何の救いを待てばいい?

鳴り響いた警報。

『敵による大規模破壊が発生!規模は市内全域。建物破壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う!』

また展開した部屋。

『一人でも多くの命を救い出すこと!』

崩壊した建物と砂煙。
一緒に動き出すクラスメイト達から静かな離れ、水場へ向かう。
崩れた滝の岩場。
俺が壊したのも相まって、酷い有様だ。

「水の中に救助者発見!中に入るか?」
「いや、危ないだろ。この距離から動かさず救助を…」

自分がやります、と手を上げれば視線がこちらに集まる。

「君、雄英の…?」
「霧矢です。水を操れます。水中の怪我人の救助は自分が」
「わかった。対応はこっちがしよう」
「ありがとうございます」

水に手を触れて、水の錬成陣を発動させる。
岩場に捕まっていた人を水の手で地上に移動させれば 周りの人がおぉと声を上げる。

「あそこと、こっちにも。水の中にも要救助者が!」
「了解」

体の冷えが、と濡れた要救助者に着ているコートをかける姿を見て、燃やせる物を集めてと声をかける。

「なんでもいいのか?」
「炎を保てれば」

木を操る個性なのか、周囲の木が集まってくる。

「これくらいでいいか?」
「ありがとうございます」

水から離した手を服で拭き取り、別の手袋をつける。
パチン、と弾いた指が起こした炎が木に燃え移る。

「便利な個性だな」
「そうでもないですよ」
「霧矢くん!」

振り返れば蛙吹、轟、動く洋服は恐らく葉隠だろう。
緑谷たちと行ったと思ったが、分断したのか。

「水中の救助手伝うわ」
「ありがとう。2人は怪我人の対応を。救護所に頼む」
「わかった」

彼が来てから少しして、聞こえてきた放送。
そして、爆発音。

「敵だ…」
「救護所のすぐ前!」
「ここの救助もまだだけど、あっちを見て見ぬフリはできないわね」

救助者はまだまだいるが、放っておくわけにもいかないか。

「俺がいく」
「轟…ま、適材適所だな。あっちは任せる。終わったら加勢する」

コクリと頷き走っていく轟の背中を目で追って、すぐに逸らす。

「ねぇ、霧矢ちゃん」
「なに?」
「どうして単独行動を?」

救助しながら尋ねてきた彼女に首を傾げた。

「大人数で動くメリットがない。それに、折角の本格的な訓練だ。知らない個性の人と 組んだ方が将来の為になる」
「……それは、一理あるわね」
「無駄話は後でいいか?さっさと終わらせて追いかける」





水難事故地域の救助が終了して、駆けつけた先。
ギャングオルカとその手下達がまだ大勢いた。
先に行った轟たちは何をしていたのか、と考えつつ両手を地面につけた。

「ヒーロー相手にやれるなんて、楽しいじゃん」

ギャングオルカのサイドキックは過去に何人か喰ったことあったな。
それ以来、彼らがハートイーター捜索に注力していたことを知っている。
まぁ、まさかそれが ヒーロー志望の学生の中にいるとは思わないだろう。

「霧矢ちゃん!」
「はいよ」

保護色で地面に同化していた彼女がなぎ倒したギャングオルカの手下たちを地面を操り捕獲。
そして、毛を操るけむくじゃらの士傑の生徒が捕まえた敵もまとめて地面に括りつけた。

「ありがとう」
「いえ、」

あの炎の中にギャングオルカがいるのか。
地面を操り、その炎の方へ自分の体を飛ばす。

「で?次は?」

炎の壁が破られ、水に濡れたギャングオルカが姿を現わした。
ニィ、と自然と口が緩む。

「二人から離れてください!!」

緑谷が直接攻撃に行くのと同じタイミングで、ギャングオルカの身体に触れ水の錬成陣を発動させた。

「霧矢くん!?」
「邪魔、緑谷」
「え、ちょ!?」

彼の体を濡らす水が真っ白な水蒸気に変わる。

「蒸発させたのか!?」
「乾燥には、弱いんでしょ?」

笑いながら指を弾いた瞬間、ビーッと大きな音。

『えー只今をもちまして配置された全ての救助者が危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程終了となります』
「……終わり、」

炎がギャングオルカに届くことはなく、内心舌打ちを零し ギャングオルカから離れる。

「ちょ、待ってよ!霧矢くん!」

『集計の後この場で合否の発表を行います』

流れてきた放送。
地面に転がる夜嵐に歩み寄って大丈夫かと尋ねれば彼は困った顔をして笑った。

「これ、セメント?」
「あ、そうっス。多分」

それに手を触れ、分解してやれば彼は目を瞬かせた。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして。怪我してるなら、医務室行きな」

同じように轟のも分解して更衣室に向かおうとすれば、緑谷が俺の腕を掴んだ。

「邪魔ってなに!?2人で協力してやった方が、よかったはずだ。二次試験始まってすぐに単独行動してるし 」
「言ったじゃん。俺、お前には不信感しかないんだよ」

彼は俺の言葉で押し黙る。

「緑谷はいつも自分勝手だ。自分が守りたいものの為に一直線。周りが見えてない。守りたいもののために、周りが犠牲なるかもしれないことに 気づいてない。期末試験の時、俺がお前らの道連れに赤点になることは考えた?爆豪救出で我慢したクラスメイトが退学になるかもしれないって考えた?」
「そ、れは…」
「今は誰も犠牲になってないから、いいけど。これからも繰り返すの?それ。いつか、きっと…手遅れになるよ」

マスクを外して、彼にわかるようにニコリと笑ってやる。

「そんなこと、させない。救ってみせるよ、皆」
「全てを救うことなんて、不可能だよ。そんなヒーロー、この世にはいない」
「そ、そんなことないよ!オールマイトは、皆を救ってみせたじゃないか!」

じゃあ、なんで?と首を傾げる。

「何で、神野事件では死傷者が出たんだろうね?」
「っ!?」
「手の届く範囲は、全員救うだっけ?ヒーローがみんな、そーやって手の届く範囲を救ったとしてさ…誰の手にも届かなかったやつはどうすればいい?何の救いを、待てばいい?ねぇ、緑谷」

何も言い返してこない彼に、俺は右腕を持ち上げて ゆらゆらと揺らす。

「…救いを待つ側に、なったことないから お前はそうなんだよ。犠牲にされる側の人間の気持ちを、知らないから。教えてあげる。錬金術のさ、基本は等価交換なんだよ」
「等価、交換…」
「何かを犠牲にしなければ、何も生み出せない。俺の右腕は、一体何の犠牲になったんだろうね?」

ただ個性を貰っただけの少年だったら良かった。
無個性な少年だったら、良かった。
けど、君はもう目障りなんだよ。
自分の個性を ひけらかす そっち側の人間。
弔くんの邪魔は、させない。
イライラしながら更衣室に向かっていた俺の隣に 声もかけずに ヒミコちゃんが並ぶ。

「イライラしてるの、心喰くん」
「そうだね」
「弔くんに会いに行きなよ。寂しいんだよ、きっと」

彼女はそう言って隣でクスクスと笑う。

「そうかもしれない。…血は?」
「ばっちり」
「よかった」

バレないように帰るんだよ、と言えば彼女は小さく手を振って俺を追い越していった。

「またね、心喰くん」
「弔くんにちゃんと連絡するんだよ?」
「わかってるよ!バイバイ!」

制服に着替えてから 発表された結果。
前にある大きな画面には 霧矢心と俺の名前も書かれていた。
雄英で落ちたのは轟と爆豪の2人らしい。
直接手渡された 採点の詳細。
最初と最後の減点事項に、単独行動をしたこと、強力な敵との戦闘において仲間との協力が出来ていない と書かれていた。

「霧矢!何点!?」
「89点」
「すご!俺、84!」

馬鹿でも優秀じゃん、と笑えば瀬呂は目を瞬かせてから、笑った。

「褒めてんの?」
「褒めてる褒めてる。クソよりマシだしな」
「それは凹む言い方ー」





タルタロス
分厚いガラスの向こう側で、AFOは飄々とした態度を貫き通した。

「今後君は人を救う事叶わず自身が原因で増加する敵どもを指を咥え眺めるしかできず、無力さに打ちひしがれながら余生を過ごすと思うんだが。教えてくれないか。どんな気分なんだ?」

ガタッと音をさせ立ち上がった私に 離れてくださいと放送が流れる。

「心を言い当てられると人ってのはよく怒る!残念だなァここじゃ僕を殴れない」
「貴様だけが…全て分かっていると思うな。貴様の考えはよく分かっている…お師匠の血縁である死柄木に私…あるいは私と少年を殺させる。それが筋書きだな」
「で?」

お師匠の血縁者。
敵であるはずだ、犯罪者であるはずだ だが 躊躇いは生まれる。
それを、グラントリノに言い当てられた。

「私は死なないぞ。死柄木に私は殺させない。私は殺されないぞ!貴様の思い描く未来にはならない!」
「ケジメをつけに来たって…それを言いに来たのか?」
「貴様の未来は…私が砕く…!何度でもな。貴様こそここで指を咥え…余生を過ごせ」

私の言葉に彼は笑った。

「知っているかい?ハートイーターは僕の描く未来の中にはいない」
「は?」
「彼は私の予想を遥かに上回って、覆していくからね。彼は彼の描く未来でしか、生きられない。」

時間です、と背後の扉が開く。

「もしも君が思う僕が思い描く未来が来ないのなら、君の想像を絶するような未来をハートイーターが作るさ。彼は、力を得る。これから、もっと」
「…どういう意味だ、」
「なぁ、オールマイト」

顔も見えないのに、奴が笑った気がした。

「どうして彼を救ってあげなかったんだい?」




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