12
練習を終えて保健室に行けば鍵がかかっていた。

「…は?」

何で?
あの熱でどこ行った?

職員室に行けば、6時頃に鍵を返しに来たと告げた。

「おいおいおい…マジかよ…」

白河に電話を、と携帯を取り出して手をとめる。

「…白河は、ダメか…」

くそっ
どこ行った、なまえ。

下駄箱を確認すればまだ彼の靴がある。

真緒が職員室に行ってから2時間近く経ってるのに、まだ学校にいるのか?

「…教室か?」

階段をかけ上って、教室に行けばカーテンが揺れていて。
その下にうずくまるなまえを見つける。

「なまえ!!?」
「…シキ?」

振り返ったなまえが困ったように笑った。

「どうしたの?部活は?」
「どうしたって…お前、熱あるんだぞ!?こんなとこで何してんだよ!!つーか、部活はもう終わってる」

俺の言葉に彼は時計を見て本当だ、と小さく呟いた。

「どれぐらいここにいんだよ」
「帰ろうと、思って…来たんだけど。どれくらい、だろう?」

窓枠に手をかけて立ち上がって、ふらふらと机に近付く。

「何か、忘れ物でもあったの?」
「お前を家まで送ろうと思って探してた」
「あぁ、そうなんだ。ごめんね…」

けど、平気だよ。

なまえはそう言って、覚束ない足取りで俺の横を通りすぎる。

「…大丈夫か?」
「……うん」

なまえは泣きそうな顔で、微笑んだ。

「…大丈夫。俺は、大丈夫だよ」
「そう、か…」

ふらふらとなまえは教室を出ていって。
俺は、それを見送る。

今は傍にいてはいけない。

「家に着いたら連絡しろ」
「うん」

ユキを失ったらきっと俺、壊れちゃうから。

なまえが言っていた言葉を思い出して眉を寄せる。

「壊れるなって…言っただろ」





次の日なまえは学校を休んだ。
昼休み、なまえがいつもいる校舎裏に行けば開け放たれた窓の向こうに白河の姿があった。

「なまえ、休みだとよ」
「…そう」

白河は窓に背を預けたままそう、返した。

「…いいのかよ、そのままで」
「何が?」
「お前、好きなんだろ。なまえのこと」

白河はこちらを見て、すぐに顔を背け俯いた。

「だったら、なに?」
「なまえも、お前のこと好きだよ」
「そんなはずない」

俺は、本物にはなれなかった。
白河はそう言って、ずるずると壁伝いにしゃがみこんだ。

「好きだって言ったのかよ」
「言ってない」
「じゃあ、何で?」

白河は溜め息をついて。

「キスした」
「は?」
「そしたら、ゴメンって言われた」

ゴメンって、そういうことだろ。
白河は声を震わせてそう言った。

「…それ、多分違う」
「は?何が違うわけ?」
「何がって言われると困るけど。そのゴメンはお前が思ってるゴメンではない」

じゃあ、なんだよ。と言った彼にそれは本人に聞いてくれと返す。

「…どんな顔して会えって言うんだよ」
「いつも通りでいいと思うぜ?…なまえは拒否したりはしない」
「何でそんなことがわかるんだよ」

白河がこちらを睨んで俺は視線を逸らす。

「…アイツにはお前しかいないから」
「お前もいるじゃん」
「俺は一生友達だ」

それ以外にはなれないし、ならない。
けど、お前は違うだろ?

「…なんだよ、それ」
「なまえにはお前が必要だよ」
「男同士で気持ち悪いとか、思わないの?」

白河の言葉に首を傾げる。

「…なまえだからな。アイツが選んだなら男でも女でも応援する」
「…あっそ」
「ちゃんと、会って話しろ」

…わかってる。

そう白河は答えて。
俺はそこから離れる。

「…あとは、アイツが来るだけか…」

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