青春ごっこ


筆記試験は多分なんとかなった。
国語も心操のおかげか、多分赤点は免れただろう。
そして、演習試験当日。
ロボットとの対戦とか噂は耳にしていたが 試験会場にはずらっとプロヒーローが並んでいた。

「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ」

林間合宿。
夏休み中に行うらしく、赤点になった者は学校で補習を受けることになるらしい。
夏休みも自由がないのなら林間合宿も補習も俺にとっては変わらない。
むしろ、林間合宿に行った方が 弔くんたちと連絡が取れなくなる可能性があるかとが気がかりではあった。
それについては弔くんには事前に伝えてはあるが、とりあえず参加する方向でいいと言われているから 何か考えはあるのだろう。
最悪、トゥワイスに俺を作って貰えばいいだろうか。
トゥワイスの個性は一度試したが、作られたのはびっくりするほど俺だった。

「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々わかってるとは思うが…」
「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

ロボットと戦うと思って喜んでいた2人が肩を落とす。

「諸君らにはこれからチームアップでここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
「尚 チームの組み合わせも対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度…諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」

敵連合への対策も兼ねているのだろうな。
教師サイドがチームアップを決めているとなれば、何かしらの弱点があり それが解決できるような道筋を立てているだろう。

「まず轟と八百万がチームで俺とだ。そして緑谷と爆豪、霧矢がチーム。で、相手は…」
「私がする!協力して勝ちに来いよ 三人!」

最悪な組み合わせだ。
睨み合う爆豪と緑谷を見つつ、溜息をつく。
俺がこの組みに選ばれた理由はなんだ?

「試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいないから速やかに乗れ」

指示通りバスに乗り込めば前の方に座る緑谷と後ろの方に座る爆豪。
仲悪いのはわかってはいたが、厄介だと内心思いつつ真ん中らへんの席に座った。

オールマイトは何かしらのハンデを背負うことになるとは思うが、3人協力しなければ彼らの作る勝ち筋にはならないだろう。
だが、3人協力するというのは無謀だろうな。
緑谷にとって爆豪がどういう存在かはわからないが爆豪にとってみれば個性を得た緑谷ほど受け入れられない存在はない。
そして、そこを煽った俺も以ての外だろう。
じゃあ、緑谷と協力してやるか とも考えられるが緑谷に個性を与えたのは紛れもないこれから戦うオールマイトだ。
緑谷が無個性時代、それ相応の抑圧がある中で生活していたと仮定すれば 個性を得ても根本は変わらない。
憧れの存在。そして、個性を譲り受けたからこそ その感情は強くなっているだろう。
弔くんにとっての先生のように。
そして、俺にとっての弔くんのように。
勝てるかどうかではなく、勝つという感情を持つことすら恐れ多い。
そんな、感じだろう。
この仮定があっていれば導き出せるのは…詰み。

バスが止まり、着いたのは市街地を模した訓練場。

「あの…戦いってまさかオールマイトを倒すとかじゃないですよね…?どうあがいてもムリだし…!」
「消極的なせっかちさんめ!ちゃんと今から説明するよ」

制限時間は30分。
ハンドカフスを敵にかける もしくは 1人でもこのステージから脱出する ことがクリアの条件。

「勝って勝つか逃げて勝つか…」
「そう!君らの判断力が試される!けどこんなルール逃げの一択じゃね!?って思っちゃいますよね。そこで私達サポート科にこんなの作ってもらいました」

彼が腕に嵌めたのは重り。
体重の約半分の重量を装着するらしい。
が、そんなの意味あるか?
ただでさえ、オールマイトはパワー増強系の個性。
あの脳無を吹き飛ばしたパワーがあるのだから 体重半分の重りがあっても 動きは俺たちと比べ物にはならないだろう。

「戦闘を視野に入れさせる為か。ナメてんな」
「HAHA!どうかな!」

リカバリーガールもいることだし、手を抜くのではなく死なない程度の手加減しかないだろう。

『皆 位置についたね。それじゃあ今から雄英高1年 期末試験を始めるよ!ゴォ!!!』





「ついつくんな!ブッ倒した方が良いに決まってんだろが!!」
「せっ戦闘は何があっても避けるべきだって!」
「終盤まで翻弄して疲弊したとこ俺がブッ潰す!」

開始早々。
移動しながら始まった2人の口論。
ステインと会敵した時と違い緑谷の声が自信なさげなのは過去のトラウマによるものだろう。

「オールマイトを…な、何だと思ってんのさ。いくらハンデがあってもかっちゃんがオールマイトに勝つなんて…」

無理だ、と言おうとしたのだろう。
だが、爆豪の籠手が彼を殴り 緑谷が地面に倒れた。

「これ以上喋んな。ちょっと調子良いからって喋んなムカツクから」
「ごっ…試験に合格する為に僕は言っているんだよ。聞いてってかっちゃん」
「だァからてめェの力なんざ合格に必要ねぇっつってんだ!!」
「怒鳴らないでよ!!それでいつも会話にならないんだよ!!」

あーぁ、最悪だ。
2人の怒鳴り声と 爆発音。
肌でもわかる、オールマイトが来たと。

「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えてると痛い目みるぞ。私は敵だ、ヒーローよ。真心込めてかかってこい」

肌に感じる威圧感。
こいつが、元凶。
この社会を作った元凶。
俺を ドン底へ突き落とした 絶対的な悪。

「正面戦闘はマズイ 逃げよう!」
「俺に指図すんな!」
「かっちゃん!!」

オールマイトが2人に気を取られているうちに、俺は建物の陰に身を潜めた。

「オールマイト!言われねぇでも最初から!」

飛びかかった爆豪の顔を掴んだオールマイト。
その手を払うこともせずに 直接打ち込まれた爆発。
だが、地面に叩きつけられた。

「そんな弱連打じゃちょい痛いだけだがな!そして…君も君だ緑谷少年。チームを置いて逃げるのかい?」

爆豪が突っ走るのは予想できていた。
だが、緑谷まで爆豪しか見えなくなるとは予想外だった。

「霧矢少年!君は高みの見物かな!?」

後ろに逃げようとした緑谷と飛び出した爆豪か空中で衝突した。
高みの見物だと?
出来るものならそうしていたさ。

「だから!正面からぶつかって勝てるハズないだろ!?」
「喋んな。それが…ヒーローなんだから」
「じゃあ尚更ここでの戦闘は…」
「放せ 触んなっ!!」

とりあえず、と地面を蹴ったオールマイトがガードレールで緑谷を地面に拘束する。

「逃げたい君にはこいつをプレゼントだ!」

そして、殴られて吐きながら吹き飛ばされた爆豪。
このまま、ゲートに向かうのも手だが、そうすればきっとオールマイトは2人を倒し俺を追う。
1対1で勝ち目は、ない。

「わかるよ…緑谷少年の急成長だろ?でもな、レベル1の力とレベル50の力…成長速度が同じハズないだろう?もったいないんだ君は!わかるか!?わかってるんだろ!?君だってまだいくらでも成長出来るんだ!でもそれは力じゃない」
「黙れよ オールマイト」
「あのクソの力ぁ借りるくらいなら…負けた方がまだ…マシだ」

仕方ない。
こんな茶番に付き合ってても、合格はないだろう。
指を弾き、大きな炎をオールマイトと爆豪の間に起こして地面に押さえつけられた緑谷のガードレールに触れ分解する。

「霧矢くん!?」
「爆豪持って行け」
「え、」

いいから早くしろ、と言えば 緑谷は頷き爆豪を抱えて逃げる。

「君が言うなよ!」

緑谷のそんな声を聞きながら炎の向こうから現れたオールマイトに笑った。

「かっこいいね、霧矢少年。だが、どうやって私と戦うのかね?」
「ねぇ、オールマイト。強すぎる光は、闇を生む。敵連合にこのクラスが狙われているのは、あんたって言う光が 闇を呼び寄せているからじゃないの?生徒を危険に晒してるのってさ、敵じゃなくて…アンタなんじゃない?」

笑って吐き捨てた言葉に一瞬彼がたじろぐ。
その隙に両手を地面につけて起こした大きな爆発。
砂煙の向こう、オールマイトが膝をつくのを視界の端で捉えつつ 逃げた緑谷を追った。

その先に 話す2人の姿を見つけて、足を止める。

「愉快な青春ごっこは終わった?」
「あ゛!?」
「なっ!?」

はぁ、と態とらしく溜息をついて首を傾げる。

「前も言わなかった?爆豪。勝手に飛び出して行ったんならせめて結果残せよ。飛び出して結局 諦めるって。いや、何してんの?」

ハッと鼻で笑ってやれば爆豪は俺に掴みかかってきた。

「そうやってまた感情に任せた行動?お前は入学した時から一歩も進歩してないね。やっぱり、その両腕切り落としてあげようか?邪魔でしょ?使えないものは、俺の腕みたいに捨てるべきだよ」
「霧矢くん、それは言い過ぎじゃ…」
「お前もだよ、緑谷」

爆豪を振り払い、緑谷に近づく。

「爆豪はまだしも、戦闘開始から俺の存在に意識は向けたか?お前も変わらないよ。お前、爆豪に何を抱いてる?畏怖?憧れ?恐怖?何でもいいけど、今が何の場か考えたか?なぁ、オールマイトに勝てるわけがないから、ゲートに行こうってさ 思考を放棄しただけだろ?あいつに背中向けて逃げられると思ってんの?」
「霧矢くんのこと無視してたわけじゃなくて…その、かっちゃんが…」
「かっちゃん かっちゃん うるさいんだよ。爆豪もデクデクうるさい。お前らの青春ごっこ?むしろラブコメ?そんなんに付き合ってられるほどこっちは暇じゃない。お前らに巻き込まれて赤点なんて真っ平御免だ」

2人がぐっと押し黙る。

「次、同じこと繰り返すなら。お前らまとめて、殺す」



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