「×××、」

今日こそ一緒に飯行こう、と言った瀬呂に仕方なしに頷いた。
彼だけじゃなく何人か生徒がいるが、仕方ないだろう。

「瀬呂と霧矢って仲良いよな」
「それはないな」

らーめんを啜りながら答えれば なんでだよ、と瀬呂が俺の肩を揺らした。

「ただつきまとわれてるだけ」
「俺はストーカーか何か!?」
「強ち間違いないだろ」

ひでぇと凹む彼を切島がドンマイ、と肩を叩いた。

「けどさー。ちょっとそういうとこ爆豪に似てるよな」
「は?」
「あ、わかるわ」

上鳴の言葉に彼はうんうん、と頷く。
なんとも失礼な話だ。

「一緒にしないで」

俺は彼のことは好きではない。

「すぐ喧嘩しそうになるもんなー」
「売られた喧嘩は買う」
「…いや、ほんとそういうとこよ」

ご馳走さまでした、と両手を合わせれば 彼らがぱちぱちと目を瞬かせた。

「なに」
「いや、食べる時もそうだけど。そういうとこはしっかりしてんだなって…」
「…ご飯が食べられることが当たり前じゃないからな」

先に戻ってる、と一人 席を立つ。

ご飯を食べられることは当たり前じゃない。
弔くんも出会う前、雨水を泥水を啜り、腐った残飯を漁り、俺は生きてきた。
だから、知っている。

ヒーローなんて、存在しない。
救うことを仕事とする彼らも、救うのは光の元にいる人だけ。
俺のように闇に堕とされた者は 救われない。
そして何よりも、俺をその闇に落とした張本人こそ。
ヒーローと呼ばれる人種の人間であったのだから 尚更だ。

「あ゛!?」

だから、君と俺が似ているはずがないんだ。
光の中で 育った君が、闇の中で育った俺が。
壁に背を当て立っていた爆豪と目が合う。
何か言いたげな彼から目をそらして、言葉を交わすこともなく彼の前を通り過ぎようとした。
が、掴まれた 腕。
仕方なしに足を止めて、彼の方を振り返る。

「離して」
「俺はお前が気にくわねぇ」
「奇遇だね。俺もだ」

にこりと笑って彼の腕を強引に振り払う。

「光の中で生きてきたから、見下ろされるのは初めてだった?初めての屈辱はどうだった?」
「テメェ…」
「無個性だった緑谷に負けて 焦ってるの?そうだよね、焦るよね。だって、無個性だった彼は君にとっては 最低辺の人間だったんだもんね?そして、君は ヒーロー向きの個性を振りかざして ヒエラルキーの天辺でふんぞり返ってたんでしょう?」

雄英で出会ってなければ、彼もまた俺の ハートイーターのターゲットになり得た存在だろう。

「どんなことしてきたの?彼に」

僅かに震えた彼の肩。
一歩、彼の方に歩み寄る。

「暴力?恐喝?パシリにとか、してた?」
「っ!」

彼の汗を滲ませた手を右手でとって、お互いの視線の前に持ち上げる。

「無個性の人間に生きる価値なんてないもんね?踏み潰されて然るべき 淘汰されて然るべき。むしろ、死んでしまっても構わない?」

彼が口をきゅっと堅く結んだ。

「思い当たる節がある?」

目線をしっかり合わせたまま 微笑めば彼は眉間に皺を寄せた。

「けど、君は死ぬより辛いことを味わった方がいいかもね。死よりも深い深い絶望を」
「っさっきから!!!何グダグダ一人語りしてんだよ!?あ゛!?わけわかんねェんだよ!!?テメェもデクの仲間か!?」
「別に緑谷と親しいわけじゃないよ。けど、そうだね。仲間かと言われれば 仲間だったのかもしれないね」

きっと彼も 苦しんだんだろう。
無個性であると言うことに。

「君もなってみる?無個性ってやつにさ」

彼の目が見開かれた。

「この両の手を切り落としてあげようか?」

彼の手に口付けるように、自分の口元に引き寄せれば慌てたように彼はその手を振り払った。

「テメェだって、んな個性持ってんだ。テメェのいうヒエラルキーの上にいんだろ」

彼の言葉に俺は首を傾げ、笑う。

「何笑ってんだ!?」

そうか、今の俺はそう見えるんだった。
最底辺を生きた人間だとは 誰も思わない。
あまり、無個性であったことを匂わせることを言うべきではないな。
まずもって、俺の存在に疑念を持たれることは するべきではない。
感情的になったな、心喰の時のように。

ふぅ、と大きく息を吐き出して、彼を見た。

「俺はね、君の両手を切り落としてしまいたいくらいには 君が嫌いなんだよ。君も俺が気にくわないんだろ?なら、お互いのためにさ。関わるのはやめようよ」
「は?」

彼と接していると、ダメだ。
殺してしまいたくなる。

「はい、この話おしまい。じゃあね」
「ちょ!?はぁ!!?おい、待て!!!」

後ろで喚く彼を無視して、俺は一人になれそうな場所に移動した。





『進出4チーム 総勢16名からなるトーナメント形式!!1対1のガチバトルだ!』

1位のチームからくじ引きで、と言われた時 尾白が手を挙げた。

「俺 辞退します」
「尾白くん!何で…!?」
「騎馬戦の記憶…終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分奴の個性で…。チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かなことだってのも」

心操の方を見れば、一瞬視線は交わったが すぐに逸らされた。
結局 尾白ともう一人の子本戦を辞退することに。
代わりに別の二人がトーナメントに上がった。

「霧矢は?平気だったのか?」

やはり 気づけば隣にいた瀬呂にそう問いかけられて 笑った。

「かけられたよ、個性」
「まじ?」
「けど、解除させた。俺、人にいいようにされるの嫌いだから」

尾白も、そう出来ていればよかったんだろうけど。
いや、寧ろ俺がそうさせてあげるべきだったのか?
まぁ…チーム戦といえど 心操からすればみんな敵みたいなものだったのかもしれないな。

「そんな簡単に解除できるもんなの?」
「タネと仕掛けだらけだね」
「…なるほど」

トーナメントは決まった。
初戦は芦戸。
て、確か…個性が 酸?だよね。
てか、トーナメント進んだら 爆豪と当たるじゃん。
さっきもう、関わらない方向で とか話してたのに。

「クラスメイトかつ女の子とじゃん」

瀬呂の言葉に確かにそうだね、と答える。

「やりにくそう…」
「怪我させずに勝つから、平気」
「強気だな、おい」

くるりと背を向ければ レクリエーション出ないの?と彼が首を傾げた。

「余計なことはしない」
「…相変わらずだなぁ」

敷地の外に出ればちょうどかかってきた電話。
名前を見て、周りに人がいないことを確認して通話ボタンを押す。

「もしもし?」
『楽しんでるか?』

電話の向こう 弔くんは少し馬鹿にするように 笑ってた。

「全然。寧ろ、イライラしてるよ」
『やめろよ。そこで問題起こすのは』
「わかってるって。見てるの?」

あぁ、と彼が答えた。

『使わないのか?腕の錬成陣』
「その必要があるって、判断したら使うよ」
『なるほどな』

じゃり、と土を踏む音。
誰か近づいてきたのか、と視線を後ろに向けて 携帯を耳から離した。

「×××、」
『心喰、』
「またかける」

電話を切って、彼らに向き直る。
そうか、弔くんの 体育祭の話をしたときの複雑そうな表情はこれか。

「私たちを覚えているかい?×××」


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