知らない力

「とりあえず心操でいんだよな。不安になってきた。洗脳されたくねーよ」
「あんまそこだけに捉われんよーにね。向こうは姿を見せなくてもどっから来るかわかんない攻撃が揃っとるもん」

浮かす、溶かす、くっつける、と個性を出した彼らはがっくしと肩を落とす。

「不利なんだよなー。待てないし、攻められんし」
「やっぱオイラのもぎもぎグレープ畑作戦いこうぜ」
「誰も引っかかんないよ。とにかく!先に見つけて罠にハメる!これね!」

その囮役に僕が、と緑谷が上から飛び降りた。

「どう?なんか個性がへんかもとか言ってたけど」
「うん。全然なんともないや。いつも通り!ただ…あの4セット目見せられたら向こうは僕を警戒すると思う!いつも以上に動かなきゃ」
「大丈夫かよー…おまえ頼りだぜ?」

大丈夫、絶対勝てると彼は少しだけ笑った。
そういうとこからオールマイトに似ていくのか。

「それに、霧矢くんもいるから。物間くんを見つけたら誘導するね」
「あぁ、これ」
「これって…」

渡したのは小さな閃光弾。

「声に吊られる可能性があるから。見つけたらそれ、上空に投げて使って。駆けつけるから」
「うん、わかった」

飛び出していった緑谷を見送り、俺は地面に錬成陣を描く。
どこでどう戦うかわからないけど、仕込みはあって困るものではないだろうし。

キャア、と麗日の声。
当の本人は真横にいるし、心操によるものだろう。
無効化を発動させて、周りを見ながら進めば上空で閃光弾が弾けた。

「こっちは任せる」
「うん!」

駆け付けた先、物間の姿が見えた。

「心操くんとこんな話をしたよ。恵まれた人間が世の中をブチ壊す」

物間のその言葉に義手の付け根が痛んだ気がした。

「彼の友人なら教えてよ。爆豪くんさ!何故 彼は平然と笑ってられるんだ?平和の象徴を終わらせた張本人がさァ」
「緑谷!」

緑谷の苛立ちが見えた。
そして、攻撃をしようとした瞬間、彼が目を見開いた。
溢れ出た黒い何か。

「うゔゔゔゔうううううう!」

緑谷の呻き声。

「まーた知らない力か、嫌になる」

知らない力?成長?

「…先生、聞いてないよ」
「逃げて!」

両手を合わせ、地面につける。
なんだあの広範囲の攻撃。
黒い糸?針金?
OFAはそんな個性じゃなかったはずだ。
じゃあ、あれはなんだ?

自分を守るように壁を作って、暴走する緑谷を見つめた。

「心操くん!」

避けた物間がそう叫んだ。
なるほど、心操も近くにいるのか。

「こんな早く、使うことになるとはね」

ネックレスに触れて、石を覆い隠すものを取り払う。
緑谷がどうなろうが知ったこっちゃないが、他は守っておいた方がいい。
ここで人が死ねばまた、俺は動きにくくなる。

両手を合わせ、地面につける。
黒い糸が伸びる先、全てを守るように壁を生み出す。

「は?」

驚いたように、物間が俺を見た。

あれ、個性なのか?
無効化で止まるのか?
いや、そんな表立ったことできない。
地面に拘束する?あの糸の強度とどっちが強い?

そんなこと考えていれば、暴走する緑谷に麗日が抱きつく。
そして、心操を呼んだ。

「心操くん!!洗脳を!!デクくん止めてあげて!!」
「っ!!!…緑谷ァ!!俺と、戦おうぜ」

心操の声。
緑谷が呻きながら、その言葉に「応!!」と答えた。
その瞬間、体の中に吸い込まれていく、黒い糸。

色んなところに作った壁を解いて、自然と笑ってしまっていた自分の口を手のひらで隠した。

先生、これも見えてた未来?
厄介なもんばっかり 残しやがって。
強くなることが憎たらしいのに、それ以上に殺し甲斐がありそうだと思ってしまう。

「大丈夫!?」
「麗日さ…離れて 危ないよ!」
「心操くんの洗脳でおさまった。なんともない?」

話す2人のもとに行こうとする物間の前に壁を作る。

「お前の相手、俺ね」
「はァ!?」
「緑谷、動けねぇなら くたばれ」

物間の伸ばされた手をいなし、飛んできた物を右腕で叩き落とす。

「いたァァ!!」
「3人ともブジ!?」

峰田と芦戸もここへ来た。
大暴れしてくれちゃったせいで、作戦なんてなくなったな。
2人だけじゃない 全員ここに、集まった。

「乱戦だ!!」

誰かがそう、叫んだ。

「緑谷、答えろ」
「…いける!」

心操の捕縛帯を掴んだ緑谷がこっちを見た。

「そっちは任せた」
「何様だよ」
「よそ見しないで貰えるかなァ!?貰ったよ!!君の力!!」

両手を合わせた物間に俺は笑った。

「馬鹿には、使えねぇよ」
「!?!」

指を弾き起こした炎。
後ろによろけた彼を地面に拘束する。

「ああもう…っスカかよ!」

錬成した拘束具で物間を縛り、肩に担ぐ。
緑谷は心操との戦闘に入ったらしい。
ポルターガイストの個性でポンポンと物が飛んでくるのを避けながら牢屋に向かう。

「緑谷に隠れたけど、お前も新しい力かよ」
「何が?」

普通に返事をしたことに彼が目を見開いた。

「心操から聞いてない?俺には効かないって」
「…最悪だな」
「悪いね」

今まで、離れたところにはできなかっただろと彼は言う。

「目敏いね」
「…いいね、どいつもこいつも「恵まれてて?」…人の言葉奪うなよ」
「言いたいことは、わかるからな」

よく言うよ、と彼は吐き捨てた。

「俺からすりゃ、アンタの方が恵まれてるけどね」
「1人ではヒーローになる事が出来ないのに?」
「それでも、個性を持って 愛されてきただろ」

恵まれてるのに、恵まれてないと思うのは 自分より下の人間を知らないだけ。
いつも上ばかりを見ているから。
何かに憧れてばかりいるから。
彼を牢屋に放り込み、入り口を閉める。

「1人でヒーロー、かっこいいねぇ」
「馬鹿にしてんのかよ」
「まさか。個性を一つしか持たないってことは、自分の不得意な現場では無力ってことだよ」

戦闘には向き不向きがある。
水辺で炎の個性が使えないように、火事場で木々の個性が使えないように。

「可能性があるだけ、マシじゃない?どの場面でも、自分を生かせるってさ」
「…慰めかよ」
「いや、独り言」

牢屋を離れようとしてあぁ、そうだと立ち止まる。

「一個言い忘れてた」
「なんだよ」
「死に触れたこともないくせに、不幸を語ってんじゃねぇよ」

見開かれた目。
彼に笑いかけて、ネックレスを握りしめて赤い石を覆い隠す。
使い方は無限大だな、この石は。

今度は口元が緩むのを隠すこともせず、まだ乱戦続く現場に戻った。





「第5セット!なんだか危険な場面もあったけど5-0でA組の勝利よ!これにて5セット全て終了です。全セット皆敵を知り己を知りよく健闘しました」

最終結果が伝えられ、イレイザーヘッドが緑谷を指差し「何なんだお前」と言った。
まぁ、もっともな質問だよな。

「僕にも…まだハッキリわからないです。力が溢れて抑えられなかった。今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで。僕自身すごく怖かった。でも、麗日さんと心操くんが止めてくれておかげでそうじゃないってすぐに気付くことができました」

そういえば、読んでいた本であった。
個性特異点。
この世に広まる、終末論の一つだ。
個性は親から子へ遺伝し、片親、もしくは両方の特徴を引き継いだ個性を発現する。
個性は世代を重ねるごとにより複雑化し、より強化されていき、このままいくと手のつけられないものになる時代が到来するのではないかというもの。

OFAがそうだとしたら?
代々受け継がれていく中で、先人の特徴を引き継ぎ 複雑に そして強化されているのだとしたら?
あの黒い糸も 過去の誰かの個性だったとしたら?
もしも、この予想が当たっていたとしたら アイツはまだ覚醒する個性があるはず。

「心操くんが洗脳で意識を奪ってくれなかったらどうなるかわからなかった。2人ともありがとう」
「ホントね!緑谷くんの暴走に対して心操くんはもちろん 麗日さんの迅速な判断は素晴らしかったわ!霧矢くんがチーム関係なくみんなや街を守ったところも!」

抱きついたもんねぇと芦戸にからかわれ、麗日は顔を真っ赤に染める。

「考え無しに飛び出しちゃったのでもうちょい冷静にならんといかんでした…。でも…何も出来なくて後悔するよりは良かったかな」
「良い成長をしてるな 麗日」
「俺は別に緑谷の為じゃないです。麗日に指示されて動いただけで。ていうか…本来敵である霧矢に守られていたし。 あれが治んなかったらこっちの負けは濃厚だった。…俺は緑谷と戦って勝ちたかったから止めました」

俯く心操にイレイザーが歩み寄る。

「偶々そうなっただけで。俺の心は自分の事で精一杯でした」
「誰もおまえにそこまで求めてないよ」

黙らす為か捕縛帯を引っ張ったイレイザーは心操を真剣な目で見つめた。

「ここにいる皆誰かを救えるヒーローになる為の訓練を日々積んでるんだ。いきなりそこまで到達したらそれこそオールマイト級の天才だ。人の為に、その思いばかり先行しても人は救えない。自分一人でどうにかする力がなければ他人なんて守れない。その点で言えばお前の動きは充分及第点だった」

ただ、今回のMVPは霧矢だな とイレイザーが俺を見た。

「最初から最後まで、冷静でいた。緑谷の暴走においても、焦る事なく人を守る為に動いた。その後も気を抜く事なく、物間を捕まえ 乱戦を制した」
「…違いますよ。緑谷の暴走で焦らなかったんじゃない。俺は緑谷がどうなろうが、知ったこっちゃなかっただけです。あのまま暴走してくたばってくれても、俺にとってなんの不利益もない。ただ、それに巻き添えくらうのが嫌だっただけ」

緑谷と目が合って、にこりと笑ってやる。

「現場だったら何人が巻き添いくって、死んでたかな」
「そんな言い方しなくてもええやん!」
「自分1人の暴走なら構わないよ。勝手にやって、勝手に死ね。けど、また人を巻き込んだぞ。あと何回、繰り返す?人を巻き込み、傷つけ。死人が出ても 懲りないか?」

やめなさい、とイレイザーが俺の頭を叩いた。

「言いたい事はわかるが、言い方ってもんがある。」

態とらしくブラドが咳払いをした。

「これから改めて審査に入るが恐らく…いや、十中八九!心操は2年からヒーロー科に入ってくる。お前ら中途に張り合われてんじゃねぇぞ」

先生に会えない今、OFAのことわかる人いるのか?
ドクター?
てか、あれ。
ドクターって、今何してんだろ。


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