ずるいなぁ、君だけ


「さっきのすげぇ音、何だったんだろうな」
「ね。誰か負けたのかなぁ」

森の中。
爆豪を探して歩いていた時に テレパスを受信し足を止める。

『A組B組総員 プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する。敵の狙いの一つ判明!生徒のかっちゃん!』

頭の中に響くかっちゃんという 緑谷独特の呼び方。
さっきの地鳴りみたいな音と狙いがバレたってとこを考えると…

「やられたな、」
「どうして?」
「爆豪が狙われてるってばれた。誰か負けたか、逃したんだろ。殺すリスト最優先の緑谷出久を」

まぁ、おそらくマスキュラーだろうな。

『かっちゃんはなるべく戦闘を避けて単独では動かないこと』

うーん、どうしようかと呟かながらしゃがみ込む。
ラグドールのいた中間地点にはもう爆豪と轟の名前はなかった。

「一旦状況整理していい?」
「どうぞ」

地面に描いた簡略図。
緑谷が広場でマンダレイにテレパスをお願いしてる。
で、2番目に出発してるのを緑谷も知ってるから 肝試しコースを逆走してくるだろうな。
森の中は通らず、規定のルートで。
で、俺たちが今いるのは 中間地点から ガスを避けて歩いてるから 少し肝試しコースの外側の森を進んでる。

「ムーンフィッシュが指示通り動いてればこの辺にいるよね?」
「そうだね」
「と、なると。ムーンフィッシュが爆豪と交戦してるかもね。殺すリストの轟と、常闇と障子もいるかもな。あとは、緑谷出久もここに合流するね」

で、きっと広場を通らずに宿舎に戻ろうとするだろうから 最短ルートで森の中を突っ切るはず。

「こっち行こう」
「オーケー」
「けど、こいつらと戦うのはやだな。まとまると面倒だよ」

じゃあサクッと盗んじゃうか?とコンプレスが首を傾げる。

「手ぐせが悪いんだ、俺はな」
「いいね。サクッと盗んで 撤退。まぁもしも交戦しそうになったら 俺がどうにかするけど」
「頼りになるな!ハートイーター」

進んだ先、やはり予想通りムーンフィッシュの姿が見えた。
交戦相手は見えないが ピカピカしてるし爆豪と見て間違いないだろう。

「じゃあ盗みに行くか?」
「ちょっと待って」

聞こえてくる木々がなぎ倒される音と唸るような声。

「なんだありゃ」

森の中蠢く黒い生き物。

「ア゛ア゛ア゛暴レ足リンゾォ!!!」

木々と共にムーンフィッシュの刃がへし折られる。
ワォ、とコンプレスは拍手をした。

「すごいな」
「常闇の個性のダークシャドウ。影そのものに意思があるんだよね」
「へぇ、面白いね」

暴走していたのか、爆豪と轟の炎で無理矢理押さえ込まれていた。
爆豪を囲み歩き出す彼らを距離を開けながら追従する。

「盗めるタイミングがあれば盗んじゃっていいよ」
「あの、ダークシャドウも欲しいな」
「んー、まぁいいんじゃない?殺すリストにも入ってないし。お土産が増える分には問題ない」

じゃあお言葉に甘えて、と背後から近づいたコンプレス。

「麗日!?」
「障子ちゃん。皆…!」
「あっしまっ…」

先には麗日と蛙吹もいるようだ。

「人増えたので殺されるのは嫌だからバイバイ」
「待っ!!」
「危ないわ!」

ヒミコちゃんの声。
そして、草木を掻き分けていく音。
戦線から離脱したようだ。

彼らがそれに気をとられていたその瞬間。
2人の姿はビー玉に変わる。
確かに手ぐせはよろしくないようだ。
振り返ったコンプレスがコクリと頷く。

「とりあえず無事でよかった…。そうだ、一緒に来て!僕は今かっちゃんの護衛をしつつ施設に向かってるんだ」
「ん?」
「爆豪ちゃんを護衛?その爆豪ちゃんはどこにいるの?」

え?と彼らが振り返る。
そこに 爆豪の姿はない。

「彼なら俺のマジックで貰っちゃったよ。コイツァヒーロー側にいるべき人材じゃねぇ。もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」
「!?っ返せ!!」

木の上にいるコンプレスに 緑谷が吠える。
両腕はどうやら使い物にはならなそうだ。

「返せ?妙な話だぜ。爆豪くんは誰のモノでもねぇ」
「返せよ!!」
「彼は彼自身のモノだぞ!エゴイストめ!」

どけ!と障子を退かし発動させた氷に触れれば まるでそこには何もなかったかのような静寂。

「なっ!?消えた!?」
「我々はただ凝り固まってしまった価値観に対し、それだけじゃないよと道を示したいだけなんだ。今の子らは価値観に道を選ばされている。ありがとう、心喰」
「お安い御用だよ」

お前は…と轟と緑谷が目を見開いた。

「やぁ、また会ったね」
「ハートイーター…」
「ハートイーターだと!?」

覚えていてくれて嬉しいよとマスクの下で笑う。

「常闇もおまけで貰っておいたよ」
「ムーンフィッシュ…歯刃の男な、アレでも死刑判決控訴棄却されらような生粋の殺人鬼だ。それをああも一方的に蹂躙する暴力性。彼も良いと判断した」
「この野郎!貰うなよ!!」

叫び声に近い緑谷の怒鳴り声。

「何をそんなに怒っているの?彼は君を、苦しめていた人間じゃないか!」
「な…!?」
「ねぇ、いなくなって欲しかったんじゃないの?無個性の木偶の坊のデク」

背負われた緑谷が、体を捩り暴れた緑谷が地面に落ちる。
使えない両腕をぶら下げて、彼はこちらを睨みつけた。

「違う!!」
「何が違うの?傷つけられてきたんじゃないの?いなくていいでしょ、こんなやつなんてさ」
「そんなこと!!思ってない!!」

あーぁ、面白くない。
やっぱり、緑谷は違うんだね。
同じ無個性だったのに。

「そっかぁ、残念。すんごく残念だよ。君は俺と同じだと思ってたのに」
「敵なんかと…一緒にされてたまるかよ!」
「一緒だよ。違う道を選んだだけで」

トンッと彼に歩み寄り 彼に聞こえるくらいの声で呟く。

「だって、俺も君と同じで無個性だもん。ねぇ、オールマイトの個性を引き継いだ気分はどう?」
「な…は!?」
「人口の2割いる無個性の人達の中、1人だけ 未来を保証された個性を貰った気分はどう?自分を見下ろしてた人たちを見下す気分はどう?ずるいなぁ、君だけ」

緑谷から離れろ!と轟が出した氷壁を無効化して 緑谷を見下ろし笑った。

「いいねぇ、その絶望顔。もっと見せて?絶望してるヒーローの心臓ほど、極上なものはないんだからさ!」
「心喰、」
「はーい。無個性なままだったら、俺に喰い殺させる心配もなかったのにねぇ?」

じゃあね、とスキップしそうなくらい軽い足取りで コンプレスの元へ行く。

「悪いね俺ァ逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ!ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか」
「開闢行動隊!目標回収達成だよ。短い間だったけど、これで幕引きね。予定通り、この通信後5分以内に回収地点で落ち合おう」

コンプレスが俺を脇に抱えて地面を蹴る。

「すご、」
「逃げるのは得意なんだよ」

空を飛んでるみたいな気分で、俺はまたクスクスと笑った。
ガスが晴れてるし、彼もまた負けてしまったのだろうか。

「随分楽しそうだな、心喰」
「楽しいよ。アイツを殺せたらもっと楽しかっただろうけど それはまた今度にしておくよ」
「楽しみはとっておくといいさ!」

回収地点にあと少しで着く。
そんな時背後から聞こえてきた声。

「まさか、飛んでくるなんて」
「発想がトんでる」

心喰、と小さな声で呼ばれて、こくりと頷く。
気づけば俺は荼毘の隣に立っていた。
まぁ、ビー玉にされて 彼に投げられたんだろう。

「おかえり、心喰」
「ただいま」

地面に降り立った彼ら。

「知ってるぜこのガキ共!誰だ!?」
「Mr.避けろ」
「!了解」

彼らに向けて放たれた炎を コンプレスはビー玉になり避ける。

「死柄木の殺せリストにあった顔だ!そこの地味ボロ君とおまえ!なかったけどな!」
「チッ」
「熱っつ!」

トゥワイスと轟の戦闘が始まり、反対ではヒミコちゃんと緑谷の戦闘が始まる。

「トガです、出久くん!さっき思ったんですけどもっと血出てたほうがもっとカッコいいよ。出久くん!!」
「はぁ!?」

いてて、と、人の姿に戻ったコンプレスがこちらに歩み寄ってくる。
爆豪は?という荼毘の問いに彼はポケットを漁った。

「今の行為でハッキリした。個性はわからんがさっきおまえが散々見せびらかした右ポケットに入ってたこれが常闇と爆豪だな。エンターテイナー」

障子が手を握りしめてこちらに向ける。

「ほほう!あの短時間でよく…さすが6本腕!まさぐり上手め!」
「アホが…」
「いや待て」

その場に現れたワープゲート。

「合図から5分経ちました。行きますよ、」

みんなそれぞれゲートをくぐっていく。
待て、まだ目標がと踏み出そうとした荼毘の手を掴んだ。

「悪い癖だよ。マジックの基本でね、モノを見せびらかす時ってのは…トリックがある時だぜ?」

空中にいる時に 移動させていたのは見ていた。

「ダミーを用意し右ポケットに入れておいた」
「くっそ!!」
「そんじゃお後がよろしいようで」

ゲートに入ろうとしたコンプレスが受けた光線。
これ、青山の…一体いつからいた!?

口からこぼれた2つのビー玉。
片方は障子にとられたようだが、もう片方は荼毘が握りしめた。

「哀しいなぁ、轟 焦凍」
「荼毘、確認して」
「っだよ、今のレーザー。俺のショウが台無しだ」

ビー玉から現れたのは爆豪。

「うん、問題なし。帰ろうか」
「かっちゃん!!」

飛び込んできそうな緑谷を見て逃げようとした爆豪の首を抑え込む。

「っ!来んな デク」
「賢明な判断だ。じゃあね、緑谷。また会おう」


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