開闢行動隊

合宿3日目。
ご飯を食べ終えて、肝試しだーと喜ぶクラスメイトたちを眺めていた時に胸で震えた端末。
携帯忘れたから取ってくる、と皆の輪から抜け出して 懐中時計を開けば全員が揃ったと連絡があった。
黒霧に自分の位置情報を送れば目の前に開いた黒いゲート。
そこから現れたのは 俺だった。

「お待たせ、俺」

目の前の俺はそう言ってマスクを外して笑った。
ダメージを受ければ壊れてしまうが 受けなければバレることはないだろう。
お互いに着ていた服を交換して、じゃああとはよろしくと彼に伝えた。

「クラスメイトの名前は平気?」
「覚えてるよ。個性も錬金だけ使うんだよね?安心してよ、しっかりと俺だから」
「うん。じゃあ、健闘を祈る」

コツンとぶつけたお互いの拳。
目の前の自分が笑って、俺はゲートをくぐった。

「遅ぇぞ、」

ゲートの先で待っていた荼毘がこちらを見てそう、一言。
マスクを通して話すせいで少し変わる声に違和感を覚えながら悪いね、と返した。

「これで全員か」

この人数揃うと圧巻だな。
待機する仲間たちを見渡してから、その場にしゃがみ込んで簡略的な地図を描く。

「簡単に状況と作戦を伝える。まず、宿舎にイレイザーヘッドとブラドキングがいる。どちらか片方は宿舎に残って生徒を守ると思うから戦闘は片方になるだろうね。足止め出来ればいいから、ここはトゥワイスの作った分身でいいと思う」
「任せろよ!」
「で、広場にラグドール以外のプッシーキャッツがいる。ここには2、3人配置したい。パワー系が1人いるから、パワー系のどっちかは配置したいんだけど」

そう言って彼らを見上げればじゃあ私がいくわ、とマグネが手を上げた。

「ありがとう。あともう1人は、」
「俺だな」
「了解。任せた、スピナー。ターゲットや殺すリストの人がいたら、そっちも対応してほしいけど メインは足止めね」

生殺与奪は全てステインの仰る主張に沿うか否かだ、と言った彼。
ステインの思考にやけに拘ってるのは知っていたし、特にそれを指摘することもしないけど。

「殺す殺さないは任せるよ。その代わり、足止めはしっかりやってね」
「おう、任せとけ」

で、次はとマスタードの方を見る。

「ここが回収地点だから…マスタードは毒ガスをこのエリアに。恐らく配置されてるB組のメンバーが多くいるはずだから近づけないようにしてほしい」
「うん、わかった」

毒ガスの広がるエリアの奥の集合場所に×印を描いた。

「荼毘も この辺燃やしちゃって」
「あぁ、」
「今回の目的は2つ。1つは爆豪勝己の誘拐。2つ目は殺すリストの抹殺」

この2つをこなしてくれるなら、後は任せるよと立ち上がった。

「トゥワイスはやられたら困るから戦闘には参加しない方向で」
「俺が一緒に行動する。イレイザーヘッドのとこに送るコピーも俺でいいだろ」
「うん、じゃあよろしく。で、コンプレスは俺とまずラグドールの誘拐ね。終わり次第、爆豪の方に行こう」

後は、と残ったメンバーに視線を向ける。

「マスキュラーは仲間同士ぶつからない位置で好きに暴れていいよ。そういう約束だしね。ムーンフィッシュは毒ガスゾーンから広場の間のこの道で。ヒミコちゃんは こっちの道ね。3人は血集めてほしいかな」
「これ、可愛くないから嫌いです」
「そんなこと言わないで。それと、脳無の方は 荼毘に任せていい?」

あぁ、と彼は頷いた。

「つーか、俺とお前。役割チェンジするか?一応お前指揮官だろ」
「いや、心喰で使える個性は 人を守るのには適してないから荼毘の方がいいと思う。俺の分身に何かあった時には 俺自身が動ける位置にいた方がいいし」
「それは、確かにそうだな」
「通信機はみんな持ってる?爆豪が回収できたら 5分以内に回収地点に集合ね」

俺の顔を知らない人が大半だし、もし間違えて攻撃されて俺が壊されてしまったら 俺は連れ去られていたとか そういう扱いにしておけばどうにかなるだろう。
トゥワイスがいる限りは複製できるし、生徒の前で 連れ去るふりとかすれば…
まぁ、戦闘しないように俺には言ってあるから大丈夫かな。

眼下に広がる森を見ながら マスクの下で深呼吸をして 笑った。

「じゃ、ぶっ壊しに行こうか。開闢行動隊…戦闘開始だ」





「ラグドールの場所はわかってんのかい?」
「うん、それは大丈夫。他のメンバーが接触する前に回収しちゃいたいんだよね。テレパスがあるから」

森の中。
迷うことなく歩いていく 心喰の後を追う。
敵連合に所属して、彼に出会ったが まさかハートイーターが齢15歳の少年だとは思いもしなかった。
しかも、雄英に侵入しているなんて 予想できるはずもない。
顔は見たことはない。
荼毘やトガは最初に見たそうだが、俺が連合に参加するようになった頃にはあのマスクをつけるようになっていたらしい。

「あ、いた」
「どれ?あぁ、ほんとだね」
「まぁさくっと回収出来たらいいんだけどね」

コンプレスは終わるまでここにいていいよ、と彼は言った。
相手は背を向けているとはいえ、プロヒーロー。
ハートイーターのお手並み拝見とさせてもらおうか、と彼の背中を見つめた。

草木を分け入って歩いているのに、何故か彼の足音が聞こえない。
彼女に手が届く、そんな距離まで近づいてやっとラグドールが振り返った。
見開かれた瞳。
心喰は焦ることもせずに一瞬だけ彼女に触れ、距離をとった。

「…見えない…!?」
「個性は無効化させてもらったよ。残念ながら、あんたの大事なお仲間も 俺らが喰い殺す」
「っ!?」

無効化。
それが心喰の個性なのだろうか。

「個性がなくなったくらいで、あちきに勝てるとでも!?プロをなめないで!」

攻撃を仕掛けてきたのはラグドールから。

「ダメじゃん、プロヒーロー。相手の個性もわからずに突っ込んじゃ」

心喰は笑って 飛びかかってきた彼女のお腹あたりに何かが突き刺さった。
いや、違う。
彼女が来る場所に 置いておいた そんな風に見えた。
突き刺さったのは短刀。
ラグドールの体から それを引き抜いて 血を払う。

「死なない程度に、殺させてね」

くるりと短刀を掌で回した心喰が今度は攻撃を仕掛けた。

「ほう…」

自然と感嘆の声が溢れた。
生身で戦闘に 慣れてる。
あんな鮮やかに立ち回るのか。
色々な戦闘訓練を受けているのか、将又独学か。
どちらにしても、個性を用いて戦うことが多くなったこのご時世にあそこまで生身で、短刀1つで、ヒーローを追い詰められる人がどれほどいるものか。
無効化の個性はまるで、おまけだ。
彼の強さは あの戦闘スキルだ。

左手の短刀を腕で受け止めた彼女のお腹に右手で叩き込まれたパンチ。
その瞬間吹き出した 赤色。

「ごめんね、武器がこれ1つだなんて。誰も言ってないよ」

右手の義手から突き出た刃。
武器屋からオーダーメイドで作って貰ってるとは聞いてたけど、まさか…仕込みか。
お腹の出血を抑えながら蹲ったラグドールに彼が触れれば、それは人形のように 血の海に倒れた。
どくどくと流れ出す血をナイフで掬った彼が、口のチャックを開いて舐めとる。

「あーぁ、心臓食べらんないの残念。コンプレス、回収していいよ」
「すごいな…びっくりだぜ、」
「エンターテイナーを驚かせられたなら、嬉しいね」

短刀を義手のどこかにしまった彼は ラグドールの体を足で仰向けに転がす。

「今は意識を無効化してるから、回収できるんだけど…あれかなこのままだと死ぬかな」
「血は…出すぎてるねぇ」
「やっぱり?しょうがないね、今止めるからちょっと待ってね」

その場にしゃがみ込んだ彼はどれだっけ、と首を傾げながら ローブのポケットを漁る。

「えっと…?」
「あ、あったこれだ。全部黒にしたの失敗だな…区別つかないや」

手袋をつけかえた彼が傷に手を翳せば、傷がみるみるうちに塞がっていく。
個性は無効化だけではないのか…

「それは、何の個性なんだ?」
「これは錬金術の中の1つ。ヒーローに使うなんて死ぬほど嫌だけど、先生の命令に従う為には仕方ないね」

塞がった傷。
意識のないラグドールをビー玉サイズにしてしまえば「へぇ、すごいね」とそのビー玉を見つめた。

「面白い個性」
「そうか?とりあえず、1つ目達成だな」
「順調、順調」

立ち上がった彼が笑っているみたいに開いていたマスクのチャックを閉める。

「他のメンバーも接触したみたいだね、」
「何でわかる?」

通信機から連絡はない。

「マンダレイのテレパス。彼女からの発信ってことはマグネとスピナーだろうな。他の人ももう接触しててもいい頃だろうし」
「なるほどな」
「次の目標のとこに行こうか」

マスクの向こう、瞳が細められる。

「ラグドールは心喰が持っておくかい?」
「あー、そうだね。先生に渡しに行くのは俺の予定だし」

渡したそれを彼は興味深そうに観察してから、ローブの下のベルトに着いたポーチにしまった。

「さ、爆豪を探そう」

彼はクスクスと笑いながら歩き出す。
風に揺れる黒いローブが、妙に彼らしいと思った。


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