03
「あれ、珍しいね」
「んー…?」

小湊と同居を始めて早4日。
私の仕事の関係上まともに顔を合わせることは殆どといっていいほどなかった。
だが、必ずご飯が準備されていて私が帰ってきたことを確認してから彼は眠る。

「仕事は?」
「昨日締切。久々の休みだよ」
「ふぅん」

小湊はキッチンでコーヒーを淹れて、私に差し出す。

「コーヒーメーカーなんてあったっけ」
「俺の私物だけど」
「…あぁ、そういうことか」

ありがたくそれを受け取ってテレビを見つめる。

「1日暇なの?」
「うん、一応ね。小湊は?」
「俺も休み」

彼と過ごすのは初めてだな…

隣に小湊が腰かけて勝手にチャンネルを変える。

「俺、ニュースはこっちなんだよね」
「何か違うの?」
「プロ野球のコーナーが長い」

相変わらず、野球好きだな…

「買い物、行く予定なんだけど。お前も来る?」
「荷物持ち?普通逆じゃない?」
「誰も荷物持ちとは言ってないだろ」

冗談と言えばチョップをされて。
なんか、この感じ懐かしいなと心の中で呟いた。

「で?来るの?来ないの?」
「行く」

彼は満足気に笑った。

「大型のショッピングモールあるじゃん?そこでいい?」
「いいよ、どこでも」
「お前、車は?」

あるけど、と言えばじゃあ車で行くかと彼はまたキッチンに向かう。

「私が運転?」
「寝不足の奴に運転なんてさせるわけないだろ。俺がする」
「そっか」

朝食、と言って出されたトーストとスープ、スクランブルエッグを食べながらプロ野球のニュースを見つめる。

「見知った顔が多いよね」
「哲とか純のこと?」
「うん」

今も会うの?と尋ねれば時々ねと彼は答えた。

「あの後輩君は?」
「倉持のこと?」
「そう、その子」

アイツもプロだよ、と言われて画面を見つめる。

「ほら」
「あ、本当だ。また彼と同じチーム?」

彼?と首を傾げてから小湊は笑った。

「御幸の事?仲良いよな」
「そう御幸。仲良いの?って聞くと良くないです!!て答えてたのに」
「実際のところわからないけど」

コーナーが終われば彼は片づけを始める。

「皿持ってきて」
「ん」





彼の運転でやってきたのは近くに出来た大型ショッピングモール。

「どこ行くの?」
「スポーツショップ」

彼は迷うことなく歩を進めていく。
そんな彼の少し後ろから彼を追いかける。

だが少しして小湊はこちらを振り返って足を止める。

「どうしたの?」
「隣、並べば?」
「え?」

後ろから追いかけられると春市みたいと小湊は眉を寄せる。

「意味わかんない、それ」
「いいから隣歩けって言ってんの」
「わかりましたよ」

隣に並べば彼は何も言わずに歩き出す。
そういえば高校の時もよくこうやって隣を歩いた気がする。

私はコンビニでバイトをしていて、そのコンビニに小湊を含む野球部連中がたくさん来ていた。
バイトを終えて外に出ると彼が店に来た日は必ずと行っていいほど私を待っている彼がいた。
それで他愛無い話をしながら私の家まで送ってくれていた。

今更ながら…
なんで私の事送ってくれてたんだろう?
学校とは真逆なのに。

「何考えてんの?」
「いや、なんでもない」
「そう?」

彼の買い物を終えてから私の買い物をして。
遅い、と文句を言う割に彼は最後まで私の買い物に付き合っていた。

「女らしくない買い物」
「そう?」

袋の中の文房具。
それからミネラルウォーターの箱。

まぁ、確かにそうかもしれない。

「洋服とか、買わないの?」
「着る機会ないしね」

小湊は呆れた顔をして溜息をつく。

「相変わらず女らしくないね、みょうじは」
「女らしかったら、小湊を家には泊めてないでしょ」
「あぁ、確かに。それは困るからそのままでいいや」

小湊ならそう言うと思った。

「夕飯、何がいい?」
「なんでもいいよ。小湊が作るのなんでも美味しいし」
「へぇ?じゃあミートスパゲッティにミネストローネ、トマトのサラダでどう?」

ニコリと笑った彼に私は固まる。
見事にトマトのオンパレード。

「やめてください」
「じゃあ何がいい?真面目に答えないと本当に作るから」
「んー…あ、じゃあコロッケ食べたい」

コロッケね、と彼は籠に材料を放り込んでいった。

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