのに…

「…なんで…泣いてんの?」

倒れてたみょうじが伸ばした手が頬を撫でた。

「みょうじ…」
「…びっくり、した?倒れてて」

コクりと頷けば彼は苦笑した。

「1週間不眠不休で、描いてたから」
「…お、れの絵を…?」
「他に何があるんだよ」

体を起こしたみょうじがポンポンと頭を撫でた。

「色々話したいとこだけど…」
「な、に…」
「風呂入ってきていい?」

その間に、泣き止んでとみょうじは微笑んだ。

「さっさと行けよ、馬鹿っ!!」
「馬鹿は余計だ」

みょうじは俺にタオルを1枚手渡して、部屋から出ていった。

「なんで、泣いてんだよ…俺」

俺は唇を噛んで渡されたタオルに顔を埋めた。

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