04
12時を過ぎても帰って来ない彼女に眉を寄せる。
みょうじの家に居候を始めてから早3週間。
アイツが9時前に帰ってきたことは1度としてない。
日付が変わってから帰って来ることも度々だ。

アイツの休みの日買い物に行ったとき聞いた話アイツは上から2番目の地位にいるらしく。
部下のミスの尻拭い等々忙しいのだと零していた。

ガチャと鍵が開く音がして玄関に顔を出せば疲れ切った彼女がいた。

「おかえり」
「…ただいま」

乱暴に髪を留めていたゴムを解いて部屋に入っていく。
それを見送ってからキッチンに戻って夕飯の鍋に火を点けた。

「今日は一段と疲れてるね」

リビングに顔を出した彼女は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して頷いた。

「アニメ化でテンパった作家さんが今週分を描き直したいとか言い出して。締切近いって言うのに…」
「描き直すの?」
「まさか。そんな無謀なことはしないよ。2時間かけて説得した」

ソファに腰かけた彼女の前に料理を置けばありがとう、と呟いて両手を合わせる。

「いただきます」

テレビをつければ丁度ニュースがやっていた。

「日本シリーズも、もう終わりか…」
「うん。オフだからプチ同窓会やるみたい」
「ふぅん…仲良いね」

お前は高校の頃の奴とは?と聞けば首を横に振った。

「携帯死んだからね。貴子と年賀状のやり取りがある以外は誰とも」
「同窓会、お前も来る?」
「いや、遠慮する。別に野球部の人達とそんなに仲良かった記憶ないし」

そんなことないだろ、と言おうとしたとき彼女の部屋から携帯の音が聞こえてくる。

「ゴメン、電話だ。これ食べるから置いておいてね」
「わかってるよ」

足早に部屋に戻っていった彼女に溜息をつく。

「高校の時も思ったけど…無駄に難攻不落だよな…お前って」

人との繋がりをあまり必要としない。
彼女の周りには決して越えられない高い壁がある気がする。
高校の時も何度か告白をしようとして上手く逃げられた記憶がある。
アイツにだけは優しくしてたけど、それにすら気づいてなかったよね…

「まぁ、これから…かな」





電話を終えてリビングに戻ればお疲れ様、と小湊が言った。

「どーも」
「お前の携帯って仕事以外に鳴ることあるの?」
「ないよ。私仕事用の携帯しか持ってないから」

プライベート用は必要ないし、と言えば寂しくない?と彼は首を傾げる。

「いや…別に。どうせ休みなんてないし」
「…そうかもしれないけど」

ごちそうさま、と手を合わせていって立ち上がる。

「いつもごめんね。ご飯」
「ついでだからいいけど」
「そっか。お風呂入ってくる」

皿をキッチンに置いてペットボトルを片手に部屋に入った。
デスクの上の携帯に手を伸ばして、電話帳を開く。
そこに並ぶ名前は仕事関係のものばかり。

「…プライベート、ねぇ…」

今更そんなの望んでないかな…

お風呂方出ればリビングで小湊が寝ていた。
起こそうと手を伸ばしてやめる。

…そう言えば、いつも私が帰って来るまで待っててくれてるのか。

テレビを消して、悪いと思いながらも彼の部屋に入る。

「ブランケット…を」

ベッドに綺麗に畳まれて置かれているそれに手を伸ばそうとして目に入った本棚の写真。

「…これ」

シンプルな写真立てに入っていたのは卒業式の日に撮った写真だった。
確か倉持君と御幸君に無理矢理連れて行かれて、よくわからないうちに撮った小湊と私の2ショットの写真。

「…なんでこんなもの飾ってるんだろう」

いや、まぁいっか…

ブランケットを持って部屋を出てソファに横になって眠る彼にかける。

「…別に、待ってなくてもいいのに」

ピンク色の髪に指を絡ませる。
少しだけ身じろいだ彼にそっと指を離した。

「…おやすみ」

彼に背を向けてリビングの電気を消して自室に戻った。


翌朝。
ブランケット、ありがとうと小湊は言って朝食をテーブルに並べた。

「いや、別に。部屋、勝手に入ってごめん」
「いいよ、別に。あ、そうだ。みょうじって次の休みいつ?」
「休み?えっと、金曜が締切だから土曜は確実。日曜は多分午後出勤」

そっか、と小湊は頷いてソファに座る。

「なんで」
「お前ってお酒飲めたっけ?」
「飲めるけど飲まないよ」

仕事の支障になるから、と呟いてお味噌汁に口をつける。
あ、美味しい…

「休みも飲まないの?」
「たまには飲むけど」

て、あれ…
私の質問に答えてないし。
まぁ、いいけど。

「…ここ、人呼んでもいい?」
「は?」

話しがよくわからない。
あちこち飛び過ぎじゃない?

「あ、ダメ?」
「別にいいけど。あ、女の子連れ込むときは事前に連絡してね。帰って来ないから」

私の呟きに小湊は眉を寄せて、私の頭に容赦なくチョップをした。

「…痛い」
「女がなんてこと言ってんの」
「…思ったこと言っただけなんだけど」

馬鹿じゃないの、と小湊は不機嫌そうに言ってもう一度私にチョップをしたのだった。

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