初めまして、緑谷出久

職場体験が始まって3日目。
毎日毎日やることはパトロールと書類作業。
ヒーローが世の中には多すぎる。
だからこそ、この無駄な時間が多いのだろう。

休憩時間に携帯に黒霧からの着信。

「もしもし?」
『見つかりましたよ。来れますか?』
「今休憩中だから、大丈夫。繋げる?」

自室としてあてがわれたホテルの一室。
目の前に現れたゲート。
そこをくぐればいつものバーにいる知らない男。
彼がヒーロー殺し こと ステインなのだろう。
弔くんの隣に駆け寄れば ステインの眼光が鋭くなった。

「誰だ…」
「初めまして。ハートイーターこと、心喰です」
「ハートイーター…」

なるほどなァと彼は品定めするように俺たちを見た。

「おまえたちが雄英襲撃犯…その一団に俺も加われと」
「ああ頼むよ。悪党の大先輩」
「目的は何だ」

持っている武器はナイフや刀。
血生臭さの染み込んだ彼の顔を隠す包帯。

「とりあえずオールマイトをブッ壊したい。気に入らないものは全部壊したいな。こういう…糞餓鬼とかもさ…全部」

写真に写るのは緑谷だった。

「興味を持った俺が浅はかだった…おまえは…ハァ…俺が最も嫌悪する人種だ」
「はぁ?」
「子どもの癇癪に付き合えと?ハ…ハァ信念なき殺意に何の意義がある」

彼の手がナイフに伸びた。

「先生…止めなくて良いのですか!?」
「これでいい!答えを教えるだけじゃ意味がない。至らぬ点を自身に考えさせる!成長を促す!教育とはそういうものだ」

なるほどねぇ、先生には何かしらの意図があって彼と弔くんを接触させたのだろう。
それに、弔くんに待てを命じられているから 動くべきではない。

「何を成し遂げるにも信念…想いが要る。ない者 弱い者が淘汰される。当然だ。だから、こうなる」

一瞬だった。
地面に押し倒された弔くんの肩に刺さる刀。
そして、腕にわずかな出血。

「ハッハハハ…!いってぇぇぇ強過ぎだろ。黒霧!こいつを帰せ 早くしろ」
「身体が動かない!おそらくヒーロー殺しの個性」
「英雄が本来の意味を失い偽物が蔓延るこの社会も。徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ…」

ステインのナイフが 弔くんの顔を隠す手に触れそうになった。

「ちょっと待て待て…この掌は…駄目だ。殺すぞ。…心喰、俺が許す」

やっと許可が出た。
弔くんを傷つけた瞬間から 喰べる準備はできている。
自分にかけられた個性を無効化し、自分に背を向けるステインに飛びかかる。

「っ!?何故 動ける…」
「俺に個性は効かない。大丈夫?弔くん」
「よく、待てたな。心喰」

彼の手が 頭を撫でた。

「口数が多いなァお前…信念?んな、仰々しいもんないね。強いて言えばそう…オールマイトだな…あんなゴミが祀り上げられてるこの社会を滅茶苦茶にブッ潰したいなァとは思ってるよ」

立ち上がった 弔くんの肩から血が垂れる。

「せっかく前の傷が癒えてきたとこだったのにさ…こちとら回復キャラがいないんだよ。責任取ってくれんのかぁ?」
「それがおまえか…」
「は?」

ステインが武器を下ろした。

「おまえと俺の目的は対極にあるようだ…だが、現在を壊す この一点に於いて俺たちは共通してる」
「ざけんな帰れ帰れ。最も嫌悪する人種なんだろ」
「真意を試した。死線を前にして人は本質を表す。異質だが…想い…歪な信念の芽がおまえには宿っている。おまえがどう芽吹いていくのか…始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないかもな…」

よくわからないけど。
その真意ってものを試すために 弔くんに怪我をさせたのか?

「始末すんのかよ。こんなイカレた奴がパーティーメンバーなんて嫌だね俺…」
「死柄木弔…彼が加われば大きな戦力になる。交渉は成立した」
「…そうだとしても、」

武器を下ろした彼との距離を詰め、首にメスを押し当てる。

「弔くんを傷つけておいて、俺が大人しくしてるとでも?」
「ハートイーター…お前は、奴のために動くのか…」
「世界に復讐する。その為に、全て壊す。弔くんと共に」

交わった視線。
言葉はない。

「……心喰、俺は大丈夫だ。」
「けど、」
「弔を始末しようとした時に、喰べればいいでしょう。彼もヒーローを殺してる。共闘せずとも、行き先は同じです」

2人がそういうのなら、仕方がない。
メスを下ろして 背を向けた。

「用件は済んだ。さァ保須へ戻せ。そこにはまだ成すべき事が残っている」
「俺も 事務所に戻して。休憩時間終わるから」

ヒーローコスチュームのマスクとサングラスをすればステインは俺を見た。
やはり、会話はなかった。





見回り行くよ、と声をかけてきたネイティブは先程会っていた ステインに捕まった。
マスクの下 わざわざ俺といる人を選ばないでよ、も思いながらも 偶然だったのだろう。

「お前は逃げろ!アルケミスト!」

逃しはしないとこちらを向いた彼が僅かに目を見開いた。

「すぐに助けを呼びます!」
「お前も…大人しくしていろ…」

そう言って走り去ろうとした俺を彼は攻撃して、また自由を奪われた体。
雑に持ち上げられて、外されたサングラス。

「……おまえは、後回しだ」

ネイティブに聞こえるくらいの声で彼は言う。
そして、なにしてんだと小さな声で言った。

「雄英に潜入中。今は職場体験」
「……先に言え、」

路地の1番奥。
光の届かないゴミ捨て場に放り投げられた身体。

「自分でどうにかしろ」
「わかってるよ」

ステインはそう言って、動けなくなっているネイティブの方に歩いていった。

「騒々しい…阿呆が出たか…?後で…始末してやる…今は…俺が為すべき事を為す」
「身体が…動かね…クソやろうが…!死ね!」
「ヒーロー名乗るなら死際の台詞は選べ」

ネイティブを始末しようとした彼が思い出したように、ネイティブを気絶させた。
そんな時 背後から迫ってきた人影。
ステインの刀で吹き飛んだマスク。

「スーツを着た子ども…何者だ」
「ぐっ…」
「消えろ。子どもの立ち入っていい領域じゃない」

吹き飛ばされた彼が顔を上げる。
その目に俺はつい 笑ってしまった。
ヒーローを目指そうとする奴がする目か?それが?

「血のように紅い巻き物と全身に携帯した刃物…ヒーロー殺しステインだな!そうだな!?お前を追ってきた。こんなに早く見つかるとはな!!僕は…」

飯田の目の前に突きつけられた刀。

「その目は仇討ちか。言葉には気をつけろ。場合によっては子どもであっても標的になる」
「標的ですら…ないと言っているのか。では聞け 犯罪者。僕は…お前にやられたヒーローの弟だ、!最高に立派なヒーローの弟だ!兄に代わりお前を止めに来た!僕の名を生涯忘れるな!!インゲニウム お前を倒すヒーローの名だ!!」
「そうか。死ね」

繰り広げられる戦闘を見ながら さてここからどうしようかと思案する。
飯田は俺に気づいていないようだし。
ネイティブはステインが気絶させてくれた。
今は、俺は自由だ。
だが、ネイティブが起きればそうはいかない。

「インゲニウム ハァ…兄弟か…ハァ。奴は伝聞の為に生かした。お前は弱いな」

飯田の血が飛び散る。

「おまえも おまえの兄も弱い…偽物だからだ」
「黙れ悪党…!脊髄損傷で下半身麻痺だそうだ!もうヒーロー活動は敵わないそうだ!兄さんは多くの人を助け…導いてきた。立派なヒーローなんだ!おまえが潰していい理由なんてないんだ!」

あぁ、けど…このまま被害者でいた方が捜査の目から逃れられるだろうか。

「僕のヒーローだ…僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんた!!殺してやる!!」
「あいつらをまず救けろよ。自らを顧みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな。目先の憎しみに捉われ私欲を満たそうなどヒーローから最も遠い行いだ。だから、死ぬんだ」

飯田の血を舐めた。
これできっと、飯田も動けなくなるだろう。

「じゃあな。正しい社会への供物」
「黙れ…黙れ!!何を言ったっておまえは兄を傷つけた犯罪者だ!!」

バーでも思ったけど。
彼はヒーローというものを正そうとしている。
俺とは 決して分かり合えない存在だ。
俺はどんなヒーローだって、許しはしない。
ヒーロー それが この格差の元凶。

吹き飛んだステイン。
そして、それを殴ったのは緑谷だった。

「救けに来たよ 飯田くん」

よし、被害者でいるのはやめよう。
この路地の先には隣の路地へ続く細い道があるし、なんかあったらそこから逃げたことにしてしまおう。
怪我はしているのだ、そこで倒れたふりでもしておけばよい。

武器屋にもらった別のものに変形させていたマスクを錬成し顔に、そしてコスチュームを錬成し変形させる。
立ち上がれば 黒いローブがはためく。
刺青は隠すように義手を模したもので隠した。

「よかった…ビンゴだ」
「緑谷くん!?何故…!?」
「ワイドショーでやってたりヒーロー殺しの被害者の6割が人気のない街の死角で発見されてる。だから騒ぎの中心からノーマルヒーロー事務所辺りの路地裏を虱潰しに探してきた!」

暗闇からこつりこつりと足音をさせて彼らに歩み寄る。

「こんな子供にプロファイリングされてちゃダメなんじゃないの?ステイン」
「…心喰、」

ステインはこちらを見て、少しだけ笑った。

「誰だ!?」
「初めまして、緑谷出久。ハートイーターです」
「ハート、イーター…!?やっぱり繋がっていたのか、敵連合とヒーロー殺し」





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