贋物


黒いローブが歩くたびにはためく。
顔を隠すマスクの頬には ペイントなのか血の跡。
そして、弧を描く口にはチャック。
初めて、見た。
彼が……ハートイーター……
この2人相手に戦うなんて…無理だ。

「動ける!?大通りに出よう。プロの応援が必要だ!」
「身体を動かせない…!斬りつけられてから…恐らく奴の個性…」
「それも推測されてた通りだ。斬るのが発動条件ってことか?」

あ、もう1人怪我人が。
飯田くんだけならまだ担いで逃げられたかもしれないのに。
2対1で…どうにか出来るか?

「緑谷くん 手を…出すな。君は関係ないだろ!」
「何…言ってるんだよ」
「仲間が救けに来た…良い台詞じゃないか。だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然…弱い方が淘汰されるわけだが さァ どうする」

クスクスとハートイーターが笑う。

「やめろ!逃げろ、言ったろ!君には関係ないんだから!」
「そんなこと言ったらヒーローは何も出来ないじゃないか!い、言いたいことは色々あるけど 後にする!オールマイトが言ってたんだ。余計なお世話は ヒーローの本質なんだって」

ヒーロー殺しが笑った。

「嗚呼、本当に。ヒーローって生き物は頭の中お花畑だねぇ」
「手を出すな」
「えー…いいけど、」





緑谷の自由が奪われて、ステインは飯田に歩み寄る。

「口先だけの人間はいくらでもいるが…おまえは生かす価値がある…こいつらとは違う」
「だって、よかったねぇ」

緑谷の前にしゃがみ 彼の顔を覗き込む。

「けど、俺には関係ないんだよね」
「ハートイーター…」
「俺はヒーローであるなら、全員殺す。無個性なままだったら、死ぬことはなかったのにねぇ」

緑谷の目が見開かれた。

「オールマイトにはいつ出会ったの?個性はどうやって譲り受けたの?」
「な、んで…それを…」
「無個性の時はどんな扱いを受けた?周りを恨まなかったの?どうして自分だけ ただ個性がないだけなのに虐げられるんだ!ってね」

それは、と彼の声が震えた。

「ヒーロー向きな個性を持った奴がずっと隣にいたんでしょう?爆豪…勝己くんがさ。どんな扱いされてきた?いじめられた?いないもの扱い?殺されそうになった?」
「お、お前には関係ない!!」
「そうだね。けど、知りたいなぁ」

彼の頬に触れようとした瞬間眼前に広がった炎と氷。

「次から次へと…今日はよく邪魔が入る…」
「緑谷 こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」

轟か。
迷子みたいな目はもう、していない。

「なんで君が!?」
「なんでってこっちの台詞だ。数秒意味を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味なくそういうことする奴じやねぇからな お前は。ピンチだから応援呼べってことだろ」

足元にできた氷を避ける。

「大丈夫だ 数分もすりゃプロも現着する」

そして、彼の炎の攻撃を手で受け止めた。
炎が消え、彼は目を見開く。

「ヒーロー殺しは情報通りのナリだな。…お前は、誰だ」
「誰だと思う?」
「敵か。…こいつらは殺させねぇぞヒーロー殺し」

目撃者が増えたな。
面倒くさい。

「どうするの?ステイン」
「俺はやるべきことを全うする。お前は、邪魔だ」
「まぁ、連携とかしたことないもんね。勝手に乱入しただけだし、俺は緑谷出久に挨拶に来ただけだからな」

俺を見る緑谷にひらひらと手を振った。

「また、会おうね。緑谷出久。君を喰い殺せる日を…楽しみにしているよ」





「彼が助けを求めに来たんだ!」
「大丈夫か!?」

何人かのヒーローを引き連れて 路地裏に戻れば 捕まったステインと怪我を抱えながらも 生きている緑谷たち。

「アルケミスト!無事でよかった」
「ネイティブも。ステインは…」
「この通りだ」

紐に縛られ意識がないのか俯く彼。
ヒーロー達の意識が緑谷たちに向いた隙に足で彼を蹴ればわずかに彼の頭が揺れた。
仕込みの刃を彼の後ろに落とせば彼は それを指先で拾った。

「伏せろ!!」

小さなお爺さんの声。
空から飛んできたのは脳無。
脳無出すとか 聞いてなかったんだけど…
まぁ、弔くんがキレたんだろう。

翼の生えた脳無は緑谷を捕まえて上空へ飛び立つ。
脳無には知性がない。
緑谷を選んだのはなんでだろうか。

緑谷の叫び声を聞きながら、上昇していくのを眺めていれば隣で小さな布が擦れる音。
視線を隣に向けた時には縛られていた彼が脳無に飛び乗っていた。

「偽物が蔓延るこの社会も徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ…全ては正しき社会の為に」

オイオイ、ふざけんなよ。
折角逃げれるようにしてやったのに、なんで緑谷助けてんの?
いや、そうか…彼にとって緑谷出久は対象外か。

「贋物…正さねば…誰かが血に染まらねば…ヒーローを取り戻さねば!!来い!来てみろ!!贋物ども!俺を殺していいのは…オールマイトだけだ」

ヒーローコスチュームのマスクの下、小さく舌打ちを零す。
やっぱり、俺とステインは似ても似つかない。
彼は敵でありながらも、ヒーローであろうとしていた。
そういう感情さえも、俺にとっては 目障りだ。
気絶したヒーロー殺しや脳無は護送され、俺たちは病院へ。
3人よりも軽症だった為、その日のうちに帰宅が許された。





次の日のニュースではヒーロー殺しの逮捕が大々的に伝えられ、敵連合との繋がりを示唆する内容もニュースで伝えられる。
ハートイーターの容姿が伝えられることはなく、緑谷が隠したのか警察が意図して隠したのかは不明だ。

「どこもかしこも 脳無は二の次かよ。忘れるどころか…俺らの方がおまけ扱いか」

弔くんから伝わる苛立ち。
だが、これで仲間が集まることになるだろう、
ヒーロー殺しの所属した 組織として。

「…忙しくなりそうだね、弔くん」
「気に入らない奴は殺していい」
「わかってるよ。それからね、弔くん。緑谷出久はやっぱりオールマイトからの力を受け継いでた」

お前まさか接触したのか、と彼に言われ素直に頷けば 弔くんは溜息をついた。

「勝手なことするなって。お前も、捕まってたかもしれないんだぞ」」
「ごめんね。けど、捕まるなんてヘマはしないから、大丈夫だよ」

だが、今回の件で改めて思った。
やはり俺は自由に動けなければ今後役に立たなくなる。

「…で?今日は職場体験じゃないのか」
「1日自宅待機。明日からまたやるよ」

椅子から立ち上がった、カウンターの向こうにいる黒霧を見る。

「武器屋に繋げてもらえる?」
「いいですけど、どうかしましたか?」
「ちょっと、欲しい個性があって。弔くん!俺がいいと思った人なら、仲間にしてくれる?」

俺の問いかけに弔くんは会ってから考えると答えた。
だが、連れてくることをやめろとは言わなかった。

「くれぐれも、気をつけてくれよ。心喰」
「うん。わかってるよ」

ゲートをくぐれば急に来るなよと 無精髭の彼が言う。

「人を、探しているんだけど」
「俺は武器屋だ。情報屋じゃねぇ」
「知ってる」

で、誰を探している と彼は聞いてくるのだか優しいものだ。

「俺になれる個性のやつ」
「…どういう?」
「なんでもいいよ。俺をもう1人作って欲しい」

沈黙。
そして、溜息。

「急に来て 無茶苦茶なお願いすんな、お前も」
「これから、必要そうだから」
「……俺が思い当たるんは1人だけだな。昔の、友人だ」

紙切れに書かれた住所。
そこにいなけりゃ知らん、と彼はいう。

「ありがとう、武器屋」
「困った客だよ、ほんと」
「ごめんねぇ」

職場体験が終わったら会いに行こう。


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