仰せのままに

試験を終えて 戻ってきてから1週間。
彼は 毎日のように図書館に出向き 朝から晩まで文献を読み漁っていた。
先生が授けた個性がそれほどまでに彼には合っていたのだろう。

「ただいまー」

大きな袋をぶら下げて帰ってきた心喰がひらひらと手紙を振る。

「ユウエイから来てたよ」
「あぁ、」

バーカウンターに手紙を放り投げて、彼は俺の隣に腰掛ける。

「それより、なんだその大荷物」
「必要なもの買い漁ってきたの。お金なくなっちゃったよ」

高いんだもんと文句を言いながら、彼は雑に手紙を開封していく。
そして 投影されたオールマイトの姿に 心喰も俺も眉をしかめた。

「やっぱり、オールマイトが講師になるってのは本当みたいだね」
「そうだな」

聞いてもいない話をペラペラと喋る彼が 霧矢心という 新しい名前を読んだ。

『筆記も合格!そして、実技は70ポイント!文句なしの合格だ!』

その結果の後もペラペラと喋っている彼の映像を止めて、同封されていた手紙を開く。

「優秀だな、お前は」

弔くんの手が俺の頭を撫でた。

「弔くんのためだよ」

微笑んで、ご褒美くれる?と首を傾げれば 何がいい?と彼は笑った。

「冗談だよ。何もいらない。弔くんには返しきれない恩があるから」
「…そうか」
「あ、けど。ひとつだけ」

オールマイトの映像を投影した機械を彼の手に握らせる。
壊して?と首を傾げれば彼は笑って それを壊してくれた。

「満足したか?」
「うん、満足」

崩れ落ちたそれを足で踏み潰して、床に置いていた袋を持ち上げた。

「ちょっと作業してくるね」





「お前、なにそれ…」

作業をすると部屋に篭ってから数時間。
武器屋に頼んでいた物を取りに行って 戻ってきてもまだ彼は部屋の中にいるようだった。
しかも、部屋からは聞いたことのないような機械音。
不思議に思って ドアを開けば綺麗だった彼の左腕に無数の黒い線が描かれていた。
俺の言葉に振り返った彼は笑う。

「錬成陣だよ。いちいち地面に書いたりするの面倒で、どうにかならないかなって 思ってたんだよね」

あの大きな袋はタトゥーを入れるための機械だったようで。
彼のいう錬成陣が刻まれた義手が見たことのないその機械を手にしていた。

「義手にも、入れたのか」
「こっちは 彫って インクを流し込んであるよ」
「…わざわざ体を傷つけなくても、、」

俺の言葉に彼は笑う。

「これは 傷じゃない。武器だよ」
「…痛みは?」
「無効化してるから平気」

そういう使い方するな、と内心思いつつ。
彼がここまでするのは俺たちのためだとわかっているから なにも言えなかった。

「心喰。これ、お前に」
「え、なに?」

地面に座りこちらを見上げる彼の前に 先ほど受け取ってきた箱を差し出し 開いた。
そこには 2つのピアス。
目をぱちくりとさせた彼はそれと俺を交互に見る。

「ピアス?穴空いてないよ、俺」
「開ければいい。これ、GPSと小型カメラになってるから」
「あぁ、なるほどね」

納得したのか 彼は髪を耳にかけた。

「弔くんがつけてよ。無効化してるからそのまんま刺して」

全ての指が触れないように、そっと彼の耳に手を伸ばす。
目を閉じてその瞬間を待つ彼に 少しだけ手が震えた。

「心喰」
「んー?」
「嫌なことさせて、ごめんね」

目を閉じたまま彼はクスクスと笑った。

「弔くんが拾ってくれた命だよ。好きに使ってくれればいい」
「…そうか、」
「俺は一度 死んだ人間だから」

大丈夫だよ、と 彼は笑った。
閉じていた目を彼が開いて至近距離で交わった視線。
全てを飲み込む彼の瞳に俺が映った。

「弔くんが死ねというのなら、俺は迷わずに死ぬよ。それくらい、弔くんに恩を感じてる」

冷たい彼の手が俺の顔を隠す掌を取って、そして頬に触れた。

「だから、俺に命令して。どうしてほしい?」
「オールマイトを殺すぞ。一緒に、」
「仰せのままに」



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