地獄に落ちたって 許さない


「死柄木さん」

ノックの音と開いたドア。

「こっちじゃ連日あんたらの話で持ちきりだぜ。何かでけぇ事が始まるんじゃねぇかって」
「で、そいつらは?」

武器屋からの紹介で少し前から接触をしてくるようになったブローカーの義爛。
そして、彼がアジトに連れてきた2人。

「生で見ると…気色悪ィなァ」
「うわぁ手の人ーステ様の仲間だよねぇ!?ねぇ!?私も入れてよ!敵連合!」


火傷の跡を纏う男と女子高生。
弔くんが苛立つのを肌で感じる。

「黒霧、こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットで来やがった。餓鬼と礼儀知らず」
「まァまァ…せっかくご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょう死柄木弔。それにあの大物ブローカーの紹介。戦力的には間違いないハズです」
「何でもいいが手数料は頼むよ黒霧さん。紹介だけでも聞いときなよ」

義爛はドアを閉じて足音をさせながら 2人の間に立つ。

「まずこちらの可愛い女子高生。名も顔もしっかりメディアが守ってくれちゃってるが連続失血死事件の容疑者として追われてる」
「トガです!トガヒミコ!生きにくいです!生きやすい世の中になってほしいものです!ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔くん!」
「意味がわからん。破綻者かよ」

やっぱりステインにあてられた奴らが集まってきているってことか。
弔くん隣で、読んでいた本のページを捲る。

「次 こちらの彼。目立った罪は犯してないがヒーロー殺しの思想にえらく固執してる」
「不安だな…この組織本当に大義はあるのか?まさかこのイカレ女入れるんじゃねぇよな?」
「おいおい、その破綻JKすら出来ることがお前は出来てない。まず名乗れ、大人だろう」

彼は今は荼毘で通してる、と答えた。

「通すな 本名だ」
「出すべき時になったら出すさ。とにかく、ヒーロー殺しの意志は俺が全うする」
「聞いてないことは言わないでいいんだ。どいつもこいつもステインステインと…」

ふらっと立ち上がった弔くん。

「いけない死柄木…」
「良くないな…気分が良くない。駄目だお前ら」

全員が臨戦態勢に入ったが 彼らの手は相手に届くことはなくワープゲートの先へ。

「落ち着いて下さい死柄木弔。貴方が望むままを行うのなら組織の拡大は必須。奇しくも注目されている今がその拡大のチャンス。排斥ではなく受容を死柄木と」

利用しなければ全て。彼の遺した思想も全て。
黒霧のそんな言葉を聞きながら、溜息をつく。

「うるさい」
「どこ行く」
「うるさい!」

出て行ってしまった弔くんの背中を見送り、俺も立ち上がる。

「取引先にとやかく言いたかないが…若いね。若すぎるよ」
「殺されるかと思った!」
「気色ワリィ」

仲間は必要だ。
弔くんもそれを分かっている。
けど、まだ 気持ちが追いついていないんだろうな。

「返答は後日でよろしいでしょうか?彼も自分がどうすべきかわかっているハズだ…わかっているからこそ何も言わず出ていったのです。オールマイト ヒーロー殺し…もう二度鼻を折られた。必ず導き出すでしょう。あなた方も自分自身も納得するお返事を…」
「なんだっていいんだけど、」
「心喰?」

両手を地面につければ、床が彼らを拘束した。

「なにこれ!?」
「なんのつもりだ…餓鬼」
「…弔くんに次、手を出したら…殺す」

やれやれと黒霧が首を振った。

「やめなさい、心喰」
「黒霧、俺の地元に繋いで」
「何をする気ですか」

彼の問いかけに俺は笑った。

「実験」

床の拘束を解いて、ゲートをくぐる。
懐かしい地元を歩き、あの倉庫のドアを開けた。
俺が捨てられた倉庫。
あの時は重くて開けられなかった扉も今は、簡単に開く。
数年前に会社が倒産し、使われていないことを知っていたが 来たのはあの日以来だった。

組成式は出来た。
後は、試すだけでいい。
使い終わったら、分解して燃やしてしまおう。

「とりあえず、素材を探しに行こうか」






「予鈴が鳴ったら席につけ」

テスト結果について 話して騒がしかった教室がシンとなる。

「おはよう…今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た。したがって…林間合宿は全員で行きます」
「「「「どんでんがえしだぁ!」」」」

筆記の赤点はゼロ。
実技は切島、上鳴、芦戸、佐藤、瀬呂の5人が赤点らしい。
あの試験内容で赤点を免れたのなら、よかった。

「今回の試験 我々敵側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題に向き合うかを見るよう動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」
「本気で叩き潰すと仰っていたのは…」
「追い込む為さ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点を取った奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」

赤点の人は別途で補習はあるらしい。
配られた合宿のしおりに視線を落とす。
期間は1週間で、持ち物も随分とあるようだ。

「A組みんなで買い物行こうよ!」
「おお良い!何気にそういうの初じゃね!?」

霧矢も行く?と声をかけてきた瀬呂に行かないと言葉を返す。

「え、なんで」
「霧矢も行かねぇの!?」

詰め寄ってきた切島たちに めんどくさいと返して 席を立つ。

「じゃあお疲れ」

教室を出て、図書室に向かっていれば後ろからついてくる足音。
振り返れば 緑谷がいた。

「…なに?」
「あ、あの…テストの時はごめん!!」

すごい勢いで下げられた頭。
赤点じゃなかったからいいよ、と言えば彼は恐る恐る顔を上げた。

「…かっちゃんは、俺の…1番身近にいたヒーローだったんだ。憧れてた」
「ヒーロー向きの個性持ってるもんね、爆豪は。長い間無個性だった緑谷からしたら、強い光だったんだろうね」

けど君は闇には染まらなかった。
彼を支えたのは何だろうか。
オールマイトか?それとも家族か?

「緑谷はどうして爆豪を嫌いにならないの?恨まないの?君に、酷いことをしたんじゃないの?」
「されてない…とは、言えない。来世を信じてワンチャンダイブとか…言われたし」
「じゃあ、なんで?」

けど、と彼は俯いた。

「それでも、目指すところは一緒なんだ。いつも、いつも、かっちゃんの背中を見てた。あんなんだけど、真っ直ぐなんだ…ヒーローになりたいって」
「ふぅん…」
「だから、僕は…かっちゃんに憧れた…。何をされても、何を言われても…僕の超えたい相手なんだ」

そうかそうか。
緑谷は 本当の死の恐怖を知らないんだ。
無個性であったが為にヒーローによって与えられた死を。
だから、君は信じているんだね。
ヒーローは 救えると。
俺たちを生んだのが ヒーローだということに 君は気付きもしない。

「頭の中お花畑なんだね、緑谷は」
「えっ!?」

弔くんが緑谷に固執し始めたのはオールマイトの個性を受け継いだからだと思ってたけど、彼のこの性格も原因なんだろう。
彼もまた、象徴になろうとしている。
そういう感情を 持っている。
素質とも、言うんだろう。

「俺だったら、許さないよ。自分を見下した奴ら全員…地獄に落ちたって 許さない」

そう言って笑ってやれば、緑谷は何か言おうとしたけど口を閉ざした。

「俺、図書室行くから。もういい?」
「あ、うん。ごめん…ありがとう」

歩き出して 「嗚呼、」と足を止め 振り返る。

「オールマイトは、大丈夫?」
「え、?」

彼の表情に動揺が見えた。

「な、なにが?」
「仲良いよね?オールマイトと。試験の時、吐血してたけど」

そう言って笑ってやれば彼は明らかにどうしようって顔をした。

「あ、えっと…」
「何か知ってる?平和の象徴が病気だとかなったら…世の中どうなるかね。心配だよね」
「あ、う…うん」

ごめんね、知らないならいいんだと 俺は前を向いた。

「緑谷なら、知ってるかと思っただけ」





デクと錬金野郎が廊下で話す姿を見た瞬間フラッシュバックした光景。
それは、幼稚園の頃の 泣いてるデクを慰める少年の姿だった。
横顔が、似ていたんだ。
あの、翳りのある少年に。
だがら、2人が話す姿に 重なった あの過去の記憶。

走って家に帰って、幼稚園のアルバムを開く。
隣のクラスの 小綺麗な顔をした あのヒーロー夫妻の息子。

「やっぱり…」

名前は違う。
だが、似ている。

「帰ってきたなら声かけなさいよ!」
「ババァ、俺が体育祭で戦った霧矢って覚えてるか?こいつ、似てないか!?」
「え?霧矢くんってあの義手の子?」

誘拐されたその少年の幼い頃の写真を見せながら言えばうーんと首を傾げる。

「似てる、と思えば似てる気がするけど。違うんじゃない?いるわけないでしょ、あの子が」

そんなん、わかってる。
けど、なんか違和感があるんだ。
あの、霧矢心という 人間に。



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