12
「泣き止んだ?」

適当な私服に着替えて、部屋に戻れば彼はコクりと頷いた。

「部屋、汚くてごめん。ベッドにでも座って」

俺はキャンパスの前の椅子に腰かける。

「みょうじ…」
「ん?」
「なん、だよ…その絵…」

俯いた彼から絵に視線を向ける。

「アンタの絵だよ」
「だからっ!!なんでそんなものっ!!」

顔をあげた彼の瞳は真っ赤になってて。

「アンタは…いつもこんな風に笑ってんだよ」
「は?」
「思い出したら描きたくなった」

絵の中の彼に触れて、冷たい温度が指先に伝わる。

「びっくりするぐらい筆が進んだ。初めてちゃんと完成させたいと思った。初めて、自分でタイトルをつけた」
「…だから、なんだよ…」

絵から手を離して彼を見る。
不安げに揺れる瞳は、すぐに伏せられた。

「…アンタにキスされて、告白されて、逃げられて」
「っ!!」
「1週間も会わなかった。アンタと出会ってから初めてだよな、こんなに会わなかったの」

彼はコクりと頷いた。
そんな彼に手を伸ばして頭を撫でる。
ビクッと肩が震えて、恐る恐る視線を上げた。

「初めてだったよ…こんなにも会いたいって思ったのは」
「え…」
「物足りないって、思ったのは…本当に初めてだった」

髪を撫でていた手を滑らせて、頬に手を添える。

「みょうじ…」
「アンタは…会いたかった?」
「…うん」

そっか、と言って椅子から立ち上がる。
頬に添えた手で上を向かせて。
俺をじっと見つめる彼の瞳を頬に添えたのと反対の手で隠した。

「え、なに?おい、みょうじ!?」

慌ててる彼の唇を自分ので塞ぐ。
ビクッと体が震えて、彼の体が固まった。

ゆっくりと唇を離して、自分の顔を見られないように彼を両腕で抱き締めた。

「な、に…して…」
「嫌じゃ、なかったんだ。アンタとキスして」
「え…」

アンタは嫌だった?
俺の問いかけに嫌なわけないと彼が答えた。





みょうじにキスをされた。
それでみょうじに抱き締められた。
肩に彼の顔が埋められて、首に触れる髪がくすぐったい。

「…みょうじ、顔見たい」
「嫌。今スゲェ情けない顔してる」
「それでも、見たい」

みょうじは少し躊躇って俺から離れた。

みょうじがベッドに膝を乗せてるから、いつも以上に近くにみょうじの顔があって。
吐息が交ざる距離、多分これがその距離なんだと思う。

凄く優しい顔をして、みょうじが俺を見ていた。

「…好き」
「うん」
「ホントに、好き」

両腕を伸ばして彼の背中に回す。
距離がまた、近くなってあと少しでキスをしてしまいそうで。

「みょうじは?好き?俺のこと」
「好きだ、鳴のこと」

初めて、名前を呼んでくれた。
いつもアンタって言って、成宮とも呼んでくれなかったのに。

「ズルい」
「は?」
「俺も、呼びたい。なまえって」

呼んで、とみょうじは言った。
優しい声で、頭がくらくらする。

「なまえ」
「うん」
「…会いたかった」

俺も、と彼は言ってぎゅっと抱き締められる。

男なのにとか、もう考えられなかった。
頭の中まで彼に侵食された、そんな感じ。

「…好きで、いていいんだよね…?俺、なまえのこと。好きで、いいんだよね?」
「いてくれないと、困る」
「…うん。なまえも…俺のこと…」

ずっと好きでいるよ、と耳元で囁かれて。
俺は真っ赤に染まっているであろう顔を彼の胸に押し付けた。

「ねぇ…あの絵の…タイトル、なに?」
「え?」
「最愛」

抱き締めていた腕を緩めて、俺を見下ろして彼は微笑んだ。

「なにその恥ずかしいタイトルっ!!」
「別に。それが浮かんだから」
「…恥ずかしい、奴…」

顔をそらした俺に彼は楽しげに笑った。

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