ヤクザを喰らう

数日後。
再び弔くんからの招集。
今度は俺の実験場の二階のフロアだった。
黒霧を除き全員が集まっているその場で、弔くんは八斎會との協力を俺たちに伝えた。

「八斎會と協力するだって…!?」
「ああ!何度も言わせるな。あちらの計画には充分な旨みがある!トガとトゥワイス、今日からおまえらはヤクザだ」
「つまんねぇ冗談だ。面白ぇよ死柄木…!」

詰め寄ったトゥワイスを、弔くんは無視して話を続ける。

「黒霧も持っていかれそうだったが粘ったよ。まァ実際あいつはあいつで今大事な案件に取りかかってるしな…。移動については地下からのルートで」
「何が旨みだよ!!冷徹ぶりゃリーダーか!?感化されちまったかあのマスク野郎に!れあいつはマグ姉を殺したんだぞ。あいつはMr.コンプレスの腕をぶっとばしたんだぞ!あいつは…俺が不用意に連れてきたんだぞ!!?」

マスクを外した彼の目は責任を感じている目だった。
後悔し続けてきたんだろう、悩み続けてきたんだろう。
彼の目は、そんな目だった。

「俺だって人間だぞ…!?死柄木…!トガちゃんもよォ!何とか言えよ!」
「弔くんにとって私たちはなんでしょう?私にとって連合は気持ちが良い。ステ様がキッカケでした。私も私のやりたいように…生きやすい世の中に出来るものならしてみたいと思うのです。ねェ弔くん。何のために辛くて嫌なことをしなきゃいけないの?」

踊るようにクルクルと舞いながら、弔くんに近づき 彼女は彼の首にナイフを向けた。

「…そうだな」

弔くんはそのナイフを避けることもせず、お父さんを外して 少しだけ微笑んだ。

「俺とおまえたちの為だ。向こうは連合の機動力を削ぎ且つ有用なおまえらを懐柔したいんだろう。外堀から取り込んで従えたいんだ。ハナから対等になんて考えてもいないのさ。トゥワイス、責任を取らせろと言ってたな。こういう取り方もある。俺は…」

おまえたちを信じてる、と弔くんは笑みを浮かべて2人に伝えた。

「心喰、」
「はーい」
「お前も向こうに出向になる。雄英の事は伏せたが、四六時中つきっきりではいられないことは伝えてあるから」

放課後と週末は、彼らのところへ行ってくれと 彼は言った。

「了解。元々、俺としてもそうしてもらうつもりだったから」
「くれぐれも、無理はしないでくれよ。3人とも」
「仰せのままに」





長い長い地下通路を通りやっと辿り着いた部屋。
そこにはズラリと人が並んでいた。

「上からの命令で仕方なく来ました。トガです」
「久しぶりだなトリ野郎。てめぇ絶対許さねェぞ。よろしくお願いします」
「…ハートイーターです」

ハートイーター!?とざわついた部屋の中。
マスクの下、2人の態度の悪さに溜息をついた。
まぁ、納得するにしきれてないだろうからな 2人は。

「遅れてすいやせん、オーバーホール。念の為一番遠いルートで来ましたんで」
「ご苦労」
「敵連合か!いいな、喧嘩しよう!」

嫌だねぇと呟いたヒミコちゃんが俺の腕に、腕を絡める。

「どうしたの?」
「嫌だなぁって思っただけです」
「…そーだね」

ソファに座るオーバーホールは俺たちのことをじっくり眺めた後、マグネの件はすまなかったなと 言った。
額の傷跡を指で、摩る動作が妙にわざとらしい。

「俺も彼を殺したくはなかったんだ。恨む気持ちもわかるが協力関係となった以上計画遂行に助力してほしい」
「彼女だ…!!てめェ 最初に会った時もそうやって上っ面繕ってたなァ!」
「トゥワイス、落ち着いて」

俺の言葉に彼は大人しくなり、「で、何したらいいの?」と首を傾げた。

「組の者同様我々の指示に従ってくれればいい。その為にもまずは個性の詳細を教えてくれ。情報交換、もしもの時連携を取りやすいようにしておきたい」
「もしもの時ならもしもの時に教えます。あなた達のことまだ好きじゃないので」

ヒミコちゃんの言葉に、怒鳴ったソファに座ってた人形。

「…オーバーホール、こちらからも言わせて貰うけど。協力と謳うなら、そちらもそれ相応の態度を見せてくれないと。ねぇ?」

一歩前に踏み出せば一気に突き刺さる警戒と殺意。

「受け入れる気があるのかないのか、はっきりしてくれる?」
「…うちのが悪かったよ。受け入れる気でいる。すぐに信用するというのは難しいだろうけどな、お互いに」
「そう。じゃあ、こちらは態度だけは見せておくね。そちらに、協力するつもりがあるっていう」

ヒミコちゃんが腕を離して、俺は警戒を体に感じながら彼に歩み寄り額の傷跡に手を伸ばす。
咄嗟に避けようとした彼に触れない、と伝えれば 視線だけこちらに向けた。
青白い光を放ち、消えていく傷跡。
手袋をした彼の指が、傷のあった場所を摩った。

「…俺の個性は構築。理解できることが大前提ではあるけれど 理解したものなら材料があれば望んだ形に構築することができる」
「…なるほどな。それで、お金なしに量産ができると」

そういうこと、と言って彼の額にかざしていた手を下ろした。
2人とは事前に打ち合わせをしてある。
俺の本当の個性は伝えない、と。
量産できることを先に伝えてしまっていたから今回は、錬金術を使わなければならない。
だが、錬金術は特殊すぎて知られれば雄英の霧矢心と特定される可能性がある。
だから本当の個性を伝えず、こういった形をとることになった。

2人の元に戻れば、やっと刺さっていた警戒が薄れた。

「あーだめだ やっぱダメ!なってないね!決めたね!感じ悪いもん!教えてやんねー!」

そう言いながらも饒舌に自分の個性を語る彼をヒミコちゃんはジト目で見つめていた。

「2人ともそんなんじゃ、私がバカみたいです。…私は血を摂るとその人に変身できます!」
「…なるほど」
「もう一つ教えてくれ。死柄木から裏切りの予定を聞かされたか?」

いいえ、と俺たち3人は答えた。
だが2人はどこか不思議そうに顔を見合わせる。
無効化の個性を最初から発動してたけど、何かしらの個性がかけられてそうだな。
あのオーバーホールの後ろに立つ奴からの質問だと、2人は様子がおかしくなる。

「オッケーだ。これから八斎會の一員として迎える。だが手配犯のおまえらを自由にさせるわけにもいかない。指示のない限りこの地下居住スペースから出ないよう頼む」
「軟禁かよ!!」
「ええー自由でいたい!」

ハートイーターは俺と来てくれ、と彼はソファを立つ。

「もう少し信用できる仲になったら自由にしてやれるさ。君ら次第だ」
「いつまでもそんな態度じゃ許さねぇってこった。わかったら言う通りにしやがれチンピラ共が!!俺たちはヤクザだナメてんじゃねェぞ!!」

小さな人形はまた声を荒げる。

「俺たちは再び裏から社会を牛耳る!ヤクザの復権!床に伏せ動けぬ組長の宿願!!それを果たす!甘い汁すすれるんだ!感謝するんだよてめェらはァ!」

人形から覗く血走った眼。
何かを言い返してしまいそうな2人より先に彼に歩み寄り しゃがみこむ。

「ねぇ、ヤクザをナメるなと言うなら。俺たち敵連合もナメちゃダメだよ。そっちと違って、俺たちは殺し専門に生きてきたんだがら。死にたくないでしょ?」
「あ゛!?!さっきから何様だクソ野郎!!」
「あんまりキャンキャン吠えるなよ、雑魚がバレるぞ」

発した殺気にその空間がシンっと静まり返る。

「死にたくないでしょ?」

仮面の口のチャックをわざとらしくゆっくりと開いて、ニィとマスクの下で笑う。

「アンタの心臓は、どんな味かな?」

わざとらしくゆっくりと、唇を舐めて人形の頭を鷲掴みにする。
自分に向けられた銃。

「安心しろよ。ヤクザを喰うのは初めてだけど。血の一滴も残さず、喰べてあげるからね」

心喰くん!とヒミコちゃんがナイフに手を伸ばすのが見えた。
これ以上は揉めるだけだな。
両手を上げて、ゆっくりと立ち上がる。

「だから、言ったじゃん。そっちも受け入れるなりの態度を見せてよ。悪いけど、ヒミコちゃんとトゥワイスにこれ以上酷い扱いをするなら、こちらも黙ってはいないからね」
「お前ら、銃を下ろせ。いくぞ、ハートイーター」
「はーい。何かあったら連絡してね、ヒミコちゃん トゥワイス」

ひらりと手を振って、マスクのチャックを閉めながら オーバーホールの後を追う。

「まず、お前の個性の実力を見せて欲しい」
「俺にできる限りのことであれば」

信用を得なければ情報は手に入らないし。
だが、あまり彼らに近付きすぎればヒミコちゃん達との連携がうまくいかなくなる。
様子を見ながら、上手くやらないとな。


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