3人の少年

オールマイトとデクの秘密を知った。
個性の譲渡。
引き継がれてきたオールマイトの力。
信じられないけど、信じるしかない現実だった。
だが、そこで引っかかった。

「なぁ、」
「どうしたんだい?爆豪少年」
「…個性の譲渡が、本当に可能なら。霧矢も個性を譲渡されたって おかしくねぇよな」

デクがそんなはずない、と否定するがその表情は険しい。
どういうことだい?と首を傾げるオールマイトに あの写真を見せた。

「…これ、霧矢に見えねぇか」
「確かに、似てはいるけど」
「同じ幼稚園の奴なんだ。…体育祭の後ハートイーターに殺害されたヒーロー夫婦の息子で、幼稚園卒園後から行方不明になってる。そんで、無個性だった奴」

俺はコイツが霧矢だと思ってる、と言った。
俺だけが知る、彼の狂気。
個性に対する執着とでもいうのか、アイツは少し俺たちとは違う。

「待ってね。もし、もしもだよ?もしそうだとしたら、霧矢少年は誰から個性を?」
「…それは、知らねぇ」
「……私の知る限り個性の譲渡が出来るのは我々か、AFOだけだよ。霧矢少年がAFOと繋がってるなんて、そんなはずないよ。霧矢少年には両親もちゃんといるし」

そりゃ名前も変わってるんだ。
血の繋がりのない親がいたっておかしくない。
俺は証拠がなきゃ、コイツが霧矢でないとは信じられない。
デクもオールマイトも 違うだろうって言うけど。

「……わかった。塚内くんに頼んで 行方不明のこの少年のことを調べてくるよ。証拠があれば、爆豪少年も納得するよね?」
「あぁ、」
「けど、そうか。無個性の少年…行方不明になってた…」

オールマイトが俯いて まさかな、と小さな声で呟く。

「まさかなって、なんだよ」
「何か思い当たることでも、ありましたか?」
「いや、大丈夫だよ。わかったら、伝えるから。…相澤くんも怒ってるだろうし、行くよ」





『待ってくれ、オールマイト』

塚内くんに電話で伝えた爆豪少年から聞いた話。

『霧矢くんがAFOと繋がっていると思っているのかい?』
「いや、そこは違うと思う。思いたい。だけど、その少年がハートイーターである可能性はあってもおかしくないんじゃないかと 思うんだ」
『なるほどな。ちょっと待ってくれ。えっと…あぁ、これだろうな』


当時5歳の×××は両親と外出中 目を離した隙に行方不明に。
ヒーロー夫婦の子供で 怨恨からくる誘拐と考えられたが、身代金要求等はなし。
世間に不安を与えてはいけないという2人の配慮で捜査は極秘に行われた。

塚内くんの声を聞きながら、紙にメモを書いていく。
年齢は霧矢少年に当てはまるか。

『死亡認定を受け、捜査が終了。×××は当時 非常に大人しい子供だったみたいだね。住んでいたところは緑谷くんたちと近い。個性についての記載はないけど、たしかに写真は霧矢くんに似ているね。右腕はあるようだけど』
「発現が遅かったのか、無個性だったのか」
『今、×××の詳細を送ったけど。霧矢くんの情報と比べてどう?』

送られてきたデータと彼の入学時の登録情報を見比べる。

「血液型も違うね。5歳当時、霧矢少年は個性発現の証書を貰ってる」
『捜査記録の書き換えは出来ないし、個性の証書も偽造はできない。本来であれば、これは霧矢くんがこの少年じゃないっていう証拠になるんじゃないかな?』
「…そう、だね」

この両親は確か海外にいるんだっけ。
面談の時は来られなかったと聞いたが、電話はあったはず。

『不安なら霧矢くんの戸籍を調べようか?もし、この少年なのだとしたら養子縁組の記録があるはずだ』
「…あぁ、頼んでもいいかい?」
『雄英に奴の手下が潜入するなんて、無いと思うけどな。最初の潜入の時も 霧矢くんは敵と戦闘しているし。この間の合宿所への襲撃の時も霧矢くんは他の生徒といただろ?他の生徒からも確認がとれているし。霧矢くんがAFOと繋がっていたとしたら、彼を危険に晒すか?』

確かに、そうだ。
けど、彼らの仲間に 人を作る個性の奴がいたはず。
もしそれが どちらかになりすましていたら?

×××が霧矢少年かどうかは、戸籍で恐らく証明できる。
では、霧矢少年がハートイーターかどうかはどう証明する?
×××がハートイーターかはどう証明する?

「…歯型、」
『ハートイーターのかい?』
「霧矢少年のものと照合出来ないか?×××のものでも構わないけど」

歯型の提出はされてない、と塚内くんが言う。
それに、歯の生え変わりもあるから 違ってくるだろうとも。

『けど、霧矢くんの歯型となら照合できるだろうね。手に入れば』
「…わかった」
『なぁ、オールマイト。疑っているわけじゃないんだろ?なんでわざわざ?』

疑っているわけではない。
けれど爆豪少年の必死さが、気になっているんだ。
そして、ハートイーターが 脳無の倉庫を壊されることを知っていたことも気がかりだった。

「信じたいから 証明して欲しいんだ」
『…わかった』

素直に歯型なんか、くれるだろうか。
こんなことを言えば疑われていると思うのではないか。

「けど、おかしいな」
「何が?」
「この×××。当時 DNAの提出がされてないんだ。これじゃ、もし見つかっても鑑定のしようがない」

それは確かにおかしい。

「誰かが意図的に隠した?」
「隠したって、誰が…」
「ハートイーター、」

まさか。
だが、もしそうなら?

「別の資料も確認しておく。」
「すまないね。ありがとう」





朝。
学校が始まる前に、オールマイトに呼び止められた。

「おはようございます」
「おはよう、霧矢少年」
「珍しいですね、緑谷じゃなく俺に話しかけるなんて」

精一杯の皮肉に彼は苦笑を零した。

「霧矢少年は×××という少年を知っているかい?」
「いえ、知らないですけど。その子が、どうかしましたか?」
「…行方不明になっている少年でね。ハートイーターの可能性があると話が出てる」

何故そんなことを俺に?と尋ねれば 彼は口を閉ざし 目を伏せた。

「…この少年が君によく、似ているんだ。誘拐されて 記憶を失っていたとしても…おかしくはない。右腕は、いつ どうやって失った?両親がいるのに、そんなこと…普通は、ないだろう?」
「オールマイトは 俺がその子で。俺がハートイーターだと、疑ってるってことで あってます?」

返事はなかった。
どこから情報が流れたのか。
まぁ、ハートイーターの被害者を洗い直して、行方不明の俺に行き着いたと考えるのが妥当か。
幼少期の写真とはいえ、面影はあったしなぁ。
捜査資料のデータは前に黒霧に書き換えを頼んでいるけど、それがバレたか、それかカマをかけているのか。

「育児放棄ですよ」
「え?」
「俺の両親が研究者なのはご存知ですか?」

あぁ、と彼は頷いた。
まぁけど 元々 こうなる可能性も考慮していた。
黒霧とも 戸籍を売ってまで研究を続ける俺の両親として扱われる彼らとも 話は済ましてある。

「研究熱心で、いつも放っておかれました。手料理なんて、食べたこともない。ご飯は毎月届く冷凍食品を細々とチンしてました。…まだ幼稚園に入る前だったかな。皿が割れて 右腕が切ったんです。けど、手当の方法なんて知るはずもなく。家に訪れる人も月一しかいない。とりあえず、タオルで切れたとこを抑えて どうしようって泣いてました」

血は止まったけど、適切な処理なんて出来るはずもなくて。
しかも、怪我をしたのは夏の夜。
その時はエアコンの入れ方すらも 俺は知らなかったから。
傷を抱えて、汗だくで眠ってた。

「…この傷に気づいてくれたのは 2ヶ月後に訪れた配達員でした。傷口が化膿して 壊死した腕を平然とぶら下げる俺を見てギョッとしてました。そこから、病院に連れていかれて スパンッと」

腕を切るモーションをしてやれば 彼は痛々しそうに顔をしかめた。

「誰も助けてなんて、くれなかったですよ。助けを求める相手がいることすら、俺は知らなかった。だから、ヒーローなんてものには幻想を抱いちゃいない。だってそうでしょ?全てを助けてくれるのがヒーローなら、俺の右腕はなくならずに済んだ」
「…すまない、」
「まぁ、過ぎた話です。両親もそれのせいで一度研究所をクビになって、罰を受けました。けど今更両親との過ごし方も分からなくて 研究者に戻って欲しいと伝えましたけどね」

で、あと何が聞きたいです?と首を傾げる。
だが また返事はなかった。
めんどくさい。
疑いたくないとか思っているのか、そういう所付け入る隙だよなぁなんて 思ったり。
けど今は大人しくしていないと弔くんに怒られちゃう。

「じゃあ、歯型とかいります?疑いを晴らすならそれが一番手っ取り早いですよね?俺、ハートイーターでもその×××でもないんで。必要ならなんでも出しますよ。DNAサンプルでも歯型でも」

一度疑いを晴らして仕舞えばこっちのものだ。
今は協力的に動いた方が得策。

「…申し訳ないが、お願いしてもいいかい?」
「はい、別に」

結局、提供したDNAサンプルと歯型
申し訳ない、と告げる彼に別に構わないです、と伝え、教室に向かう途中でトイレに入る。

「別に、構わないさ」

鏡の中の自分が笑い、口の中にはめ込んでいた器具を外す。
先生の逮捕後から、いつかこんな日が来るかもしれないと思っていたから学校へ行くときに着けていた歯のカバー。
DNAサンプルとして提供した髪の毛だって、錬成して弄ったものだった。

「敵をナメるなよ、糞ヒーロー共」

たどり着かせる気なんて毛頭ない。
せいぜい騙されて、踊ってくれ。



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