敵向きの個性

『予選通過は上位42名!そして次からいよいよ本戦よ!』

液晶に映し出された次の種目は騎馬戦。
2〜4人のチームで騎馬を作って、、か。

両手が塞がってしまうと 俺は戦いようがないからなぁ。
俺はただの騎馬になるのが正解だろう。

「ねぇ、」
「なに?」

15分間のチーム決め。
声をかけられて振り返ろうとして、ぴたりと体が動かなくなった。
目の前には知らない人。

「これで 3人か」

頭の中モヤがかかったみたいだ。
指一本動かない。

「悪いな」

目の前の彼が笑った。
さて、どうしようかな。
人にいいようにされてるっていうのは気にくわないんだよね。
弔くんたち以外の命令を聞きたいとも思わないし。
自分にかけられた個性を無効化することはできるが、下手に怪しまれても嫌だし 彼に解除してもらうのが1番得策だろう。
体は動かないけど一応頭は回ってる。
だから、無効化の方なら個性は使えそうだ。
学校では使わない約束だったけど、仕方ない。

無効化、と頭で唱えれば 微かに個性が発動した感覚があった。
いつもより鈍い気もするけど とくりとくりと心拍が弱くなり そして 止まった。

「とりあえず、騎馬組んで」





命令をしても 動かない1人。
名前は知らないが A組の奴だったと思う。

「おい、騎馬を組め」

もう一度命令をするが やはり動かない。
仕方ない、と一度個性を解除すれば 彼の体はまるで人形みたいに崩れ落ちた。

「は!?」

そして、数秒。
彼は咳き込みながら 体を起こす。

「あー、死ぬかと思った」

彼がこちらに手を伸ばしてくる。

「ごめんね。ちょっと手貸して?」

警戒心はないのか?
伸ばされた手を取って「大丈夫か」ともう一度尋ねる。
うん、ありがとうと彼は笑って 立ち上がった。

個性が効いてない?
さっきは間違いなくかかったのに。

「突然個性かけるのは酷いんじゃない?」
「…どういうことだ」
「騎馬になればいいんでしょ?普通に頼めばなるのに回りくどい」

彼はそう言って、洗脳された2人と共に騎馬を作った。

「……いいのかよ、お前」
「なにが?」
「自分に個性かけたやつと、組んで」

俺の問いに彼は首を傾げ 別に気にしてないけどと答える。

「どうやって解除した」
「解除したのは君だろ?。俺は何もしてないけど」
「…言う気はないってことか」

言うもなにも、と彼は笑う。

「じゃあどうして、個性がかかってない。俺は今もお前にかけようとしてる」
「……質問ばっかだなぁ。めんどくさい」

『さァ上げてけ鬨の声!血で血を洗う雄英の合戦が今!狼煙を上げる!』

理解して分解しただけだよ、と彼はめんどくさそうに答えた。
理解?分解?
何を言っているか、わからない。

「俺の個性は理解分解再構築の三段階から成り立つ錬金術。お前の個性を理解した上で、分解した」
「……意味がわからない」
「ならそれまでだ」

『よォーし組み終わったな!?準備はいいかなんて聞かねぇぞ!行くぜ!残虐バトルロワイヤルカウントダウン!!』

よくわからないけど、チームとして組んでくれる気ではいるいるみたいだし、いいか。

『3!!!』
『2!!』
『1…!START!!』

「で?作戦は?」
「…終盤 ポイントが集まったところを 掻っ攫う」
「了解。あ、俺 手使えないと 個性使えないから」

は!?
なんでそれを騎馬を組む前に言わない。
いや、違う。
洗脳して騎馬にしようとしてたんだから それが当然だったはずだ。

「元々俺の個性を頼りにはしてないんだろ?」
「あぁ、」
「なら いっか」

目の前で繰り広げられる戦況を彼は何を言うわけでもなく眺めていた。
変なやつだ、本当に。

「…お前、名前は?」
「名前?霧矢」
「……心操だ。洗脳して、悪かった」

別にいいよ、と彼は言う。

「怖くないのか?」
「何が?」
「俺の個性だ」

その言葉に彼は笑った。
手を添えた彼の肩が 小刻みに揺れる。

「なんで?」

彼が笑いながらこちらを振り返った。

「なんでって…敵向きの個性だろ?悪いことし放題だとか、思うだろ。洗脳されたくないとか、」
「そうだな、洗脳されるのは腹立つなぁ。俺は人にいいようにされるのは好きじゃない」

違う。
俺が言いたいのは、そういうことじゃない。

「まぁ、そうやって考えてる時点でお前は それを悪いことには使えないよ」
「え?」
「そういうやつらは 息をするように 使うんだ。それが、当然の使い方であるようにね」





さっき、適当にでっち上げた 個性を分解するという言葉。
意外と、やろうと思えばできるのでは?
いや、けど失敗して個性使えなくなったら 困るか。

「そろそろ動く」
「はーい」

作戦の通り。
まとまったハチマキを掻っ攫い、タイムアップの声。
順位は3位で無事に最終種目へ駒を進めた。

「お疲れ様」

差し出した手を彼は少し躊躇ってから握った。

「さっきの 俺の個性が怖くないか?だっけ。」

さっきの彼の質問に俺はニコリ笑って 握りしめる手に力を入れた。

「確かに、足もつかずに犯罪を犯すにはもってこいかもしれないね」
「っ」
「だけどそれって、君に限った話?」

彼がえ、と固まった。

「言っただろ?俺の個性は理解 分解 再構築の三段階。人間についてはもう十分に 理解してる。ともなれば、今俺が個性を使えばお前をバラバラに分解することは息をするように 容易いことだ。とは、思わない?」
「っ!?」

わずかに見開かれた瞳。
その瞳に ニコニコと楽しそうに笑う俺が映っていた。

「ようは考え方だ。敵向きの個性だと、誰かに言われたか?自分で思ったか?まぁ、どっちでもいいか。そいつらに俺が問う。じゃあヒーロー向きの個性ってやつは 人を殺せないのか?傷つけないのか?犯罪に使えないのか?まずもって、ヒーローはいつも無傷で敵を捕まえているのか?」

彼の手をゆっくりと離して、俯いてしまった彼の顔を覗き込む。

さぁ。
君はどうする?

無理矢理目線を合わせて、首を傾げ 俺はニィと口角を上げた。

「よく考えてみるといいよ。自分の個性とどう向き合うか」
「っ、あぁ…」
「けど。俺個人の意見として。君みたいなヒーローがいたら 敵はきっと厄介だろうね」

顔を上げた彼は目を見開いて、そして その目をゆらゆらと自信なさげに彷徨わせた。

ヒーローを目指す人の中には、こういう人もいるのか。
ヒーロー向き という 雄英や世間が作った基準の中で 数字を出せないが 有能な個性を持った人。
彼は、どんな人生を歩んできたんだろうか。

「じゃあね」
「……あ、うん。ありがとう…」
「うん、こちらこそ」


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