持つ者 持たざる者


その日の授業はB組との合同演習だった。
4人組を作り、1チームずつ対戦。
ゲストと称され、心操が加わったことで どこかの1戦だけは5vs5になるらしい。
みんなの成長した個性を見るには丁度いいだろう。
使うタイミングがあれば、首にぶら下げた賢者の石も試したいし。

一度 放課後にグラウンドを借りて使ったが 正直想像以上だった。
等価交換を無視するとは書いてあったけど、あそこまでとは思わないじゃん?
使い方次第では、それこそ個性を作ることも叶うのではないかと期待せずにはいられなかった。

くじ引きの結果 俺は第5チーム。
メンバーは緑谷、麗日、芦戸、峰田。
対戦相手には 心操もいる。

第1試合を見ながら、声が変えられるようになったのかと彼を見つめる。
首に巻いたのは捕縛帯。
イレイザーヘッドと同じもののようだ。

「こっちも対策練らなきゃ」

第1試合が終わり、緑谷はそう言って俺を見た。

「…協力、してくれるよね」

彼の言葉はどこか緊張しているようだった。
まぁ、散々あれだけ煽ってきたし 仕方はないだろうけど。
そういう態度さえも イライラする。
わざわざオールマイトが見に来ているのも 彼の個性を育てる為だろうし。

「そっちができるんならな」
「なんだよ、なんで険悪ムード!?」
「協力して、勝とうよ!!」

芦戸のその言葉に俺は何も答えはしなかった。

「今できること、アイデア挙げていこう」
「よしゃ!」
「コンボつくろー」

まず相手の個性から、と緑谷がノートを捲る。
心操が洗脳、物間がコピー、柳がポルターガイスト、小大がサイズ、庄田がツインインパクト。

「面倒なのは心操くんの洗脳だね。コミュニケーションが取れなくなる可能性がある。あと、物間くんのコピー…」
「物間のコピーは緑谷のそれもコピーできんの?」
「え?」

OFAってそんな簡単にコピーできるもん?
できるなら、それを受け継ぐことはできるのか?

「え、と…それ、どういう意味で?」
「入学当初、体ぶっ壊してたよな?そうならずに、使えんの?」
「そ、れは…たしかに」

全てコピーできるわけじゃないのか?と彼はまたブツブツと1人自分の世界に沈む。

「加えて言えば、恐らく。物間は俺の個性は使えない」
「使えないって、なんで?」
「錬金術は理解が大前提。理解した上で、それを錬成陣に落とし込む。理解してなきゃ無個性同然だ」

1つ、地面を動かすにも色んなことを理解しなくちゃいけない。
頭の中に膨大な知識が必要なのだ。
この個性を手に入れたからこそ、身につけた知識だ。
きっと彼には、それはない。

「霧矢くんが物間くんと戦うのが 得策かな…」





「緑谷少年 ちょっと」

やっぱ、霧矢くんとだけは上手くいかない。
協力はしようとしてくれるが、根本に嫌悪がある。
一つ一つの感情に棘がある。

作戦会議をしながらそんなことを考えていれば オールマイトが僕を手招いた。

「引き続き何か違和感などは?」
「特にないです」
「そうか。お師匠が何か仰っていなかったかグラントリノにも伺ってみるつもりだ。くれぐれも気をつけてくれ。5戦目…面影のきっかけとなった心操少年がいる」

夜更けの暴発。
今は落ち着いてるようだけど、戦闘となればわからない。
そんなことになればまた、霧矢くんに何か言われそうだな…。

「オイ」
「わ!っちゃんびっくりした!」
「てめーら人に守秘強要しといてバンバンコソコソしてんじゃねェぞ」

霧矢にバレかけてんぞ、とかっちゃんが視線を少し離れたところにいる霧矢くんに向けた。

「え、なんで!?」
「てめーらがコソコソやってっからだろ。最初からそうだったとはいえ、疑問に思うやつがいてもおかしくねぇだろ。それに、霧矢は普通じゃねぇ」

普通じゃない。
その言葉の意味はなんもなく、分かる気がした。

「アイツは オールマイト、アンタのことが嫌いだ。だから、アンタを引き継いだクソデクのことも直感的に嫌ってる」
「…どうしてか、わかるかい?爆豪少年」
「救われなかったからだ」

かっちゃんが自分の右腕を摩る。
その動作は よく霧矢くんがしているのと重なった。

「誰でも救えるって 全てを救えるって信じてる 謳ってるアンタらは アイツからすりゃ矛盾した存在。だって誰も、アイツを救っちゃくれなかったから」

何も言えなかった。
誰かを犠牲にして 救ってきた 僕を咎める声がまた聞こえた気がした。
ナイトアイの死。ルミリオンの個性喪失。
それに直面して初めて、彼の言葉の真意を知った。

「無個性の時間が長かった。右腕も失って、地獄を生きてきた。だから、人より勘が鋭い。生きるために」

気ぃつけろや、とかっちゃんは言って舌打ちをした。

「で?何かあったんか。OFA」





やっぱり爆豪も何か知ってそうだな。
今まで2人で話していた彼らの元に 自ら爆豪が歩み寄っていった。

「霧矢」
「あ、はい」

そんな彼らを眺めていればイレイザーヘッドが俺を手招いた。

「義手の調子はどうなんだ?メンテに行ってから何回か訓練はしてるが、ここまで大きいのは久しぶりだろ」
「あー、はい。一応、大丈夫だと思います」
「一応ってなんだ」

別に調子が悪かったわけじゃないからな。
イレイザーの隣に立ってた心操も少しだけ心配そうに俺を見た。

「素材は強くしてあるので、水素爆発起こしても 腕だけは残ります」
「おい、」
「冗談です。本当のことですけど。接続も今は問題ないので、大丈夫です。冬は少し痛みますけどね」

古傷が痛むあれです、と言えばなるほどなと頷いた。

「腕が取れても今回は試合は止めない」
「わかってます」

この両腕は錬成陣の代わりなのだ。
片腕を失えば、錬成陣を書かねば錬成ができなくなる。
義手が壊れれば、使えるのは焔のみになるだろう。
代わりの腕を持ち歩くわけにもいかないし、仕方がないことだけど。
この時ばかりは生身の腕ってものが恋しくなるものだ。

「話は終わりだ。悪いな、呼んで」
「いえ、気にかけてくださってありがとうございます。心操、」
「え、」

あの日から、彼は迷いはしなかったのだろう。
その道標になったのは、同じ捕縛帯を巻くイレイザーヘッドだろう。

「迷わず来たんだね」

俺の言葉に目を瞬かせてから こくりと頷いた。

「信じるって決めたから」
「そっか」

あの時の予想通り、立ちはだかる壁となったか。
厄介なんだよね。
無効化使ってなくちゃ、個性解除できないから。

「今回は、負けない」
「俺も負けるつもりはないよ」

けど、残念だ。
嫌いじゃなかったんだけどな、彼の個性への劣等感。
けどやはり、個性を持つ者は持たざる者と交わることはない。

根本はそこなんだ。
爆豪は俺に選ぶ強さがあると言った。
確かに、今はそうかもしれない。
先生から貰った、無効化と錬金術。
便利だと思う。
強くなれたと思う。
けど、本音は 自分の中にある 個性さえも憎い。
弔くんにも言ったこと なかったけどね。

「離れた今だから、わかるんだよね」

チームの元に戻りながら1人呟く。

「持ってる奴らは最初から、持ってる奴らでしかない。持たざる者とは 違うんだ」

だから、弔くんも簡単に 俺を手放すことができた。
真意が違かったとしても、ね。

「オールマイトとの話は終わったの?」

戻った先、ちょうど緑谷もオールマイトとの話を終えて戻って来ていた。
俺の言葉に少しだけ緑谷は表情を強張らせた。

「今度は3人で秘密の共有?流石は幼馴染ってやつ?」
「な、なんのこと?」
「…緑谷はもう少し、嘘が上手になるといいね」

爆豪も共有者確定だな。
オールマイトもそのことを知っている状態。
と、なれば この間の会話は伝わっていることだろう。
まぁ、いいか。
多少踏み込んだ所で、俺がハートイーターと疑われることはない。
その証拠を作ったのは 紛れも無い彼らの心酔する オールマイトだ。




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