ここからやり直す

壊されたアジトの壁。

「黒霧!ゲート…」
「先制必縛 ウルシ鎖牢」

体に巻きついた木。
それを燃やそうとした荼毘が大人しくしておいた方が身の為だ、と一度見たことのある小さな老人に気絶させられた。

「もう逃げられんぞ 敵連合…何故って!?我々が来た!」
「オールマイト…!あの会見後にまさかタイミング示し合わせて…」
「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ」

外にも大量のヒーローがいるらしい。
予想よりも早かったな。

「怖かったろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ、少年」
「こっ怖くねぇよ!ヨユーだクソッ!」

2人のやりとりを聴きながら弔くんに視線を向ける。

「せっかく色々こねくり回してたのに何そっちから来てくれてんだよ ラスボス…仕方がない。俺たちだけじゃない。そりゃあこっちもだ、黒霧。持って来れるだけ持って来い!」
「すいません死柄木弔…所定の位置にあるはずの脳無が…ない」
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!敵連合よ君らは舐めすぎた。少年の魂を、警察のたゆまぬ捜査を、そして我々の怒りを!!おいたが過ぎたな ここで終わりだ死柄木弔!!」

さっきから、うるさいなという俺の声は妙にその空間に響いた。

「黒霧、俺の実験場に繋いで。格納庫を潰されるのはわかってたから、全部じゃないけど運び出してある」
「なに!?」
「なんだっけ?舐めてるのは、そちらさんじゃない?情報があるのは、そっちだけじゃない」
「さすがは、心喰だ…。ここで終わりだと?ふざけるな…始まったばかりだ。正義だの…平和だの…あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す。その為にフタを取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな、ここからなんだよ」

黒霧、と指示を出した瞬間 聞こえた呻き声と力なく項垂れた黒霧。

「キャアアやだぁもお!!見えなかったわ!何!?殺したの!?」
「中を少々いじり気絶させた。死にはしない」
「さっき言ったろ、おとなしくしといた方が身の為だって。引石健磁、迫圧紘、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁。少ない情報と時間の中おまわりさんが夜なべして素性をつきとめたそうだ。わかるかね?もう逃げ場ァねぇってことよ。なァ死柄木、聞きてぇんだが、お前さんのボスはどこにいる?」

ふざけるな、と呟く弔くんの声が震える。
やばいな、癇癪を起こしてる。

「こんな…あっけなく…ふざけるな…失せろ…消えろ…」
「奴は今どこにいる 死柄木!!」
「お前が!!嫌いだ!!」

黒い液体から溢れてきたのは沢山の脳無だった。
その中には、俺が移動させた子達もいる。
シンリンカムイの木に触れれば全ての拘束が無効化される。

「なっ!?どうやって!!?」

爆豪が黒い液体に飲み込まれていく。

「先……生」
「弔くん!」

振り返った弔くんの目に一瞬、迷いが見えた。
黒い液体は俺たちをも飲み込んでいく。
そして、気づいた時には 先生の目の前にいた。

「また失敗したね、弔。でも、決してめげてはいけないよ。また、やり直せばいい。こうして仲間も取り返した。この子もね…君が大切なコマだと判断したからだ。いくらでもやり直せ。その為に僕がいるんだよ。全ては、君の為にある」

先生はこちらを見てから頷いた。

「やはり、来てるな」
「全て返してもらうぞ、オール・フォー・ワン」
「また僕を殺すか、オールマイト」

時々、思うんだ。
先生には未来が見えているんじゃないかって。

目の前で繰り広げられた一瞬の邂逅でもわかる、俺とはレベルが違いすぎる。
オールマイトを殺したい。
そこに行き着くには、まだ力が足りなすぎる。

「このは逃げろ弔。その子を連れて。黒霧、皆を逃すんだ」

強制的に発動された黒霧のゲート。

「さあ、行け」
「先生は…」
「常に考えろ、弔。君はまだまだ成長出来るんだ」

弔くんが膝をついて、2人の戦いを見つめる。
その彼に駆け寄り、肩を叩いた。

「弔くん、行かなくちゃ」
「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれている間に コマを持ってよ」

皆が爆豪を捕まえようとしている時、見上げた空に見えた切島や緑谷の姿。
爆豪に手を伸ばすもあと僅か届かず爆豪は切島の手を掴み、空を横断していく。

「どこにでも…っ現れやがる…!」
「逃すな!遠距離ある奴は!?」
「あんたらくっついて!」

マグネの個性で弾き飛ばされたコンプレスはMt.レディに邪魔され後を追うことが出来なかった。
もう一度追いかけようとした時、近づいてきた 小さいお爺さんの攻撃を右腕で受け止める。
マグネもコンプレスもスピナーもやられたようで地面に倒れた。

「おいおい、まじかよ」
「お爺さん、無理しちゃだめだよ」

グラントリノ!と彼は呼ばれた。
名前を聞いてやっとわかった、この人はオールマイトの師匠の友達の人。
スピードは早いしパワーもある。
だが、俺に向かってくるのがわかっているのだから 別に難しい話ではない。
彼の蹴りを右手で受け止め、無効化すれば 彼は目を見開いた。

「イレイザーヘッドと同じか…」
「ちょっと違うけどね」

個性が使えなければ、ただのちょっと強い人。

強制発動されたマグネの個性でヒミコちゃんに引き寄せられていく気を失ったメンバーと弔くん。

「待て、ダメだ先生!その身体じゃあんた…ダメだ…俺、まだ!」
「弔。君は戦い続けろ」

弔くんの姿がゲートに飲み込まれて、俺も攻撃を避けながら ゲートへ。

「心喰、弔を…任せたよ」
「先生、」

ゲートの先は、荷物を移動させておいた 俺の実験場の倉庫だった。

「心喰、」
「多分中継してるから、見よう」

薄暗い倉庫の中。
古い蓄電池にコンセントを刺せば、小さな画面が今の状況を伝えた。
弔くんはそれをじっと見つめて、俺は地面に倒れたままの意識のないメンバーに錬成したブランケットをかける。

「なァ、心喰…」
「なぁに」
「俺は、間違ってたか」

彼の言葉に俺はマスクを外して、彼に歩み寄りそっと震える体を抱きしめた。

「間違ってることなんて、1つもなかったよ」
「そう、だよな。そうだよ。俺は間違ってない…」
「間違っているのは、この世の中だ」


激闘の末、負けたのは先生だった。
先生は逮捕された。
オールマイトも力を失った姿をメディアに晒し、次は君だと 誰かを指指した。
それは、間違いなく 緑谷出久だろう。

「ここからやり直すぞ」
「うん」

彼の目に迷いはなかった。






数日後。
雄英の近くに借りた部屋に届いていた学校からの手紙。
それは全寮制導入検討のお知らせというものだった。

「まだ続けんのかよ、学生ごっこ」

荼毘は俺の手元の資料を見ながらそう呟く。

「いい情報源だからね。未だに疑いの目を向けられたこともないし」
「ですが、全寮制ともなれば今まで以上に連絡を取りにくくなりますね」
「どうする?弔くん」

弔くんは少し考えこんでから、そのまま潜入を続けるよう言った。

「一度、捜査の目を眩ませるためにも バラバラに活動しよう。全国に飛んで…同志を増やす」
「…それは、いい案だと思います」

メンバーを見渡せば彼らもコクリと頷いた。

「バーは壊された。当分のアジトはここでいい」
「血生臭いけどな、ここ!居心地いいぜ!」
「それはごめんて。俺の実験場だったから」

定期連絡をしながら、各地に潜伏する。
そして、仲間を増やす。
それが当分の連合の方針となった。

「心喰はそのまま、内部の情報をこっちに回せ。前以上に俺らとの接触は用心したほうがいい。マスクは必須だな」
「…嫌だけど、仕方ないね」
「あと、ハートイーターとしての活動は やめるなよ」

やめれば 雄英の全寮制と繋がる可能性がある、と彼は言った。
確かに雄英の中に内通者がいるだろうって流れにはなっているだろうし、可能性はあるだろう。

「了解。曜日とか場所もバラバラに 動く。黒霧とトゥワイスはその時は手伝いお願いしていい?」
「任せろよ!は!?お断りだ!」
「わかりました」

それぞれ大まかに担当の地域が決まり、ゲートをくぐりバラバラに出発していく。
そして、薄暗い倉庫には俺と弔くん、黒霧が残った。

「随分とあっさり決めましたね、弔」
「先生が捕まった時から、考えてはいた。どこもかしこも、オールマイトがいなくなったとあれば 雑魚が騒ぎ出す。ちょうどいいだろ、タイミング的には」
「そうだね」

全寮制導入のために面談を、というその文面にどうする?と首を傾げる。

「海外赴任している設定にはしてありますよ。入学時から」
「じゃあ、いっか。俺だけで」
「怪しまれたら、その辺のやつの血とって トガにやらせろ」

いや、それの方が怪しくない?と笑えば まぁ確かにと彼は笑った。
もっと弔くんは荒れるかと思っていたけど、逆によい影響だったのか 冷静だ。
先生のことだ、これも想定済みなんだろう。

「心喰、武器屋はどうする?」
「あー繋いで行ってたから場所、わかんない」
「だよな。そんなに、遠くはないが…近くもないからな…」

頻繁にゲートを繋げばリスクも生まれるだろうし…

「店の場所、教えるか」
「あまりあの辺には行かせたくないんですけどね…」
「まぁな…」


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