個性を消す


試験明けの休日。
アジトの近くで合宿の買い物を済ませて、アジトで図書室で借りた本を読んでいた。

「最近いつも本読んでんな!」

読んでいた本を覗き込みながら言ったトゥワイスに知識が欲しいんだと返す。

「理解できるものが増えればそのまま、俺のやれることに繋がるし」
「錬金術だっけ?それって、個性は作れないのか!?馬鹿言うなよ!作れるはずがねぇ!」
「それがわからないんだよね。個性因子について調べてはいるけど、、」

個性遺伝子学の分厚い本を読んでも、わからない。
理解できないわけではない。
だが、そこからの式が作れないのだ。

「難しいんだな。俺なら余裕だ!」
「そう。難しい。けど、これが理解できたら 個性を分解できる。ヒーローを無個性の役立たずに、することだってできるのに」

ぺら、とページを捲る。
その為には知識が必要だ。
より深いところまで。

「ただいま、」

ドアが開き、アジトに入ってきたのは弔くんだった。
どこか機嫌が良さそうな彼に首を傾げる。

「おかえり、弔くん。どうしたの?」
「信念も理想も最初からあったんだよ」

弔くんはそう言って笑った。

「何も変わらない。オールマイトのいない世界を創り、正義とやらがどれだけ脆弱か暴く。それが、俺の 俺たちの信念だ。その為に、全部俺の踏み台にする」

迷いがなくなったらしい。
黒霧にあの2人を呼べ、と指示を出す。

「仲間を増やす。経験豊富な駒が欲しい」
「義爛が私たちに会わせたい人は他にもいると仰っていました」
「だったら、そいつらも呼べ」

心喰、と弔くんは俺を呼びながら歩み寄ってきた。
頬に触れた彼の手。
触れた温もりに 俺は擦り寄った。

「命令を頂戴。俺は、どんな命令だって 応えてみせるよ」
「新しいやつらをまとめろ。俺の意思を 心喰なら その通りに受け入れて 動かせるよな?」
「うん。弔くんの為なら」

偉いな、と頭を撫でた彼の手。

「俺もいるぜ!」
「あぁ、トゥワイス。お前も、心喰と一緒に動いてくれ。超人社会に風穴を開けてやれ」






そして集まった。

「いい返事が聞けて嬉しいよ、死柄木さん」

義爛はそう言って笑う。
その後ろには荼毘とトガヒミコ。

「まだ、あと何人かいい奴がいるから。また連れてくるよ」

弔くんは、ようこそ敵連合へと両手を広げた。

「お前らを受け入れる。力を貸せ」
「これから宜しくお願いします。私は黒霧です」

黒霧はこちらを見て、自己紹介をと言った。
確かに前回、名乗っていなかった気がする。

「改めまして、心喰です。敵名を ハートイーターと言います」

彼らが一瞬 身構えた。

「おいおい、そんな餓鬼が…ハートイーター?」
「今は雄英に潜入してます」

まじかよって、荼毘が笑った。
視線を隣に向ければ 俺も!?とトゥワイスがオーバーなリアクションを見せる。
本当に、包んでる時が別人すぎて。

「トゥワイスだ!違う、分倍河原仁だ!」
「両方彼の名前。好きな方で呼んであげて。とりあえず、よろしく」

目が合ったトガが俺に笑顔を向けた。

「会いたかった!私、トガです!トガヒミコ!」
「名前は前回聞いたよ」

握りしめられた両手。
彼女はニコニコと笑う。

「ステ様と同じくらい貴方に興味があります!血が好きなの?」
「え?あぁ、嫌いじゃないよ。心臓から滴る真紅は うっとりするくらいに綺麗だからね」
「わかります!わかります!!」

ぶんぶんと握った手を彼女は振る。
よろしくね、仲良くしようねと 楽しそうな彼女に俺も笑った。

「ヒミコちゃん。よろしく」
「よろしくね、心喰くん!」
「若いなー、2人とも!」

トゥワイスの言葉に俺は笑う。
同年代の敵に会うのは確かに初めてだった。

「荼毘さんも、よろしくお願いします」
「…あぁ、」

心喰はお前らを率いて動くことになる、と弔くんは言った。

「文句はない。別に」
「ないです!」
「ないぜ!頑張れよ、心喰!お前じゃ無理だろ!」

もう何人か連れて来る、と義爛は言っていたし そこそこな人数を率いて動くことになるだろう。

「人を集めて、これから何をする気だ?」

荼毘の言葉に、弔くんは俺の合宿のしおりを見せた。

「心喰の学年の林間合宿を襲撃する。そこで、こいつを殺して…こいつを攫ってほしい」

しおりがカウンターに置かれて、掲げられた2枚の写真。
そこに映るのは 緑谷と爆豪。

「それが、何になる」
「超人社会にヒビを入れる。そのための一歩目だ」
「待って、弔くん。何で、爆豪なの」

弔くんはこちらを見て不思議そうに首を傾げた。

「彼もまた、法律で雁字搦めの社会で 抑圧されて生きてる。だから、スカウトする」
「爆豪だけはダメだよ。無理だ。あいつは、」
「これが、俺の意思だ」

そう言われしまえば返す言葉はなくなる。
だが、爆豪は緑谷と同じだ。
オールマイトに憧れた 純粋に ヒーローを目指してる存在。
彼はこちら側には来ない。
もし、来たとしても…俺はあいつを殺してしまいたくなる。きっと。
大丈夫か?とトゥワイスが俺の肩を叩く。

「大丈夫ですよ。俺は、弔くんの命令に従う」
「…それならいいけど」


その日を境に、弔くんは義爛から色んな人を紹介してもらっていた。
アジトに来た人も何人か見たが、最終的に全員が集まるのは実行時になる可能性が高いらしい。

「不服か?心喰」

本を読んでいた俺に弔くんはそう問いかけた。

「不服だったらやめてくれる?」
「…やめないな。けど、機嫌くらいはとろうかなって 思って」
「ここにいる時、マスクずっとつけてなきゃいけないのがやだ」

荼毘とトガが連合に加わった後から、アジトでも顔を隠すよう言われた。
理由は 俺の存在がバレないようにするためだ。
ごめんな、と笑って腕を広げた弔くん。
その腕の中に俺は素直に 飛び込んだ。

「もう少しの我慢だから」
「…うん。ねぇねぇ 俺さ、爆豪が仲間になっても仲良くなれないよ」
「……あいつの何がそんなにダメなんだ?」

あいつは緑谷と同じだよ、と目を伏せる。

「あの2人は道は違えど、同じところを目指している」
「なるほどな…」
「けど、弔くんが望むなら…ちゃんと迎え入れるね」

殺すのだって、我慢してみせる。





夜の街。
爆豪を迎え入れると言われた日からモヤモヤしていた。
喰い千切った心臓は 今日も美味しくない。
滴る鮮血も、色を失う。

「あーぁ、つまんない」

死体の上に捨てた心臓を眺めながら 溜息をつく。
殺さずに 実験に使えばよかったかな。

「お前か、うちのシマで好き勝手やってくれてるやつは」

聞こえた足音。

「…あー、」

ミスった。
初めての目撃者だ。
背中を向けたまま、血に濡れた手でマスクをつけ直し、振り返る。

「ここらで暴れるには、どこかに挨拶が必要だったかな?」

振り返れば立っていたのは嘴みたいなマスクをした男。

「ハートイーターか、」
「そう。シマを荒らしてしまったなら、申し訳ない。今日は見逃してくれない?」

必要なら、掃除もしていきますよと 死体に触れて分解すれば そこには何もなくなった。
見開かれた彼の目。

「そうやって、隠せるなら。なぜ、態々残す」
「俺が来たって知らしめるためかな?個性をひけらかして笑ってる奴らに 次はお前だぞって」
「…個性が、嫌いか」

彼の問いに俺はマスクの下で笑った。

「嫌いだよ。だから、ヒーローとか強い個性で 他を抑圧してる奴らを殺して回ってるんじゃん。個性があるから、覆せない格差が生まれる。ヒーローがいるから、敵が生まれる。だから、俺はヒーローを殺す」
「個性を消す、方法があるとしたら?お前は、その方法を知りたいか」
「…そんなものが、あるのなら。個性を持った人間全員に やってやりたいね」

俺の言葉に彼はふっと笑った。

「何がおかしい?」
「いや…同じことを目指す奴がいるんだな、と思っただけだ」

彼はくるりと背中を向ける。

「今日は見逃してやるよ」
「は?ちょ、」
「俺はオーバーホール。また、会おう」

歩いて行った彼の背中を見つめ、首を傾げた。
オーバーホール。
聞いたことない名前だった。
しかも、また会おうって…。

「まぁ、いっか。もうちょっと遊んで帰ろう」

個性を消す方法…彼は知ってるのかな。



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