答えを聞かせて


インターン参加組の動きがここ最近大きく変わった。
緑谷出久はどこか様子が変だし。

「まぁ、動き出すだろうな…」
「霧矢少年、少しいいかな」

寮に帰ろうとしていた俺を呼び止めたのはオールマイトだった。
どうした?と周りから聞こえる声と緑谷と爆豪の視線。
連れていかれた先は 仮眠室だった。
向かいに座った彼がテーブルの上に二枚の紙を置いた。
内容に視線を落とせば、ハートイーターの歯型とDNAと合致しなかったことを 表記していた。

「申し訳ない。疑ってしまって、嫌な思いをさせただろう」
「いえ、別に。疑いが晴れたのであれば」
「…そうは、言っても…」

ハートイーターのものとされる歯型の資料に手を伸ばす。
最近の科学はすごいな。
並べられた文字を眺めながら、そんな呑気なことを考えていた。

「けど、×××くん?って子 と俺の照会は?」
「それが、この少年のDNAがなくてね。勝手に申し訳ないが、戸籍を調べさせてもらって 別人だとわかっている」
「そうですか」

黒霧には血液型の書き換えは頼んだが、DNAまで消したのか?
それか、実の両親の方か…

「本当にすまない」
「仕方ないですよ。信じたくとも疑わなければ、ならない立場ですもんね。ヒーローってのは」

紙をテーブルに戻してにこり、と笑う。

「見つかりそうですか、内通者は」
「え!?」
「あんな事件があったのに、教師陣の入れ替えは一切なし。生徒全員を寮に入れた、となれば まぁそういうことなのかな と」

全寮制にはそんな意図はないよ、と彼は言うが 俺の問いかけに見せた一瞬の動揺が答えだろう。

「別に、仕方のないことだと思いますよ。このまま、好きにさせるわけにもいかないですもんね。もう、自分の手で守れないのならば せめて力になれるよう動くしかない」

その努力が、俺の無実を証明してくれるのだから皮肉なものだ。

「…俺の無実が証明されたならよかったです」
「本当に申し訳なかった…」
「お気になさらず。それじゃ、自分はこれで」

いつも通り寮に戻って、ゲートをくぐり八斎會の邸宅へ。
薄暗い廊下を抜けて、コンコンとノックをしてから開いた扉。
ベッドの上にいた少女がぴょんっと体を起こした。

「魔法使いさん!」
「こんにちは。今日は痛いところはない?」
「こんにちは。ないです」

あの日からこの少女に1日1回は会いに行くようにしていた。
オーバーホールもこの子が逃げ出さないなら別に良い、と咎めることはしなかった。
あの弾丸の作り方の理解は出来たし、この間練習で作った1つは未完成品の方だったがしっかりとした効能があった。
後はこの材料となる少女を手に入れられれば 文句はないのだが。

「またここにいたのか」

ノックもなく開いたドア。
呆れた目をオーバーホールは見せていた。

「毎日会いに来る約束だからね」
「…物好きだな。少しいいか?話がある」

連れられた先は初めて入る部屋だった。
周りに人の気配はなく、本当に俺とオーバーホール2人きりの空間。

「ヒーロー達が動いてる。恐らく、明日…うちに乗り込んでくるだろう」
「…へぇ」
「力を貸してもらうぞ、お前らにも」

元々そういう約束なのだから、断る理由はなく 了解と頷いた。

「…それから、」
「ん?」
「俺の仲間になれ」

差し出された手袋に隠された手。
マグネの時も思ったが、彼も俺と似た所がある。

「今、協力関係じゃん」

そういうことじゃない、ってことは言われずともわかった。
別に、嫌いなわけでもない。
気は合う方だろうし 目指す所もそう遠くはない。

「死柄木弔よりも、俺はお前を有用に扱える。目指す先も俺の方が近いはずだ」
「言いたいことはわかるよ。まぁ、考えてみる。答えは…事が終わってからにしよう」

何か言いたげな視線を俺に向けたが、わかったと彼は頷いた。





一晩を八斎會の邸宅で明かし、次の日の朝。
予想通りヒーロー達が来たらしい。
人数の把握は出来てないが、相当なものだろう。

「騒がしいな…ちゃんと役に立ってるのかあいつらは…」
「言いたかないですが…八斎會は終わりですね」
「組長と俺さえいれば八斎會は死なない。ほとんどの子分は組長派で俺の考えについて来やしない。俺こそが誰よりも組長の意思を尊重しているのにな」

クロノに抱かれたエリちゃんが助けを求めるように俺に視線を寄越す。

「…この完成品と…血清さえあれば極道を再び返り咲かせることができる。今回の件も好事家にとっちゃいい話のネタになるりヒーローが恐れる薬。奴らの好む響きだ。喜んで出資してくれるさ」

目の前を通り過ぎていく2人とエリちゃん。

「というわけで、少しは働け。出向組」
「はーい」
「任せとけ オーバーホール」

ハートイーター、とオーバーホールが俺を呼んだ。

「約束通り、事が終われば返事を聞かせてもらう」
「わかってるよ。お互い、無事に終わるといいね」

彼らに背を向けて歩き出す。

「なんのお話?」
「いや、気にしなくていいよ。ねぇ、2人にさ お願いがあるんだけど」

オーバーホール達としっかり距離を取ったのを確認して、声を潜める。

「ちょっと、別行動しててもいい?」
「いいぜ!いや、ダメだろ!?」
「どうしてです?」

オーバーホールにとって、俺の個性は特別だった。
だから2人と違いある程度自由を得ていたし、エリちゃんとの接触や作り方を教えることを許された。

「出向してるのにご褒美なしじゃ、やってられなくない?ちょっと、欲しいものがあるんだ」
「…わかりました!後で合流しましょうね」
「こっちは任せとけ!自分勝手だな、お前は!」

2人と別れて、歩いていけば何故かめちゃくちゃになった道。

「何がどうなってんのかね」

壁に手を触れ、分解しつつ道を進んだ。
向かう先はただ1つ。





「状況は!?」
「ナイトアイは後方にいます。周辺住民には避難を呼びかけました。治崎はデクくんが!けど!様子がおかしい!!」

地上に上がり聞こえた声は麗日のもの。
蛙吹とイレイザーヘッド、ビッグ3と紹介された先輩達の姿もある。
取り押さえられたオーバーホールと死にかけのナイトアイ。
耳をつんざく叫び声は少女のものだろう。

「エリちゃん、」

ヒーロー達の前で、堂々と少女に歩み寄る。
涙がこぼれ落ちる瞳が俺を写して、微かに助けてと口を動かした気がした。

「大丈夫だよ、また 魔法をかけてあげる」

そっと少女に触れれば、暴走していた個性がピタリと止まる。

「魔法、使い…さん」

少女の傍らに倒れるのはやはり、緑谷だった。

「ハートイーター…!?」

ぐったりとする緑谷が視線だけ、俺に向けた。

「…エリちゃん、この間の答えを聞かせて」
「こたえ…」
「誰の手を、掴む?」

少女に差し出した手。
その瞳は前よりも迷いを見せた。

「行っちゃ、ダメだ…エリちゃん…」

息絶え絶え、エリちゃんの手を掴み緑谷が言う。

「いいよ、エリちゃんの自由だから」

少女の頭を撫でてやれば、涙で濡れた頬にまた涙が伝う。

「君は、君のために生きればいいよ。無理強いはしない」
「わたしの、ため…」
「君の人生だからね」

頬の涙を拭って、首を傾げた。

「敵が…何言ってるんだ…!」

手に入るならこの少女が欲しかった。
個性を消す銃弾を作れるなんて、魅力的だ。
だが、生身の人間を囲うのは正直リスクがでかい。
今回の八斎會のようにならないとも、限らない。
だから、ほんの僅かな完成品と材料となる血肉がある程度手に入ればいい。
さっき、オーバーホール達が逃げた後 材料の貯蓄を盗んできた。
これだけあれば、いくらか銃弾を作れるだろう。
彼女はぎゅっと緑谷の手を握り返した。

「答えは、それでいいんだね?」

俺の問いかけに少女は頷いた。

「そうか、残念だね。次会う時は敵同士かもね」

少女の頬から離れた手。
見開かれた瞳に俺の仮面が映る。

「悲しむことはないよ、最初から…俺たちは敵同士なんだからね」
「ま、て…!ハートイーター…!!」
「あぁ、もう。相変わらず邪魔だなぁ、お前は」

緑谷の頭に触れ、体を無効化して立ち上がる。

「これから先その個性に、苦しめられるかもしれない」
「…うん、」
「けど、間違えちゃダメだよ?俺に…喰われたくはないでしょ?」

少女の額に触れて、無効化をかければ倒れる緑谷に被さるように少女は倒れた。

「緑谷出久、言っただろ?全てを救うなんて不可能だ。ついに、犠牲が出たぞ。なぁ、それでもお前の正義は正しいか?」

聞こえてはいない。
それでも聞かずにはいられなかった。

振り返ればヒーロー達は臨戦態勢。
まだやるべきことがあるし、戦う気はない。
地面に叩きつけた閃光弾と撒き散らした煙幕。

「さてと、最後にもう一仕事終わらせますか」




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