仮免取得試験

そして、迎えたヒーロー仮免取得試験当日。

「この試験に合格し仮免許を取得できればお前らタマゴは晴れてヒヨっ子。セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
「っしゃあ なってやろうぜヒヨっ子によォ!」
「いつもの一発決めて行こーぜ!」

切島がせーの、と声をかけ Plus Ultraと全員が叫ぶ中、聞き慣れない声と知らない男。

「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ。イナサ」
「ああ、しまった。どうも大変失礼致しましたァ!」

地面に叩きつけられた頭。
微かに香る血の匂いに、昨日の夜 ハートイーターとして久々に活動したことを思い出す。

「東の雄英 西の士傑」
「数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵するほどの難関校…士傑高校!」

雄英意外にもそんな学校があったのか。

「一度言ってみたかったっス!プルスウルトラ!自分雄英高校大好きっす!」

あ、血だと呟いた女の人がこちらを見てひらりと手を振る。
知り合い?いや、知るはずがない。
行くぞ、と糸目の男が言って歩き出す彼ら。

「夜嵐イナサ」

イレイザーヘッドが言うには、彼は雄英の推薦入試を一位通過したのにも関わらず 入学を辞退したらしい。

「なぁ、霧矢。さっきの女の子知り合い?手振られてなかった?」

隣にいた瀬呂に記憶にない、と答えればひでぇなと彼が笑う。
その後も別の学校の人たちに絡まれた。
コスチュームに着替えて 更衣室から出ればあの女の人がひらりとまた手を振った。
そして、手招きをして 廊下の奥へ進んでいく。
一番最初に着替え終わったし、後に続く人もいないからいいかと彼女を追いかければ 廊下の死角で足を止めた。

「で?どちら様ですか?」
「心喰くん!私だよ、私!トガヒミコ!」

知らない女の姿のままニィと笑った彼女。

「ヒミコちゃん?え、ちょっ 何してんの!?」
「出久くんと心喰くんに会いたくて!」
「…弔くんは知ってるの?」

知らないよ、と彼女は笑う。
彼女らしいな、と思う反面なんて無茶なことをするんだとも思った。

「…目的は?ただ会いたいだけ?」
「まさか!出久くんの血が欲しいです!」
「だと思った…」

ここまで来てしまっているのだし、別に帰れと言う気はないけれど。

「心喰くんはやっぱり素顔の方が素敵です」
「ありがとう」
「一緒にいたら怪しまれちゃいますよね?別行動するつもりではいるので!怒らないでください!」

怒ってないよ、と彼女の頭を撫でてやれば嬉しそうに頬を緩めた。

「緑谷とも別行動しとくから。ここまで来たんだし、ちゃんと血はとって帰ってね?あと、弔くんにはちゃんと報告して怒られて」
「はーい」
「まぁ、最近みんなに会えてなくて寂しかったし 会えて嬉しいよ」

そう素直に言葉にすれば彼女は嬉しそうに笑った。
知らない人の姿なのにヒミコちゃんだと分かれば確かに笑い方とかに面影がある。

「あれ?霧矢いなくね?」
「先行っちゃったとか?」
「団体行動しろって言われてるし、それはねぇだろ」

みんなの着替えも終わったようだ。
戻るよ、とヒミコちゃんに伝えればまたねと彼女は手を振った。

「あ、いた!」
「ごめん、トイレ行ってた」

みんな随分とコスチュームが変わっているな。
特訓でどこまで変わったのか、知っておいた方が良さそうだな。

説明会の会場にすし詰め状態の受験生たち。
ここにいる奴ら全員ヒーローを目指していると考えると吐き気がする。
できることなら、この場を爆発させたいところ。
ヒーロー公安委員会の人が眠たそうに説明を始める。

「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に勝ち抜けの演習を行ってもらいます。現代はヒーロー飽和社会と言われステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」

長々と話す彼の話は俺の耳には引っかかりもせず、通り過ぎていく。

「条件達成者先着100名を通過とします」

そんな言葉で騒がしくなった会場。
やべぇな、と隣の瀬呂も呟く。

「何がやばいんだよ」
「え、」
「受験は誰にだって出来るだろ。この1540人の中に 使える奴がそんなにいるとは思えない」

何を根拠に、と言う瀬呂に首を傾げた。

「雄英の入試の時もそうだった。ただ個性を持っただけの、ヒーローなんか目指すべきじゃねぇ奴らの群れ。そいつらが、他校に流れただけだろ」
「そりゃ、そーかもしんねぇけど」
「逆に何にそこまで不安になってんのかわかんないな」

何のために あんな特訓させられたと思っているんだと言えばそりゃそうかと 彼は少しだけ緊張が解けたのか笑った。

「クソみたいな奴らが合格するくらいなら、お前が合格しろよ。瀬呂」
「クソよりマシ、みたいな言い方悲しい」

展開した会場。
高層ビル群や岩山、森など様々なフィールドが広がる。

合格者は100名。
ルールは6つのボールを持ち、敵のターゲットの3つ目にあてることで倒した判定。
倒すのは 2人でいいらしいが、そんな退屈なことするわけないよね。
折角の合法的な遊び場だ。
遊び尽くすに決まっている。

「先着で合格なら同校での潰し合いはない。むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋。みんな、あまり離れずひとかたまりで動こう」

状況の判断をした緑谷が言う。
爆豪と轟がそこから離脱、爆豪を追って切島と上鳴も離れていく。

「悪いけど俺も一人で行かせてもらう」
「霧矢くんまで!?」
「緑谷との連携なんて、正直御免だね。期末でもこの間の件でも、お前への不信感しか俺にはない」

わざわざ喧嘩腰になるなよ、と仲裁に入ろうとした瀬呂にじゃあまた後でと伝えて、滝のあるエリアに向かった。





「一人でいるなんて、不用心なんじゃねぇか 雄英さんよ」
「…チンピラみたいな絡み方してくるね」

開始の合図から間も無く、自分の周りを取り囲んだ他校の生徒たち。

「地面と炎を操るやるだな」
「爆発もだ」

そんな会話が聞こえてくるし、相当研究しているんだろう。
体育祭での俺たちを。
ただ別に、だからどうしたと思うわけだ。

「俺から行くぞ!!」
「援護する」

両手を合わせて、地面につければ起こった爆発。
そして、割れた地面に流れ込む水。
滝から水が落ちれば落ちるほど、足元の水かさは増していく。

「水の個性のフィールド広げてるって気づかないのかしら」

水に擬態していたのか背後に現れた女の人。
俺のマトにボールを当てようとする彼女に触れて、入れたばかりの水の錬成陣を発動させる。
青白い光と共に氷漬けになった彼女と足元に流れ込んでいた水。

「…相手の手の内を知らないのに、無闇に近づいちゃダメだよ」

氷!?何で、と氷漬けにされた対戦相手たちを眺めながら クスクスと笑う。

「どうして、自分が相手の全てを知ってると思ったの?人の個性を決めつけちゃダメだよ。折角の数の有利を有効的に使うこともしないで、1人だからって気ぃ抜いた?」

120名の脱落と1人の合格者を伝えるアナウンス。

「とりあえず、ボールは貰うね」

水を操りボールを集めて、一つずつ破壊していく。
彼らの目に映る絶望に マスクの下で表情を緩める。

「油断したな!!」

そんな声と共に上から現れた人影。

「…そっちがね」

ぱちんと弾いた指。
空に浮かぶ彼を炎が包む。
地面に落ちた彼にボールを当てて、最後の一個のボールを当てる前に 彼のボールを奪い 放り投げた。

「別に、ほら。みんなに恨みがあるわけでもないからさ。少しだけ残しておいてあげる」

合格を伝えるアナウンスを聞きながらニィと表情を緩めた。
解いた氷と残された6個のボール。
そこに群がっていく彼らを見ながら クスクスと笑う。

「…無様に奪い合ってんな。けどまぁ、本当に…」

口を手で隠し頬を緩める。

「全員喰い殺してやりたい」





通過者の控え室に行けばいたのは夜嵐イナサだった。
交わった視線をすぐに逸らして 使っていたものを返却場所に戻す。

「夜嵐イナサっス!名前を聞いても!?」
「…霧矢心」
「1年生?」

そうだよ、と答えれば一緒っすねと彼は笑った。

「霧矢は好きなヒーローとかいますか!?」
「ヒーロー…強いて言えば うちの担任かな。イレイザーヘッド」
「そうなんすね!」

俺は、と彼は聞いてもいないのに好きなヒーローを述べていく。

「けど、エンデヴァーは 嫌いっす。雄英にはエンデヴァーの息子がいるっすよね?」
「轟のこと?」
「どんな奴っすか?」

どんな奴。
関わったことも殆どないし、興味もなかったな。
そんなに勘に触るタイプでもなかったし。

「知りたいなら自分で声かければ?」

俺の言葉に彼の瞳に影が差す。
恨み辛みの類か。
入学した頃の轟のような目を彼はしていた。



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