04
いつもの場所でパックのジュースを飲みながら空を見上げる。

「んー…」

成宮くん、早く俺と交代してくれないかな。
プリンスとか好きでなったわけじゃないし。
自由な時間なんてこれくらいしかとれない。
基本的にいつも人の視線に晒されてる。

ぼんやりと空を見上げていた俺の上に影ができて。

「なまえ」

窓から乗り出して俺を見下ろすユキ。

綺麗だなぁ、なんて思いながらどうしたの?と尋ねる。

「昼休みもここにいるの?」
「いつもではないけどね」

俺を見下ろしたままのユキ。
さらりと彼の頬を撫でた髪に手を伸ばす。
指先に触れた彼の髪は柔らかい。。

「…何?」
「髪、綺麗だなって。つい、触りたくなった」

髪の感触を楽しんでいればユキは眉を寄せる。

「なんか、疲れてるね」
「うん。少し疲れた」

何かあったの、と聞かれて俺は首を傾げる。

「なにっていうか。目立つのは疲れる」
「なまえは凄い人気だってカルロが言ってた」
「俺が望んだわけじゃないよ」

微笑みながらそう言えば彼はやっぱり眉を寄せた。

「自分でいるより、相手の望む姿でやり過ごした方が楽だったんだよ」
「うん」
「けど、それってスゲぇ疲れんの。俺、女ってあんま好きじゃないし」

正直、目障りなんだと視線を伏せて言う。
こういうことシキにしか話したことなかったけど。
幻滅、されるかな…?

「カルロが言ってた通り。冷たいね」
「別に冷たくはねぇだろ。ただ、どうでもいい奴らに優しくするなんてメリットねぇもん」
「確かに」

俺は立ち上がって体を伸ばす。
驚かないな、と言って窓枠に寄りかかる。

「カルロから聞いてた」
「そっか」
「それで、疲れてるの?」

うん、と首を縦に振る。
窓枠に寄りかかっているからユキとの顔が凄く近い。
緩やかな風に揺れる彼の髪に触れながら口元を緩める。

「…なに?」
「なんな、気に入っちゃって。嫌ならやめるけど」
「…まぁ、いいけど」

目を逸らしながらそう言った彼に俺はありがとと呟いて。

「ユキも、女の子嫌いだよね」
「うん。ウザい。部活のときの応援とか…黄色い声って耳障り」
「耳についてイライラするよな、あの声」

眉を寄せた彼はきっとそれを思い出しているんだろう。
ユキは少し、俺に似ているかもしれない。

「クラスの女子がなまえのことカッコいいって騒いでた」
「迷惑極まりないね。彼女とか作ったら静かになるかな…」
「まず、相手を選べない」

ユキの言葉に確かに、と苦笑する。

「付き合うなら、ユキみたいな子がいい」
「は?」
「煩くなくて、俺を俺として受け入れてくれるし。部活頑張ってるし。なんかさ、何かに熱中してる人ってカッコいいよな」

笑いながら言えばユキは目を逸らして馬鹿じゃないのと毒を吐く。
その姿が可愛く見えてクスクスと笑った。

「何笑ってんの」
「ちょっと可愛くて」
「…頭、大丈夫?」

多分?と首を傾げながら言えば溜め息をつかれた。

「…なまえは」
「ん?」
「何かに熱中してないの?」

俺はなんにも、と言って彼の髪から手を離した。

「いや、まぁ…何にもって訳でもないか…」
「何それ」
「スポーツはやってない。部活とか俺がいたら迷惑かかるし」

けど、外で少しだけ。そう小さく呟いて。
ユキは首を傾げる。

「BMXのフリースタイル。趣味程度にね、やってる」
「あの、自転車の?」
「そう、それ」

目を瞬かせた彼に微笑む。

「びっくりした?」
「なんか、ちょっと意外」
「よく言われる」

他の奴らには内緒な、と人差し指を唇にあてて微笑んだ。

「みんな知らないの?」
「シキは知ってる。他はユキだけ」
「…出会ってすぐなのに、俺のこと信頼しすぎじゃない?裏切ったらどうすんの」

裏切らないよ、ユキは。
俺がそう言えばどこか複雑な表情。

「ユキは、真面目な人だから。それに、優しい人」
「は?」
「きっと、間違ってない」

根拠なんてないけど、きっと間違ってない。

「馬鹿な奴」
「酷いなぁ…」
「けど、言わないから」

ユキは真っ直ぐ俺を見てそう言った。
それが嬉しくて微笑む。

「ありがと」
「…別に」

君と出会えてよかった。
あの日君を助けてよかった。
こんなにも心が休まるのが、心地よかった。

「また、」
「なまえ?」
「また、明日。暇があったら会いに来て」

ユキは目を丸くしたけど、すぐに頷いてくれた。

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