vs爆豪勝己

『この対戦 ちょっと面白そうじゃね!?爆豪勝己vs霧矢心!!』

「話は、終わってねェんだよ」
「俺はもう終わってるんだけどね」

土野郎はそう言って めんどくさそうに笑った。

『START!!』

こいつの個性はたしかに強力だ。
あの爆発も気になるし。
だが、あの魔法陣を書かせなきゃ こっちの勝ちだ。

一気に距離を詰め、爆発を起こす。
ひらり、と無駄のない動きで避けていく彼に 手は届かない。

「反撃してみろや。あ゛!?」
「反撃、ね」
「所詮お前は、セメントスの劣化版だ」

魔法陣を書かせたとしても、操る地面は大振りな攻撃が多い。
それに、その間彼はその場から動けない。

「書かせてやろうか?魔法陣。書いたって、俺にゃ勝てねぇけどな!」
「魔法陣じゃなくて、錬成陣ね」

間一髪のところで、彼は攻撃を避けながら 表情を変えることもなく 俺を見ていた。

『ここでも霧矢は防戦一辺倒!!攻撃の隙を与えてねぇぞ、爆豪!』

「まぐれで勝ち進んできたんか!?」
「あぁ、それは。間違いないかもね」

彼はやっと 足を止めた。

「猫騙しは俺には効かねェぞ!!」
「そんなん、知ってるよ」

土野郎が攻撃のために突っ込んだ俺の前に手を伸ばした。
そして、パチンと 指を弾いた。
瞬間目の前に広がった炎に、慌てて 足を止めた。

『炎!?!おいおい、こりゃどういうことだ!?』

炎の向こうで土野郎は笑った。

「どういう仕組みだ、これ」
「わからないよ きっと」

もう一度鳴ったパチンという音、そしてまた俺がいた場所に上がる炎。
アイツの体から出てるわけじゃねぇ。
魔法陣もない。

「テメェ、隠してたんか。今まで」
「わざわざ手の内晒すわけないじゃん?」

地面を操る。
爆発を起こす。
それに、炎だ?
半分野郎みたいに複数持ちか?

「まぐれで勝たせてもらったよ。手の内晒さず、今までね?」

近付けば 炎の壁に遮られる。
爆発と相殺したって、距離は詰められない。

弱点を探せ。
ぶん殴らなきゃ、気がすまねぇ。
半分野郎といいこいつといい、舐めてんのか!?

「もっと使えや。本気のテメェを、ぶっ殺す」
「ははっ。いいね、」

裏をとっても、 炎が背後に現れる。
どういう仕組みかわかんねぇが、あの指パッチンがギミックなのは間違いない。

距離を詰めて、あの手を止めるか。
炎に突っ込むしかねぇが、仕方ねぇ。
それに、アイツの体から出てる炎じゃねぇなら アイツ自身もあの炎で燃える可能性がある。
自分の眼前に炎は出せねぇだろ。





『ここで爆豪が仕掛けたァ!!』

炎を左手の爆発で相殺しなが炎の中 突っ込んできた爆豪。
振りかぶった右手を燃やそうとは思ったが、この距離じゃ無理だ。

「自分の目の前じゃ、出せねぇんだろ!?」
「っ!?」
「テメェでも、自分は可愛いもんなァ!?」

爆発を起こす彼の手を咄嗟に右手で受け止めれば彼が目を見開いた。
パチパチと音を立て、手袋が燃える。

「は…?」

こっちは使いたくなかったんだけど、仕方ない。
燃えた手袋が 地面に落ち少しばかりの焼け焦げた香り。

『爆豪の爆発素手で受け止めた!?!いや、ありゃ…』
『義手だな。一応、申請は出てるが見るのは初めてだな』

急に聞こえたイレイザーヘッドの声。
実況席にいたんだ、知らなかった。

「テメェ、腕…」
「使えないものは、捨てるでしょ?爆豪だってさ。使えなくなったから、捨てただけだよ」

数回 手を開閉すれば僅かに軋む音。
俺の腕を見つめ、足を止めた彼に首を傾げた。

「どうしたの?ぶっ殺す、とか言ってた割に 腕一本ないだけの俺見て 動揺したの?」
「あ゛!?」
「それとも。腕を切り落としたいって、俺の言葉を思い出した?」

見開かれた彼の瞳。
それを見て笑いながら 左手の手袋を外した。

「俺と同じようになる?尤も、爆豪の場合義手になれば無個性になっちゃうけどね」

両手を合わせて、地面に手をつければ 彼の足元で起きた爆発。

「っ!?」
「それから。錬成陣がないと、攻撃できないとは 言ってない」
「騙してたんか!?テメェ!!」

彼のその言葉に俺は笑った。

「騙される方が 悪いんだよ。じゃ、反撃させてもらうね?」





「おいおい、まじかよ」

手の内晒してないにも程があるだろ。
炎出せるとか聞いてないし。
まず、唯一と言っていい彼の欠点であった錬成陣が必要ないなんて。
逆になんで今まで書いてたの?

「爆豪押されてんじゃん」
「頑張れや 爆発さん太郎!!」

てか、義手って。
怪我とは言ってたけど、怪我ってレベルじゃないし。
なに、あの左腕の刺青。

「やっぱりよくわからん」

爆豪の攻撃を避けながら 炎と地面の爆発、そして地面を操り彼と対等に戦っている。
爆豪の攻撃も多少は受けているが、まるで舞っているかのように軽々と避けていくから 目が離せなくなる。

元々 俺は自分から人に絡みにいくタイプではない。
適度な距離感を保ち、全員と一定の関係を築く。
それでも、彼に自分から声をかけたのは 何故だろう。
最初、飯田に話しかけられた時の彼は あまりにも冷たく 近寄りがたいと感じたのに 何故か 気になった。
今まで、出会ったことのない 雰囲気。
知りたくなったんだ。

爆豪の攻撃を義手で受け止めた彼が一瞬、自分の腕を気にした。
少し距離を取った彼は足を止め、自分の腕を見た。

「余所見してんじゃねェ!!!!」

飛びかかっていく爆豪の攻撃を右手で受け止めたが、その瞬間 かしゃんと彼の腕が落ちた。
見たことのない光景に、ひゅっと息を飲む。
爆豪もその光景に一瞬怯んだように見えた。
ゆらりと腕を失った体操服の裾がはためき、会場の静けさが広がる。

「あーすいません、棄権します」
「は!?」

落ちた右腕を彼は拾い上げ、すたすたと場外に出て行った。

『え。勝者爆豪!いや、腕壊れなきゃ いい勝負できたろー!』
『そうだな、』

「惜しかったなー」
「そうですわね。義手の耐久性があがれば、もっと戦えたかもしれませんね」
「爆豪 不完全燃焼だろうなー」

待てや!と叫ぶ爆豪に 霧矢は返事もせずに 控室に続く通路に消えて行った。





控室のドアを開ければ 目を丸くさせた轟がいた。

「…大丈夫か、腕」
「いや、大丈夫じゃないね。ペン持ってたりする?」
「いや、今はないな」

軋む音はしてたが、まさか壊れるとは。
ひっくり返して見れば、腕との繋ぎの部分が割れてしまっていた。

「こんなとこ割れるんだ…」

義手をテーブルの上に置く。
やっぱり削ったことで耐久性が落ちたのかな。
と、なれば 作り直す必要があるかな。
まぁ今日一日使えるくらいに直さないとな。

「個性は複数持ちなのか?」
「俺?違うよ。1つを応用して使ってるだけ」
「…ひとつ、」

そうか、と俯いた彼に俺は首を傾げた。
そういえば 緑谷との戦闘で炎を使ってたし 自分と似ているかもと思ったのかな。

瘡蓋になっていた左手の傷を引っ掻き、またじんわりと滲んできた血で 地面に錬成陣を書く。

「…それ、書かなくてもいいんじゃないのか?」
「両手があればね。片手じゃ無理なんだ」
「その腕は…事故か、何かか?」

少し聞きずらそうな彼は目が合うとすぐに机の上の義手に視線をずらした。

「腐ったんだ」
「は?」
「傷口が化膿して 腐った。で、壊死したから 切った」

出来上がった錬成陣に義手を置き、手を付ける。
亀裂をくっつけて、他に壊れたとこがないのを確認して自分の腕にはめる。
痛みに耐えながらぐりぐりと押し込み、神経系を接続させて手を開閉させる。

「よし、」
「病院とか、行かなかったのか…そんなになるまで、」
「…行けなかったから、こうなってんの」

そう言って笑ってやれば彼は複雑そうな表情を見せた。

「そんな顔しなくていいよ。要らないものは捨てられる。世の中、そーやって出来てるでしょ」

血で書いた錬成陣を足で擦り消してじゃあ、決勝頑張ってと 部屋から出た。




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