09
窓枠に腰掛けたなまえがこくりこくりと頭を揺らす。「眠いの?」
「うん…眠い…」
なまえは欠伸をして目を擦った。
「夜更かし?」
「え、あぁ…遅くまで練習しちゃって…」
授業中も寝るの我慢するのが大変だったとなまえは笑って。
でも、その笑顔はひきつっていた。
表情もどこか暗い。
多分…嘘、ついてる。
「寝てもいいけど」
「え?」
「肩、貸そうか?」
なまえは少し考えてからじゃあお言葉に甘えて、と言って。
窓から中に入ってきたなまえは俺の隣に座って、肩に頭を預けた。
「予鈴鳴ったら起こすから」
「うん…」
隣から聞こえてくる寝息。
彼の寝顔を少しだけみつめて見つめて、ふわふわとする彼の髪を撫でる。
「クマできてる…」
…本当に限界だったのか。
男同士の恋愛は簡単に受け入れられるものじゃない。
別れろとか言う女も少なからずいて、それを俺に直接伝えてくる奴もいた。
きっとそれはなまえのところにも行ってる。
勝手に押し付けられた理想と彼という現実の違いに嘆く女子がいる。
「お疲れ様…」
偽者の俺に何が出来るかわからないけど。
肩を貸すことくらいしかできないかもしれないけど。
それでも、支えてあげられるならそれで、構わない。
「…なまえ」
彼の髪から手を離して、床に下ろされていた彼の手と自分の手を重ねる。
触れた部分から熱を帯びて、鼓動は速くなっていく。
ピクッと彼の指が動いて、俺の手を握りしめた。
「ユ、キ…」
寝言…?
名前を呼んでみても返事はないけど。
手を握りしめる力は弱まることはなくて。
眉間に寄っていたシワは消えていた。
「俺でいいなら…」
お前の傍にいるから。
たとえ、偽者でも。
▽
「なまえ」
「ん…」
肩を揺らされて、目をあければ彼と視線が交わる。
「起きた?」
「うん。おはよ」
教室に戻ろう、と言われて頷く。
立ち上がってふと、気付く。
片手だけ凄く暖かさが残ってる。
「なまえ?」
ありがとね、と彼に呟けばユキは首を傾げた。
「教室に戻ろう」
「そうだね」
ユキと別れて教室に向かう。
教室のドアを開ければシキがこちらを見て手を振った。
「白河とお楽しみか?」
「その言い方、やらしい」
シキの隣の席に腰かけて小さく息を吐く。
「…どうした?なんか顔色悪くね?」
「いや、なんか寝不足?疲れ気味っていうか…」
シキは俺の顔を覗き込んで、眉を寄せた。
「まぁ、平気だよ。多分」
「お前の平気って信用ねぇんだよな」
教室に先生が入ってきて、起立と声が聞こえて。
立ち上がれば頭の中がぐわん、と揺れた。
「…なまえ?」
額を押さえて、顔を俯ける。
「お前、マジで大丈夫か?」
ユキに肩借りて寝たのに、まだボンヤリしてる。
「…平気」
椅子に座って眉を寄せる。
「……ユキ」
手の温もりが消えてきた。
彼は夢のなかで俺を暗闇から引きずり出してくれた彼の手。
ぎゅっと手を握りしめて目を閉じた。
「保健室行ったらどうだ?」
「…行っても寝れないからいい」
「やっぱり家で寝てねぇのか、お前」
シキの言葉に苦笑する。
「…昔から、そうだっただろ」
「そうだけど。お前、今は本当にヤバイだろ」
寝れなくても横になった方がいいだろ、と言って。
ホント、シキって心配性っていうか優しいっていうか…。
だから、こいつといようと思ったんだよな…
「…やっぱりちょっと横になってくる」
体調が優れないので保健室に行ってきてもいいですか、と言えば教師は頷いた。
「シキ、後でノート見せて」
「おう。授業終わったら白河と様子見に行くから」
「サンキュ」
立ち上がろうとした俺の体は力が抜けて足から崩れて。
ガタガタと音をたてて、椅子が倒れた。
「ちょ、おい!!」
「悪い、平気」
シキの言葉を遮って机に手をついて、立ち上がる。
大丈夫か、という教師の問いかけに平気ですと答えて教室を出た。
頭が痛い。
ユキといたときはただ眠かっただけなのに。
ぼんやりとして、なんだかふわふわとしてきた足下。
階段を下りようとした俺の足かはさっきと同じように力が抜けて、落ちそうになった俺の腕を誰かが掴んだ。
ありがとう、と言おうと思ったのに俺の意識はどんどん闇に引きずり込まれていって。
プツリと意識は途切れた。
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