要観察対象


「どう?制服ってこんなんでいいの?」
「お似合いですよ。少し、ネクタイが曲がってますが」
「あれ、ありがとう」

ネクタイを直してくれた黒霧ににこりと笑って 弔くんの前へ。

「どう?」
「似合わん」
「え、やっぱり!?俺もちょっと思ってた!」

初めて着るし。
堅苦しいし。
てかまず、なんでみんな同じ服着るんだろう?

「普段のお前の方が よっぽどいいよ」

弔くんはそう言って 笑った。
彼の手が頭を撫で、帰ったらすぐに脱げよと告げる。
似合う似合わないじゃなくて、気に入らないのかな。
もしそうなら、なんか少し嬉しい。

「偽装で借りた部屋に着いたら連絡を。迎えに行きます」
「ありがと、黒霧。じゃ、行ってくる」

黒霧のワープで雄英の近くに借りた部屋へ。
そこから 徒歩で学校へ向かう。

大きな門をくぐり、割り当てられた教室に向かった。
中に入れば 10人くらいの生徒が席に座っていた。
誰かと言葉を交わすこともせず、教室の1番後ろの端の席に座った。
そんな俺の後をわざわざ追いかけてきて、手を差し出してきた眼鏡。

「俺は私立聡明中学出身 飯田天哉だ」

聞いてもいないのに勝手に自己紹介を始めた彼を一瞥し、視線を逸らす。

「ムシ!?こちらが名乗ったのだから、君も名乗るのが義理ではないか!?」
「…別に聞いてないし。名前を知りたいなら 名簿でも見たら?」

衝撃を受けた って顔をしてたが彼はまた別の人に声をかけにいく。
よくやるなぁ、と思いながらそれを眺めていれば 少し騒がしくなっていた教室を静かにさせた声。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

寝袋に包まれた男の言葉に俺は口角をあげた。
なるほどね。
黒霧からもらったデータを見ておいてよかった。

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

抹消ヒーロー イレイザーヘッド
担任としては 少し厄介な男な気がするな。

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」





退学処分を賭け、個性把握の為の個性使用可の体力テストをすることになった。
個性の範囲内なら何をしてもいいらしい。
他の人のやり方を眺めながら、どうやっていこうかと首を傾げる。

「次、霧矢。…霧矢!!次はお前だ!!」
「あ、俺か」
「呼んだら一回で来い」

霧矢心。
新しく与えられた名前には 正直まだ慣れてない。

「すいません、」

一言謝って、スタートラインに立つ。
早くスタートの体勢になれ、というイレイザーヘッドの言葉を聞き流しつつ足で地面に書いた錬成陣。
両手を合わせてからそこに両手をついた。
スタートの合図と共に地面で自分を押し上げて、ゴールの向こうへ運ぶ。

「3秒34」

聞こえた数字にまぁまぁか、と内心思いながら 地面を元に戻した。
刺さる視線にまた、嫌な気持ちになる。
こうやって目立つのは 好きじゃない。

「すごいな。どういう原理?」
「説明してもわかんないよ多分」

話しかけてきた黒髪の人にそう返せば 彼は目を瞬かせてから笑った。

「地面に書いてたやつが、ギミック?」
「…なんでわざわざ手の内晒さなきゃいけないの?」
「冷てぇな」

彼はまた笑った。
何がそんなに面白いのか。

「俺、瀬呂って言うんだけど」
「だから?」
「気が向いたら覚えといてよ、霧矢」

じっと彼を見つめてから 目を逸らす。

「興味ない」
「辛辣だな〜」

視線を逸らした先 また誰かに向けられた視線。
じっとこちらを睨む彼に首を傾げる。
本当に居心地が悪い空間だ。

「見てんじゃねェよ」
「は?」

見てたのお前だろ。
こーいうやつ、本当に腹立つ。

「ちょ!?やめとけって、霧矢」

肩をポンポンと叩かれて舌打ちをする。
学内で出会ってなきゃ 確実に殺すのに。

「意外と喧嘩っ早いのね?」
「別に。売られたら買うけどね」
「そういうとこよ、、」

その後の体力測定も無事に終わった。
それのおかげでなんとなく名前とそれぞれの個性のが把握できた。
ただ一人、緑谷を除いて。
個性を驚くほどに使わないから、彼を観察対象にしてみたのだがボール投げで見せた 超パワー。
指先だけにパワーを集中させて投げてたな。
けど、怪我してるとこ見ると体に個性が合ってない。
そんな彼にどういうことだ!?と掴みかかろうとする爆豪。
さっきまでアイツは無個性だ!って爆豪も騒いでいた。

「無個性か」

教室に戻りながら 保健室に向かう緑谷に視線を向ける。
もし本当に彼が無個性だったのだとしたら、誰かから個性を譲り受けたのか?俺のように。
そんなことできる人が先生以外にいるとしたら…おそらくオールマイトのみ。
アイツは要観察対象だな。


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